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魔法のカガミにお願い(転二)

作者: 伊勢

グループ小説の第十四弾、『起承転結小説』です。今回は、起→叶愛夢さん、承一→春野天使さん、承二→神崎颯さん、転一→finoさん、転二→伊勢のアホ、結→よぞさんとなってます。どうぞ温かい目で見守ってやってください。

 ピシャッ、ゴロゴロ。

 どっかーん。

 あーもう、雷なんて大っ嫌い。風雲急雨なんていうけど、今正にそんな感じだよね。文字通りすぎて笑っちゃうよ。あはは。あは……。

「はぁ、なんでこんなことになっちゃったんだろ……」

 昨日までのあたしは、鏡の中の変態キューピットも、青春ナントカ委員会も、友達の怪しい機関員な仮面の下も知らない平穏無事な恋に恋する普通の可愛い女の子だったのに!

「可愛い、は余計ですね」

 変態キューピットが毒吐いた。

「うっさい、鏡割るぞ」

「本気で勘弁してください」

 何気に傷つきやすいんだよ、乙女心。

「はいはい、弱音吐かない。とりあえずこの薄汚い校舎から出るよ。あいつらがどこに潜んでいるかわからないんだから」

 そうだ、そういえばあかりはどこから入ってきたんだろう?

「玄関からよ」

 あ、なるほど。って、へ?

「た、確かチェーンが掛かっていたよね?」

「壊した」

 当然のように、当たり前のように、平然と精霊保護員な彼女は言ってのける。チェーンソーでも使ったんかアンタ。あたしなんだか頭痛が……。

 ついてきて、と言うあかりに言われるままに、月明かりだけの暗い廊下を進んでいくと、昇降口のような開けた場所に出た。途中床が何度もキーキー悲鳴をあげていたけど気にしない。気にしたら負けだ。そう思って。

「ここが玄関ね」

 来るときに見たドアの内側。分厚い木製の二枚扉は押して引くタイプのものだった。

「ふぅ、これでやっとこの陰欝な場所から帰れるね。今日はぐっすり寝てやるんだから」

 ホントの本気で胸を撫で下ろすあたしだった。

「寝る前に鏡。忘れないでよね!」

「あーはいはい。忘れてませんよ、忘れてませんとも。もちのろんろんですとも忘れません」

 言いながら扉のノブに手を掛ける。この先には自由と未来が待っているんだ。

 ピシャッ、ゴロゴロ。

 そして雷も、ね。はぁ。

 今日何度目かのため息を吐きつつ扉を押す手に力を込める。

「あれ?」

 動かない。

 ガチャガチャガチャガチャ。

 動かない。

 ガチャガチャガッチャン。

 動かない。

「ちょ、あかり、開かないよこの扉!」

「なぁに言ってんのさ、来た時はちゃんと――」

 笑いながらあたしと代わって。

「――開かない……」

 あかりの顔が青くなるのが分かる。

「どういうこと? 確かにチェーンは壊したはずなのに……」

 それはこっちが聞きたいです。でもあかりが慌てる姿なんて珍しいなぁ、なんてのんきなことを思ってる場合じゃなくて。

「ヤバい?」

「ヤバいかも」

 ヤバいらしいよ。

 と。

「悪いね。扉は封鎖させてもらったよ」

 後ろから聞こえたのは、少し低い、ひねた声だった。

「っ! 桐谷!」

 あかりにつられて振り向く。

 猫がいた。みぁ〜、って鳴いてそうな黒猫が、黄色い瞳でこちらを見上げていた。

「って、え? これが桐谷くん?!」

 どう見ても猫だ。視力二・○なだけが自慢のあたしがこの距離で見間違うはずが無い。最近近視になった記憶も無い、はず。

「言ったでしょ、桐谷陸は猫に化けてるって」

 普通に冗談かと思ってた。だって人間が猫に化けるなんてそんなこと――

「よう、新倉。カガミ割ってくれたんだって? サンキュな」

 喋った?! そしてあたしの名前を呼んだ? というかこの声は確かに。

「本当に、桐谷くんなんだ……」

「そ、愛しの桐谷くんだよん」

 ……なんかキャラ違くない? 桐谷くんはクールキャラなはずなのに。

「対女子用の色眼鏡だよ。ったく、モテ無い男はこれだから嫌ね」

「ってめぇ!」

 あかりの横槍に桐谷くん(猫さんVr.)がつっかかった。

「大体“青春返せ”だなんだって、クレームが趣味の大阪のおばちゃんでも言わないような事よく平気で言ってられるわね。ロマンチストのつもりかしら? あー恥ずかしい」

 あかりさん毒舌絶好調。桐谷くんの表情が、心なしか上気しているように見える。猫の表情なんて分かんないけど。

「それは聞き捨てならないな」

 どこからか低く冷たい別の声。

「その声は荒城先輩ね。どこにいるのよ?」

「ここにいる」

 ぶーんと、あたしとあかりの間を飛びかう虫がいた。

「まさか、コレ?」

「コレとか言うなっ!」

 桐谷くんが叫ぶ。そんなこと言われても、明かりの言った通り羽虫になってるなんて、ねぇ。プリンスな先輩のイメージが……。ハンカチ王子ならぬ、羽虫王子なんて、お世辞にも格好良いとは言えないよ。せめてハニかんで欲しかった。

「青春の無い人生などクソだ。ドキドキや刺激を求めない女子に未来は無い」

 ドキドキとかいっちゃってるよこの羽虫。

「あっれぇ〜、今日は言うんですのね先輩も」

 あかりはいつになく攻撃的だ。

「ボクはいつだって言っているさ。運命の相手だって? はっ、反吐が出る。そんなちっぽけな鏡の中にしかいれないような胡散臭い男に決められた相手が運命だなんて笑わせる。青春推進委員会はそんなフザけた鎖から、女の子達を解放するために活動している」

