やさしさとかげ3
あの子はどこか苦しそうにグルグルと喉を鳴らしていた。 少しずつ息を整えたときには2日前に見たたぬきの姿に戻っていき、そしてそのままあの子は側面の襖の隙間から身体を滑らせて出ていく。
今のうちにと隠していた身体を乗り出してあの子がおいていったカバンをガサゴソとさぐった。
案の定、ウチのとこの学生手帳があった。口と前足を器用に使って1ページを開けばあの子の名前、学年、いろいろとわかるはずだ。
柊木 美琴、2年生……私と同じ学年だ。
ガタンと襖が音を立て、私の背中の毛は逆立った。急いで御神体の裏に入り、様子を伺う。
あの時と同じようにあの子の口元には葉っぱを一枚咥えている。あの時と同じ、あの時と同じように服の中に戻りあの時と同じように自分を確認した。
「にゃー」
私が鳴いて見るとビクンと絵を描いたように背中を揺らした。そして、微動だにせずに目を光らせて周りを見渡している。
「にゃー」
もう一度鳴いた。あの子は肩を大きく上げ深呼吸をしたと思うと、さっき私が散らかしたカバンをせかせかと戻しはじめ、そのままあの子は襖をピシャンと勢いよく開け放ってそのまま駆け足で出て言った。
きっと鳴き声が普通のねことは思わなかったはず。でなければあの子はわざわざ駆け足でここから出る必要はない。
あの子が急いで出ていった襖に駆け寄ってみると、枠が外れて完全には閉まらなくなっていた。よっぽど焦っていたのだろうか。
明日、学校であの子を探してみよう。そう思いながら崩れかけの神社を後にした。