ココが文字教える
「どうやったら文字を楽しく教えられるかしらん」ココが言った
少女が浮浪者の前でカゴに入った大麻を見せびらかした
ココの手の届かない窓枠がしゃくとり虫とカラスに掃かれた
白い仮面の少女がリンゴを持ってくる
屋根に登った大工が自分の建てた家が潰れるのを見た
土壁の家の角で老婆が泣きながら物乞いをしている
三輪車に乗って男が銃を運んでいる
一丁盗んでも誰も損をしない
ろくでなしの死体がアリや動物達のエサだ
血を求めよ
猿がココに赤いチェック柄の布地を渡した
「そうだわ! 黒板があればいいのよ! 弟が学校には黒板があると言っていたわ! 黒板はどこにあるかしらん」ココが言った
亡霊が枝にぶら下がって明日の天気を見る
ネオンライトが亡霊にとって有害なものだ
「お〜い! 悪魔さぁ〜ん!」ココが言った
悪魔タタンが現れた
「どうしたの? ココ」悪魔タタンが言った
「文字を教えるために黒板が欲しいの。どこにあるか知らない?」ココが言った
「心当たりがあるからちょっと待ってて、持ってきてあげるよ」悪魔タタンが言った
陽が落ちると人々の心根がカチリと変わるのだ
息の根を吸い尽くせ
どこかで宴のために肉が切られる
まだバッタと鈴虫しか来ていない
公衆便所の側に車を止めてギャング達が密談をしている
ラジオから流れる陽気な音楽がからっぽの人々を激しく動かす
子供の前で母親が寝るように死んだ
夜風で唇がひび割れていた
子供が最後の晩餐として母親に宴から分けてもらったリンゴの切れを唇に当てた
悪魔はまたゆっくりと町中を巡るのだ
魂を健やかにしろ
ココとしゃくとり虫とカラスと猿と白い仮面の少女が家でリンゴを食べていた
猿が家の灯りをつけた
荷車のバケツにタコを入れて引く男が子供から物見料を取るつもりだ
憎しみという言葉があればこの町に弾丸はいらなかったろうに
空薬莢を道しるべに
「お〜い、黒板を持って来たよぉ〜!」悪魔タタンが言った
朝になって黒板を立てかけてココが考えた
鳥が持っている果物を人々の脳天目掛けて投げつけるのだ
陽で変色した窓枠が精神病者に舐められた
太った運び屋が軍から卸した機関銃を持ってくる
外国から来た青年が妄想が現実に八つ裂きにされるのを見た
太陽の下で老人が呪文を唱えながらエネルギーを譲ってもらっている
荷車に乗ってココが人を集める
姿見を割って均等に分ける
集まった子供と浮浪者がにやにや笑ってココに手を伸ばす
「一緒に寝てよ」
猿がココに伸ばされた手に飛びかかった
ファッ! と子供と浮浪者が散った
カラフルに塗られたビール瓶には花が生けられてある
清い少女はどこへ行くのか分かった
引っかき傷が酒屋の鉄の看板に付いていた
鷹が目を突いた
悪魔が逃げた
窓辺で物憂げな女が編み物をし
路肩に落書きする少年が車に当たれ
親などどこにもいないだろう
ココが何かを見つけて白い仮面の少女に荷車を押してと言う
思い出が気付かぬうち現実に傷物にされるのだ
知ってはならぬ
押されるココの頬に飛んでいた羽虫が当たる
まだ肉欲なんてだしていない
きれいな木のドアの家の夫婦がよくわからぬ喧嘩をしている
ココの体に当たる乾いた熱い風がココの現実を快く揺さぶる
ココの速い体が過去へとぐにゃりと変形した
ココの髪が荷車の上下動でなびいていた
ココが荷車から落ちないように両手いっぱい両手を伸ばした
ココが家々の路地を駆けていくんだ生きればまた会える
ココが路地を歩く長兄の姿を見た
「お兄さん!」ココが言った
振り向いた長兄がココに気づいて歓喜の声をあげたのだ
憎しみという言葉があったならこの町に悪魔はいなかったろう
赤い落ち葉を道しるべに
長兄が手を振ってココの方に駆け寄って来た




