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昼戦争そして幼馴染み

 購買に並びパンを買おうと必死であった。どうやら、一番人気の焼きそばパンを巡ってちょっとした戦争が起きていたらしい。

 2時間目から購買が開くまでずっと並んでいたベリオールの大量購入のせいでベリオールから奪おうと必死な連中と、必死な連中から逃げるベリオールとの戦争が勃発していたのである。


「フェール! 半分受取れ! いつもの所で落ち合おう!」


 そう言って半ば強制的に譲渡された焼きそばパンを見て俺は嫌な予感を感じ取った。

 狩人の目をした魔法使いの殺気が曲がり角から俺を追いかけてくる。

 よし、逃げよう。

 いつもの所とは一体どこなんだろうか。そんなことを考えながら全速力で走り、生徒達の追っ手を振り切ろうと必死だった。そこで思いついたのが教室だった。確か、俺達の教室は招かれた者しか入れない。よし、そこだ。


 全速疾走を行い心臓が破裂でもしてしまうんではないかと思える程、鼓動が早くなって、教室につく頃には死にそうになっていた。

 案の定、ベリオールは先に着いており、焼きそばパンを幸せそうに口いっぱいに頬張っていた。


「幸せそうだな」


「ほらぁな」


 口に食べ物が入っていてなんて言ったのかイマイチわからないが、とにかく幸せそうだった。

 そんな時、ベイェモンがベリオールの前に置いてあった焼きそばパンを盗み食べ始めたのだ。それを見たベリオールが食べるのをやめてベイェモンの胸ぐらを掴んだ。


「てめぇ、いつも取りやがって、自分で買ってこいよ」


「はぁ? こんなにあるんだからいいじゃん。1つぐらいさ」


 ベリオールとベイェモンの口論が始まるのかと思っていたが、ベリオールがいきなり詠唱具を取り出した。

 2丁の拳銃だった。


「今日は許さねぇ」


「やってやる」


 ベイェモンも同じく槍の形をした詠唱具を取り出して、教室の中央に間を空けて二人が向き合った。

 ここでやるのか。


「ニエンテ・フィアンマ!」


 そう言って、2丁の拳銃を発砲すると、2つの大きな炎の弾が分裂しながら、ベイェモンへと向かって飛んでいった。

 しかし、ベイェモンに近付くと水の防壁によって消化されてしまった


「ヴァッサー・シルト。いつになったら学習すんだよ!」


 1つ気になったのが、魔法を発動する時に言う言葉だ。


「なぁ、オブライエン。魔法を発動する時に言っているのはなんなんだ?」


 二人の戦闘をつまらなさそうに眺めているオブライエンに話しかけた。


「あれかい? あれは魔法名って言ったらいいのかねぇ。魔法のイメージを言葉で強めて安定させるって、感じの奴かね」


「なるほど」


 頭の中で思い描いた魔法だけでは確かに不安定だ。それを命名することによってイメージしやすくしていると言うことか。なかなかいい方法だ。


「まあ、今度大会があるんだけど、それに出場する魔法使いは魔法名を大会側に申請しなきゃならないんだ」


 大会か、面白そうじゃないか。

 それにイメージしやすくなると言うのは術者としては魔法を起こしやすいと言うことでマイナスになる事ではない。俺も今度つけてみるか。

 そんなこんなをオブライエンと話しているとベイェモンとベリオールの戦いに決着が着いたようだ。

 ベイェモンが幸せそうに焼きそばパンを食べていた。ベイェモンの勝ちか。


「畜生……火に水はつれぇよ……」


 そりゃあごもっともだ。

 俺は静かになった教室で魔法名を考えていた。名前というのは大事だ。

 まあ、使う時に付ければいいか。


「何してるの?」


 少し考えているとリリーが隣に座ってきた。今日は普通の格好だった。

 おにぎりを食べながらこちらを見ていた。


「いや、魔法名っての考えててな」


「そっかぁ、フェールは入ったばかりだからまだ無いんだね。それにしても同じクラスになるとはねぇ。ビックリしたよ!」


 笑いながらリリーは話し、俺はそれに相槌を打っていた。

 リリーがこちらの顔をジッと見つめて、少し疑問そうに頭をかしげて俺の顔を見ていた。


「フェール、少しやつれた?」


 確かにここに来てから疲れる事は多いが楽しい事もあり、精神的に疲れていると言うことはないはずだ。食事も前よりかは規則的にとれているし、反対に健康になっていっていると思うのだが、どうやらそう見えていたらしい。


「いや、そんなことはないと思うがなぁ……」


「悩みがあるなら聞くからね! 幼馴染みとしてね!」


 えっへん、と無い胸を張り笑顔で喋っていた。それにしても、リリーがこのクラスに入って、普通に暮らしていると言う事は少なからず国も簡単にこの学園には手出しが出来ないと言う事だろうか。まあ、リリーにとっては嬉しい事だろうがな。


「おう、いつまでも頼りにするぜ。幼馴染み」


 そんな話をしていると学園長が現れ、リリーを神妙な面持ちで呼び出したのだ。

 何かあったのだろうか、と思っていると俺も呼び出されて学園長の執務室で話をする事となった。

 椅子に座ってから、学園長が口を開いたのは少しの沈黙が続いた後だった。


「あのね、国の方からリリトゥ・カルデアの拘束命令が来ているの」


 拘束、何故だ。

 国から拘束命令が届いていると言う事は処刑対象になっているかもしれないということだ。国に引き渡せばすぐに異端審問にかけられて即刻火刑になるのは火を見るより明らかだ。


「国から……」


「……この学園の長をやっておきながら、教え子1人守る事が出来ないなんて……アナタを助ける事は出来る。けど、そうすればこの学園の他の何も知らない生徒達が処刑される。私はリリーの判断に任せようと思います……」


 学園長は目頭を押さえ、俯き、辛そうに喋った。ここはリリーの決断に身を委ねるしかない。いくら大変な事だろうが本人の意志を尊重しなければならない。

 俺も学園長も死にたくないと、ここに残るという言葉が欲しかった。だが、耳に入ってきた言葉聞きたくもない言葉だった。


「行きますよ」


「リリー……」


「今までお世話になりました」


 少し微笑んで、部屋から出ていくリリーに俺も学園長も声をかける事が出来ずにただ、悔しく拳を握り締める事しか出来なかった。

 無言の空間がどれくらい続いたのだろう。10分程度なのだろうが、俺には何時間にも感じられた。

 そんな沈黙の空間を破ったのは学園長だった。


「ごめんなさいね……」


「いや、学園長が謝る必要はねぇよ。それに俺はあいつを殺させる気はねぇ。大丈夫、この学園はやめる」


「……アナタ、何を……?」


「奴を助ける」


 リリーを火刑になんかさせない。助ける事は難しいだろうがやれないことではない。リリーを助け出し、国外へ逃亡する。出来るだろうか、いや、やるしかない。


「大丈夫、アンタに迷惑はかけねぇよ」


「そうじゃなくて……!」


 執務室から飛び出ると自室へと向かい、必要なものだけを持ち明日を待つことにした。

 リリー、お前は迷惑かもしれんが友人を失うのは二度とごめんだからな。

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