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ココが誘拐





痩せ細った牛を引き摺ることは容易ではない

荒れた人家でギャング達が酒盛りをしている

革靴についた泥が絨毯に剥がされた

白い罪人が煙草を揉みつぶす

ココの周りのギャング達が卑しい

朽ちるのを待つばかりだ

首にかけた象牙のネックレスの値打ちが子供四人売っただけだ

夜風をたっぷりとすったラジエーターが休んでいる

ココが床の一点を凝視していた

ネズミの親子がとうに引越しを終えていた

壁に寄りかかり銃の手入れをするギャング

ステンドグラスの破片に月光を当てる

教会でダンスを踊るビニールシートを敷かれて

トラックに載ってやって来たのが難民と無声映画だ

「お前は、殺すにはもったいない。顔が好みだ。歌ってくれたら生かしてやってもいい」白い罪人が言った

ココが死に上半身を漬けることができたのがついさっきだった

命令で仕方なく口を開いた

蝶々の行く先がわからないのは触覚を切られたからだ

祈りなど粗野の前では無価値に等しい

埃が月光に当たると青白い炎に見えた

焼くことがない肉体と精神を蝕んでいくのだ

カツンカツンと一人のギャングが音を拳銃で鳴らす

ココは声が出せない

絞り出したのが奇声だ

足無し男が轢き殺された線路に朝食が散らばっている

ギャングのあおった酒が濡らす

ココが死を覚悟した

足の感覚が無くなった

気化したアルコールが地に付いた生を引き剥がしたのよ

隙あらば何度でも生にしがみ付こうとする

ギャングの一人がココ目掛け酒瓶を投げた

この時ココが死んだ

生者としての妄念が潰れた音をココが聞いた

死はかようにも人を強くさせる

自然と歌声が出るようになった

白い罪人が歌声に惚れた

猿が千切った羽虫の翅を丁寧に並べていた

死体は冷えて土と同化していた

レンガに落書きをしたスプレー缶はどこかにいった

ブランコは昔の争いのために撤去されていた

真夜中に誰かが湿気った茶葉に湯をかけた




後部座席のココの隣りに白い罪人がいた

ニワトリが柵からのり出し明けの空を見ていた

薬の切れた少女が寝床から落ちた

浮浪者がカラスを追いかけ回していた

ココを乗せた車が表通りを走る

女が店先で水浴びをしている

夫婦の言い争いが昂じて郵便局員が15分遅刻した

ココは

ビーカーの中に

入る

水面という境は厚い

煙草の吸い殻が入ると透き澄んでいった

ココが

押し出されていく

子供の吸うような粗悪なものではだめだ

上等なものでなければならない

背広と革靴と証券とインターネット

ギャングは麻薬と人身の売買のために使うのだ

底に見えるのは童話だ

教会の屋根に切り裂かれた風の声もする

力の前ではココに為す術もない

このままでは水面に激突する

白い罪人がココの手を握った

受け身の取り方がわからなかった

見慣れた町が凄まじい速さで変容してゆく

ギャングが動く早朝に町が動き始める

輸入車のエンジンの馬力が何より強い

車内こそが真理だったのだ

白い罪人の手がゴツゴツとしていた

ココが

激突した

何てことない体が砕けたなら浮かんできた部分だけで生きてゆけばよい

下へ落ちたのが口と左手と腹と両足だった

太陽が眩しい

右のギャングと左の白い罪人が歌う

それが生であり力の源だった

マッチを取り出し煙草の臭いが充満した

白い罪人の顔が太陽の光で輝いていた

ココが透き通ってゆく

示された道をただ歩けばよいだけだ




枯れた木の一本が手招きをして

汚水で酒を薄めて飲む

尖った石が足裏に刺さった

薬草をすり潰しながら煮出す

豚を屠って売りに行く父の姿が高潔か

増築されてゆく家々

四人の子供が手分けして露店を切盛りしている

今日も車が排ガスを吐き出す

悪魔は町の一点を見ていた

鴨の親子が河の畔で泳いでいた


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