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閑話 聖女な女神と人間臭い神様のお話し




「メルラン様」


 暢人が去ったあと、老人の部屋に客人が来た。


 老人、メルランはその客人の声を聞くなり、顔をしかめた。


 客人は清楚な女性だった。

 腰まで届く金色の髪に、深い海を連想させる青い瞳。

 そして人間離れした美貌と、完璧なプロポーション。


 薄い絹をいくつも重ね合わせたような服装は、天女を思わせた。

 しかし、彼女は天女ではない。


 それよりもさらに上。

 女神である。


 落ち着いた雰囲気を持つ、その女神の名はルシア。

 かつてアーウェルクで聖女と呼ばれた女性であり、メルランの後輩女神である。


 そしてアーウェルクに簡単な公用語や汎用性の高い魔法を広めた人物でもある。

 つまり、メルランがライバル視している人物だというわけだ。


 しかし、ルシアのほうはメルランのことを敵視している様子はなく、顔をしかめるメルランを見ても、嫌な顔をせず笑っている。


「なんじゃ? 用がないなら帰れ!」

「用ならありますわ。わたくしは如月暢人という少年を迎えに来たのです。メルラン様が担当だと伺いましたが?」

「確かに儂が担当じゃった。ゆえに儂の采配で処理した」

「では天国ですか。安心しました。彼があまりにも若すぎ、純粋だということで、生き返らせる許可が出たのです。では、私はこれにて」


 優雅に礼をして、去ろうとするルシアに対して、メルランは慌てたように椅子から立ち上がった。


「い、生き返らせる許可が出た!?」

「はい。なにか問題でも?」

「いや、あの……うむ、その少年は異世界行きを望んだのでな。アーウェルサに転移させたばかりじゃ……」


 ルシアは女神としての仮面を少しばかり外し、少々、人間らしいところを見せた。

 つまり、呆れたのだ。


 予想通りすぎて、しばらくルシアは無言だった。

 もしやと思い、急ぎ飛んできたが、手遅れだったことへの罪悪感もあった。


「……アーウェルサは現在、千年ぶりに魔王が復活して、大変危険な状態です。そのような世界に、平和な日本で暮らしていた少年を送り込んだのですか?」


 声は荒げないが、非難の気持ちを多分に込めて、ルシアはそうメルランを問い詰めた。

 一方、メルランは不貞腐れたように唇を尖らせる。


「本人が望んだんじゃ。睡眠ができない天国は嫌じゃと……」

「それならば、ほかの神に報告し、別の世界に転移させればいいではありませんか。わざわざ危険な地に送り込むなど、あんまりです」

「説明はしっかりした……。その、魔王のことは言っておらんが……」

「それでは説明していないのと大差ありませんわ……。弱りましたわね……。転移したあとでは、呼び戻すことも簡単ではありません……」


 頬に手を当て、ルシアはため息を吐く。

 そのため息を聞いて、メルランが居心地悪そうに体を小さくした。


「それで、彼は今、どこに?」

「アストルム王国じゃ。スキルも与えたし、食うには困らんじゃろ」

「なるほど。アストルムにあるご自分の魔導書を翻訳させる気ですね?」

「う~! そうじゃ! 悪いか!?」

「悪いに決まっていますわ。亡くなったばかりの少年を騙し、危険な地に向かわせるだけでも論外ですのに、それをおこなった理由がご自分のためとは……神失格ですわよ?」


 ルシアの正論に返す言葉もなく、メルランは押し黙った。


 そこでルシアは頭を切り替えた。

 ここでメルランを非難しても、暢人は救われないからだ。


「私は私で対処を考えてみます。メルラン様も彼について考えておいてくださいませ。あまりいい加減なようだと、上に報告致しますので、そのおつもりで」

「わ、わかったわい!」


 メルランがそう返事をすると、ルシアは姿を消した。

 一人になったメルランは、ふんと鼻を鳴らして、椅子に乱暴に座る。


「ちょっとばかし、アーウェルサで人気じゃからって調子に乗りおって! 今に見ておれ! 儂の翻訳家が儂の魔法を広めて、アーウェルサ中が儂を崇めるようになる! 頑張るのじゃぞ! ノブト!」


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