はじまり
<R15>15歳未満の方はすぐに移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕〔犯罪描写〕〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
いき場をうしなった。ので、いちるの望みをかけて。
あなたに託します。
A-レクトル→"アングルボザ・レクトル"
***
ねずみもジリジリと焼けついてトタン屋根へとかけ上がる
軒下の油鍋が大気中に舞う砂ぼこりをベタつかせる
大口径のリボルバーが少年達の遊具だった
空き缶に吸いがらと吐き出したキャンディーを詰め込んで
へし折れた水道線の近くにたむろする少年達
そこで汚れた尻を洗っている
「酒と血は俺にとってのガソリンみたいなもんさ」
撃鉄がチャキチャキと笑う
レンガ壁の隅っこにニワトリのフンがこびりついている
薬の甘い臭いが最高のブランチだった
青空に家々の屋根をカッターナイフみたいに当てがっても血は流れなかった
素足で駆けたその足の裏だ
黒く硬くなっている
垢の灰色がコンクリートの亀裂を埋める
戸前に打ち付けておいたネズミの肉が腐ってすべり落ちた
「燃えた刃で縫合手術をした後はアルコールを塗り込んでおけ」ヤブ医者が言った
リボルバーを撃ち鳴らせ
向こうの軒下で油を顔に塗っているのは悪魔だ
少年達をさらって瓶詰めにする
密封された瓶の中で自由に溺れてみろ
いっぱいに伸ばされた手の一つを掴むと指を一本づつ折った
誠実を喰らう悪魔の腹の中でもがく
「足だ! 足だ! ただ駆けたくってしようがないんだ!」
その手は黒く硬く歪んでいる
契約に身を捧げ悪魔の力に執着する
麻薬こそが少年達に復讐を教えた
爪が柔肌を撫でると体液がすべて入れ替わる
悪魔の黒くほりの深い肋骨の間に少年達は埋まる
鎖骨がカチカチと笑った
教師が脂肪だらけの身体に輸入もののTシャツ
表紙にコーヒーの大きなシミがある
朝の礼拝の横でニワトリが振り向く
皆が物憂げに今日の天気のことを考える
「いつもの他愛ない第二ポノポのさ」と悪魔は言った
寝ぐらへ向かう人々の吐息と夕どきの日射しにたっぷりと吸われる
日陰があたりを覆う
ところどころでちらちらとろうそくの火が灯りこぼれ火に群がる
町の裏側で少年達と触れ合わんと寸手にいる大羽虫の羽ばたきの音だけが聞こえた
いつもの通りでフラフラと
階段でアクロバットしている
悪魔タタンだ
銃声とカーニヴァルの信笛を間違え死体の下に来る
少年達と一緒に寝転んだ噴水場が枯れた
白い靄が煙たくする
少年達の命など悪魔にとってはいかほどのものであろうか
無学さが教えるものは銃の油のさし方とそれの調達の仕方だ
星空も知らない
咎も知らない
悪魔が誰よりもこの町を知っている
小高い丘から望む
死を平等に振り分け
明日をも奪ってしまうことを
町中のろうそくが瞬いている
ここには眩い光などない
あっても裸電球ぐらい
悪魔が丘の一本の木の上に座る
数え始めたのは少年達のへし折った指だ
「いちにさんし……」
「ごろくなな……」
たらいの中に雨水と月が入っている
逃げたオウムがまだ見ぬフィアンセに恋身をよじらせる
悪魔が一本一本指を慈しむ
冷えた公衆便器に水を注ぐものはいなかった
派手なビードロが露店から盗まれた
「いつもの階段で落ち合おう」と麻薬小売人がペラペラ喋った
ライフル銃の銃声だ
用途などわからない鋭利な食卓ナイフと血が飛び散る
暴動が一斉に起きる
エスカルゴの殻が踏み潰されてパキと鳴った
薬莢が殻につまる音か
拳を後ろから叩きつけられた
脳幹が震えイった人々の呻きだ
銃声をカーニヴァルの信笛と間違え排水弁の下に集まれ
三輪の自動車が老いぼれの露店に突っ込んだ
黒煙と火が上がって
ギャングにとって死は排泄行為だ
弱者への慈しみは塗装屋の粗悪なシンナーよ
葬式も知らない
罪も知らない
放火魔が唯一この町の屠殺場を知っていた
腐肉をぶら下げ防虫剤を塗りたくる場所が
淫売をする少女のワンピースがはためいて
生業とするのが違法職斡旋者だ
燃える車が男たちのポロシャツをクリーム色に染める
旗を持つ少年達の脚はないぐ足である
ノミのいる髪の毛が血で固まりついて
歯の割れた粉々が誰かのグラスに入った
キャンディーが騒乱を前にした悪魔タタンに舐められた
尺取り虫が列をなしてはっていた
干からびたシリアルを混ぜて食べる夜だ
町の裏路地へと悪魔タタンは降りていった