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白い罪人現る





青果店の麻布に果物の蜜が染み込んだ

井戸水で棚の奥の銀食器を洗う

母の陽気な声が借りてきた酒に反響した

腹を空かせた子カラスがやかましく鳴いている

教会の時計台が五時の鐘をうった

ココと三女が家中の布地を何かまわず床に散らかし

赤い電球の下で家なし子が寝るために可燃ゴミを集める

地べたで食事していたおやじの身体が震えて

革靴の足音がよく響く

祝い事にはあまり良い日和ではなさそうか




物置小屋から大きなテーブルクロスをココが取り出す

油のきれたランプシェードのほこりがきれいに拭かれた

母の楽しみがこの瑣末な宴だ

手製の旗がココの家の通りを賑やかにする

朽ちた廃家が野良にわとりの棲家だった

娘達が白いグラスを皆にわたす

電灯のプラグを奪い盗んだラジオにつなげ

ノイズと陽気な音楽に浮浪者も集まる

テーブルの上にチェリーはない




ココの兄姉が現れた

痩けた男が手拍子を打ち始める

宴はいつも唐突に始まりいつの間にか終わるものだ




親鶏とはぐれたひよこは凍えて路肩で死んでいた

いつ壊れるかと知れぬラジオは叩かれ凹んでいた

飲んだくれが小便を注ぐ排水路は粘菌で蠢いていた

死肉にすべり落ちた薬莢はにじんで変色した

外国車の輸入されたタイヤはラッピングされ贈与されていた

雲間から飛び出した月は一人の少女のために光っていた

モーターショーで配られた赤い風船は富裕者のテラスで浮いていた

廃木置き場で繁殖する幼虫は母の面影を求めていた

密入国者を載せたトラックは夜間の内に越境しようと走っていた

恋人との別れ話をしたリトルギャングの少年はウィリアムテルごっこをするふりして撃ち殺してしまった

町中に生息する凶暴アリは今日とてのしている肉に囓りついていた




盗電により灯った電球は天国に誘う道標だった




千切れた手作りの旗が宴を終わらせる

プラスチックのたらいに入れられた氷塊が溶けた

寂しげな寝息が木の電柱に反響する

町のどこかで陽気にラッパが吹かれ

教会の時計台が夜中の十二時を指す

疲れ切ったココが大の字に寝転ぶ

星が青い夜空でキラキラと光った

地べたの冷たさがココを安堵させて

さっきまでの騒ぎが風にのって飛んでいったようだ




二匹の野良犬がガソリンスタンドからポリタンクを盗んだ

血の付いた包丁がかぴかぴに乾燥していた

この町ではこの程度の宴なら毎日のようにどこかしらで催されていた




5つのフロントライトが真っ暗闇を引き裂いた

にわとりがはばたき暴れる

物音でココが飛び起きる

電灯のフィラメントが焼き切れた

家々のカーテンの金具にヒビが入る

リボルバーの輪胴の音を聞いたのが少年達だ

ボンネットに花弁を散らす

裏口から滑り出たのがココ

バタンとドアの閉まる音が響く

襲撃はいつもこのように始まりいつの間にか終わるものだ




「女子供も怯えていようが赦しを乞おうが皆殺しだ」

「この前追突して、ヴァンパーが歪んじまった」

「わるい、ちょっと小便に行ってくる」

「弾の確認はちゃんとしろよ」

「そういや、ガキがお前の車のタイヤを盗み見てたぞ」

「俺、最近月見酒にハマってるんだ」

「今日市場で赤い風船が飛んでくのを見た。あれ、どこ行ったんだろうなぁ」

「伝染蚊なんていわれるが、罹るヤツは運がねぇんだ」

「お前が仕切ってるトラック、上手くいってるか?」

「子供を撃ち殺した時の感覚は何とも言えねぇな!」

「最近、警察がウロウロしてるが、何か知らねぇか?」

「さぁ、そろそろ行くぞ。無駄話はそこまでだ」




ココの足が物置き小屋で震えた

ギャング達が銃を構えいきっている

軍隊から卸した小銃を抱えるのが白い罪人か

息を潜める人々がただならぬ空気を垂れ流す

照らされた往来が暗い

深い穴はモグラが掘ったものだ

父がいないのはもうココのことなどどうでもよいからだ






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