 『青春推進委員会』ってネーミングはフザけてないんですね。羽虫先輩はなんだかよくわからないけど正論っぽいことを言った。なんだかよくわからないけどね。

「はんっ、結局はモテたいだけじゃない。自分がモテないのをそうやって人のせいにするところが見苦しいって言ってんの。それに加賀見はキューピットなんだから。キューピットが決めたんだから、そんなの運命に決まってるじゃない!」

 うわ、あかりも負けず劣らずメチャクチャだ。

「うるさい、ブス!」

「黙れナルシスト!」

 あーだ、こーだ、ごにょごにょごにょ……。止まんない、止まんないよこの二人。どっちも最初のキャラ設定なんて完全無視だ。

「だいたいさっきは尻尾巻いて逃げ帰ったくせに、今になって戻ってくるなんてどういうつもり? しかもこんな手段まで使って」

「ふっ、分からないかい? 鏡は割れたんだ。そう、そこのお嬢さんの手でね」

 あたしを指して(いるのかは羽虫だから分からないけど)、先輩はくくっと笑う。

「今精霊の彼が宿っているのは守護力の弱い小さな手鏡だ。ならば、ボク達三人にも壊せ無くはないんだよ」

 ごくり、なんてあかりが息を飲む音が聞こえた気がした。

「僕達三人、ね。て事は、当然クリスくんも……」

「ここにいますよ」

 廊下の影からクリス・アランくんがひょっこり顔を出す。

「あ、落ち葉じゃないんだ!」

「は?」

 変なところで驚いてしまった。どんなリアクションだよ、あたし。

 サファイアブルーの瞳にくるくるキューティクルな金髪。良かった、あたしのクリスくんは変わってない!

「あなたの、じゃないですよ」

 苦笑する表情もまた可愛い! うーん、溶けちゃいそう。

「ったく、いつもいつもムサい男三人でつるんで気色悪い」

 あかりはものすごーぐ美男子が嫌いな子なんじゃないかと思わせる、そんな口調で毒づいた。たぶん嫌いなんだろうな。

 でも、と付け加えて彼女は続ける。

「まいったな、さすがに三人相手となると私一人じゃきついわね」

 珍しく額に汗を滲ませている。

「綾、とりあえず時間を稼ぐからその隙に逃げて」

「えっ?」

「逃げてる間に加賀見を安全な鏡に移してあげてね」

 えっと、いきなりそんな無茶を言われても……。

「つべこべ言わず逃げる! はい行った行った!」

 すごい剣幕で急き立てられて、とりあえずあたしは駆け出した。なんだか森のくまさんみたい。

「逃がすかよ!」

 桐谷くんの声が聞こえたような気がしたけど、振り返らない。だって直後に聞こえた音があんまりおっきかったから。

 どかーん!

 ばしーん!

 ばりばりばりっ!

 恐っ! 一体どんな戦い方したらそんな音が出せるんだろう。外の雷なんて比じゃないよ!

 お母さん、私は今日、一般人が立ち入っちゃいけない世界があるんだって知って、ちょっと大人になった気がします。

 はい、すたこらさっさっさーのさー。

 逃げる。逃げる。逃げる。

 逃げる?

 どこへ?

 玄関は封鎖されちゃって、入ってきた窓には届かない。この旧校舎に閉じ込められたと同じなあたしに、逃げる場所なんてあるのかな?

 きっと途方に暮れる、なんて難しい言葉が今のあたしにはぴったりなんだろうな。前が見えないよ、前が。

 前。前に人がいた。長い廊下の向こうから、トタトタと歩いてくる人影が見える。月明かりに照らされて浮かびあがったその顔は。

 深山紗季。

 あたしの友達で陸上部の部長がそこにいた。

「あ、いた!」

 紗季ちゃんはこちらに気付いてニッコリと笑った。薄暗闇の中でもはっきりと分かる邪気の無いキレイな笑顔。

「まったく、探したんだよー。部屋にいないからどこいったのかと思ったらやっぱりここだったんだね」

 紗季ちゃんはとっても正義感が強い子なんだ。この子にも鏡のことを喋ってったんだねあたし。

「ごめんごめん。実はかくかくしかじかで……」

「ふむふむ、かくかくしかじかなんだね。で、詳しく言うとどういうこと?」

 全然通じてなかった。仕方なくことのあらましを話してあげた。

「ふ〜ん、鏡なんて本当にあったんだね」

 ういういとした眼差しで話を聞いてくれる紗季ちゃん。

「あったんだよねー」

「ねね、ソレ、私にも見せてくんないかな?」

 ものすごーく期待に満ち溢れた目。

「ん、いいよー。ほら」

 ポケットから手鏡を取出し、渡す。

 渡した。渡してしまった。彼女に。

「へぇ〜、これが魔法の鏡かぁ」

 紗季ちゃんは珍し気に手鏡を手にとって、またニッコリと笑う。

 そして思い切り、踏ん付けた。


 乾いた音が、暗闇に小さくこだました。



「だいたいこのお話って最初はジャンル恋愛だったはずなのに! 今日はあたしのときめきトゥナイトフォーエバーな予定だったのに! そんな要素微塵も感じさせないこの展開は何? ワッツ?」

「まあまあ、そこら辺は次のよぞ様がなんとかしてくれるって」

「え? よぞさん?」

「あ、いや、こっちの話ね」

っていう作者の願望でした。

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