カラスの本心
潮風が穴ボコに引き寄せられた
鈴虫がまったく姿を消した
カラスが翼で切り方を教える
「そこに母さんの亡骸があるからって何だっていうんだ! 俺の脳はどこにあるんだ!」カラスが言った
土くれに引き寄せられ闇へ朝日は沈んだのだ
抜け殻が地平を駆けてゆく
ダイヤで屈折した血が散る
空で泳ぎながら明日を探した
靄に混ざった土がなによりも美しい
悪魔レキュスタが亡骸を持った
悪魔レキュスタの指が亡骸の腹に触れた
七色の鳥が空を撫でた
男と女が木陰で休んでいた
亡骸の腹を切ると脳が出てきた
羽虫の翅がむしり取られ撒かれた
女がうめき声を舌を噛み切ってとめた
道の昼寝をしていたと思えば死んでいたのだ
怠け者が岩の上で干からびていた
「君から脳を奪ったのはお母さんなんだよ」悪魔レキュスタが言った
「ああ、なんてことだ。俺の脳が母さんに食われていたなんて……。俺がどれだけ苦しんだかなんて亡骸のあなたにはわからないだろうに!ああ、あなたとの思い出がすべて腐肉のように落ちてゆく……。ああ、生きていれば、生きていれば、俺がどれほど救われたというのだ……。あなたはなぜ亡骸になろうと思いついたんだ!」カラスが言った
魚が結晶になって虫の羽衣になった
カラス達が叫びながら砂浜の方に飛んでいった
喜びはいつも窓の向こう側に見える
そう沖の貝殻に教えられたのだ
「さあ、カラスはいなくなった。先へ行こうか」悪魔レキュスタが言った
「ええ、そうね」ココが言った
「ねえ、海水は戻したほうがいい?」悪魔エドウィンが言った
帆で魂の爪を剥げ
空に吹く風に生身の価値などありはしない
肉欲は青葉のように変態なのである
海よ裂け海よ裂け
回り続ける踊り子
私は手を握ってそこからナイフを出したのだ
空を切るナイフ!
真っ赤なナイフ!
父の精巣にいた頃のあの真っ赤なナイフ!
海だ!
海だ!
あれが海を切るのだ!
田園に泳ぐ人魚が次々て農夫を襲った
困り果てた女達が水路に刺した鋭い槍!
昼食の最中に鈴が鳴りそれかかったと言ってみればそこに刺さった子供!子供!真っ赤な子供!
私は子供と槍を持って山に行った
竹やぶに吊るされたのが何だっけか
私が見たのは鎧だった
遥か頭上にしゃらんらと鳴る鎧だった
鎧の弧のような海の複雑さ
襲いくる波波波
照らされた海面は萌えているのだ!
生と死が目まぐるしく萌えているのだ!
田園の人智の業などとは比べられぬほどに激しいのだ
子供の仇を!
私は山にそう叫んだ
何か足りない!
私はナイフをポケットから出すと爪を剥いだのだ
爪を二十枚全部剥いだ
子供を埋め槍を捨てて私は山を降りた
明日はどこへ行こう私は思った
ココと悪魔達の舟旅は終わった
陸地に着いたのだ
ココと悪魔達が岩山を歩くことにした




