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未来への約束 第7話

静香は巧の告白を受け入れた翌日から、学校に通い部活にも出るようになった。

学校に行き出してすぐの頃は体調の事も考え、放課後の部活のみ参加していたが、

1年のマネージャーみおと、あいの働きが

以前より格段に良くなっていたお蔭で、静香の負担も少なくなり

1週間もすると前と同じように朝連にも参加するようになった。




巧と静香の交際は順調だった。

お互い部活が終わると何時もの喫茶店で会い、休日はデートに行く、

巧の部活が早めに終わる日には、

巧は宝聖学園まで静香を迎えに行く時もあった。

何でも強引に決めてしまう巧だったが、

この3週間巧は静香から返事を貰い正式に付き合い始めても、

体を重ねる事もキスをする事もない。

それでも巧は静香の隣にいられるだけで幸せを感じた。

静香も巧の側にいる時間が何より大切な時間になっている。






何時もの様に喫茶店で会った2人だったが、

どんな時も巧の他愛のない話しで楽しそうに笑う静香が、

今日はどこか上の空だった。

静香の様子がおかしい事に気づいた巧が、静香に話しを聞こうと口を開きかけると、

「巧君」

静香が真剣な顔で巧を見つめた。

「何かあったのか?」

「あのね…1つだけお願いがあるんだけど…聞いてくれる?」

静香の眼差しに巧も机につけていた肘を下し、

静香を同じように見つめ返した。

「何だ?言ってみろよ」

その言葉を聞いた静香は何故か巧から目線を逸らす。

「あの…えっと…た…」

いきなり挙動不審になった静香の顔をよく見ると薄らと顔が赤くなっていた。

「た…巧!」

「!」

「って呼んじゃ…ダメ…かな?」

「…ダメな訳ないだろ!でもいきなりどうした?」

「どうもしないよ!折角、恋人同士になったから…呼びたくなったの」

「そうか…」

巧は思わず笑みを浮かべる。

「何で笑ってるの?」

「いいや…ただ俺は幸せ者だなって思っただけだ」

「えっ!なっ…」

薄ら赤かった静香の顔が真っ赤に染まった。

そんな静香の様子に巧は笑い声を上げる。

「クッ…クック…静香、照れてんのか?」

「もう!からかわないで!」

「しかたねえだろ?そんな可愛い顔されちゃ俺「いい!もう言わないで!!」」

「はいはい」

(うん…やっぱりこれで良かったんだ)

なおも楽しそうに笑う巧を見て静香は1人昔の事を思い出した。








「ねえ何で名前で呼んでくれないの?」

それは静香が中学1年生のある日の事。

静香と流は家の近くの中学校に入学した。



偶然同じクラスになった静香と流だったが、

幼い頃とは違い一緒にいる事が少なくなり、

お互い同性の友達と遊ぶようになっていた。

しかし容姿端麗な流は中学に入学してすぐに注目の的となり、

男子だけでなく色々な女子が仲良くなろうと流に近づいた。

だが流はどんな可愛い子や綺麗な子が近寄って来ても相手にしていなかった。



放課後静香が忘れ物を取りに教室に行くと

教室の中から甲高かんだかい少女の声が聞こえてきた。

「ねえってば!聞いてる?」

「………」

聞こえてくる声の様子から、教室に入っていいのか悩む静香の耳に

また少女の声が聞こえた。

「神城さんは名前で呼んでるんだしいいでしょ?私の事も名前で呼んでよ!」

自分の名前が出るとは思わなかった静香は思わずドキっとした。

「…呼ばない」

「えっ?」

「呼ばないって言ったんだ」

少女の声に続き聞こえてきた巧の声に、

話しの続きが気になった静香は教室に入る事を諦め、聞き耳を立てた。

「何でよ!神城さんだけずるいじゃない!!」

「俺が誰を名前で呼ぼうがアンタに関係ないだろ」

「関係ないなんて…それだけじゃ納得できない!」

「…静香は特別だ!アイツ以外の女を名前で呼ぶ気はない」

「うっ…もういい!帰る!」

ガタガタと少女が鞄を持ち教室を出る様子を感じ、静香は急いで逃げた。

(特別…か)

走っている最中頭の中から忘れ物の事はすっかり無くなり、

流の事だけを考えていた。

(私も流だけ…名前で呼ぶのはこれからも流だけにしよう…)







「静香!」

「あっ…何?」

「何?じゃねえよ、いきなりぼーっとしたら驚くだろ」

「ごめんね…何でもないから気にしないで!」

「ったく…悩みがあるなら隠さず言えよ」

「うん!」

(自分の為にも巧君の為にも、流への気持ちは忘れよう)






後日の放課後

「あっ静香先輩!後このボールを片付けたら終わりですね!」

「そうだね、このボールは私が片付けるから2人は先に帰って」

「そんな!あたし達がやりますよ!」

「私がやっておくから大丈夫!ボールを片付けるだけだもの、そんなに心配しないで」

「…わかりましたありがとうございます!」

「先輩、ありがとうございます!さようなら!」

「お疲れ様、また明日も頑張ろうね」

放課後の部活が終わり、部員達は皆早々に帰宅していた。

静香は1人ボールを倉庫に戻すと、自分も家に帰る為に女子更衣室へ向かう。






誰もいない更衣室で制服に着替えた静香は、

鞄に入れていた携帯を取り出しながら更衣室の扉を開け外に出る。

携帯を見ると携帯のランプが点滅している事に気がついた静香は、

歩いていた足を止め携帯を開く。

すると〝学校まで迎えに行くから待ってろ″

という巧からのメールが届いていた。

「巧…」

短いメールでも感じられる巧の優しさに思わず

静香は巧の名前を呟いていた。





「静香」

壁に寄りかかり巧への返事を打っていると、馴染みのある声が目の前で静香を呼ぶ。

「!?」

驚いた静香は携帯に向けていた視線を上げた。

(流……なんで…?)

目の前には無表情の流がしっかりと静香を見つめていた。

流がまだ学校におり、

ましてや流から話し掛けてくるとは露程つゆほども思っていなかった静香は

うろたえた。

「…………」

「…………」

そして声を掛けてきたにも拘わらず、流は黙ったまま静香を見つめ続けた。

「…………」

「あの…私に何か用事?」

「…………」

静香が窺うように聞いても流は一言も発しない。

「私…もう行くね」

何も話さず真っ直ぐに静香を見つめる流の視線から逃げる様に、

左手に持ってあった鞄に携帯を入れ、流の横を通り過ぎた瞬間



ガシッ



流がいきなり静香の左手首を掴んだ。

驚いた静香の手から鞄が地面に落ちる。

「…どうしたら…」

「えっ」

「どうしたら…良かったんだ…」

呟く様な小さな流の声。

「期待に応えたかった…」

「…?」

「強い男になりたかった…」

流の声は段々と大きくなる。

「どんな事も完璧にこなせる…そんな男になって」

静香の手首を力強く掴む流の手。

「お前を…静香を…」

その手は

「守りたかった!」

震えていた。





「りゅ…う」

「ずっと…そう思ってた…なのに何時からだろうな…俺はもう何でも出来る、だから静香はずっと俺の側にいるはずだって思いこんで…部活中に姿が見えなくなったお前に勝手に苛立って思ってもない事、彬に喋った」

流はため込んでいた自分の気持ちを吐き出す様に話し続ける。


「お前が学校飛び出した時も、部活に来なかった間も…後悔した」

今まで知らなかった流の気持ちに、静香は動揺を隠せない。

「だが謝っちまったら…静香が望む、何でも出来る完璧な奴じゃなくなっちまうだろ?お前にだけは幻滅されたくなかった!」

そう言うと流は掴んでいた静香の手首を引き寄せ、

静香を抱きしめた。

「あっ…」

「他の男の所になんか行かないでくれ…」

縋りつく様に静香を抱きしめる流に、静香は抵抗しなかった。

「静香…好きだ」






今回はやっと流が静香ちゃんと喋ってくれました!

長かった…

ちなみに流が言っている彬とは中山のことですよ~

皆さんすぐわかりましたか?


次回恐らく最終回です♪

お楽しみに!!!


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