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未来への約束 第6話

翌日

静香は巧と学校に向かい歩いていた。

静香はゆっくりでありながらも、足を止めることなく巧の1歩後ろを歩く。

道中1言も話す事は無なかったが、お互いの手を2人はしっかり握りあっていた。






いつもの喫茶店で会った時、巧は静香にいくつかの約束をさせた。

学校に行く道はなるべく、

下校する他の生徒達と会わないようにする為、巧に任せる事。

もし辛かったら無理せず帰る事。

最後に学校に行くまでの間、手を繋ぐというものだった。




静香は巧との約束を守る代わりに、野球部の部員と会っている間、

巧には校門で待っていてほしいと頼んだ。

聞いた直後は静香の側にいると言った巧だったが、

静香に自分が戻ってくるのを待っていてもらいたいと言われ、

悩んだが部外者の巧が静香の側にいては、部員達が混乱するだろうし、

校門からでもグラウンドの様子が見られる事を思い出した巧は、

校門で待つ事を承諾した。






(もうすぐだ…)

校舎が見える場所まで行くと静香の足が止まり俯いてしまった。

巧も同じように足を止める。

静香が不安げに巧を見ると静香と手を繋いでいない手で、

ポンポンと頭を撫でた。

「大丈夫だ、俺がいるだろ」

「あっ……」

巧が静香に言ったセリフに以前の記憶が蘇る。

巧の前で発作が起きてしまった時も、巧は同じ様な事を言っていた。

今回もその時の様に、静香は落ち着きを取り戻す事が出来た。

「ありがとう…もう大丈夫、行こう」

「ああ」




宝聖学園の校門まで来ると、どちらからともなくお互いの手を離す。

「行って来い」

「いってきます」

静香は巧に背を向け、振り返る事なく野球部の練習している校庭へ向かう。

巧はその後ろ姿を校門に寄りかかり見送った。






(大丈夫、私は大丈夫)

静香は1人心の中で、繰り返し自分に言い聞かせていた。

その間右のポケットをずっと触っていた。

ポケットの中には、巧に返しそびれた青いハンカチが入っている。

早く返さなければいけないと思いつつ、機会を失いなかなか返せずにいた物だが、

今日はお守り代わりに持ってきている。

勝手だとは分かっていた静香だったが、自分が色々な意味でもう平気だと思ったら、

このハンカチを巧に返そうと決め、もうしばらくの間ハンカチを借りる事にした。




(…よし)

野球部は今休憩中の様で、思い思いに休んでいる姿が静香の目に映る。

部員達はまだ誰も静香がいる事に気づかない。

声を掛ける為校庭の中に入ろうとした時声を掛けられた。

「静香先輩?」

静香が振り返るとそこには、両手にドリンクの入った籠を抱えた

後輩のマネージャーの吉川よしかわみおがいた。

「やっぱり!静香先輩!!」

みおは籠を地面に置くと静香に飛びついた。

「えっ!?」

いきなりの事態に状況が飲み込めず、焦る静香をよそに、

みおは泣きそうな顔で静香に抱きついている。

「静香先輩…ご…ごめんなさ…い」

「?」

「だ…だって…マネージャーの仕事がこんなに大変だって知らなかった…ううんらくしようと先輩1人に大変な仕事押し付けてた…アタシ達の所為で…先輩…来なくて…だ…から…ごめん…なさい」

抱きついたまま、泣きだしたみおの背中を優しく撫でる。

「ううん違うよ。色々な仕事やってもらえるように私が皆に強く言わなきゃいけなかったの…だからおあいこだね」

「せ…んぱい!」

静香はみおを腕の中から離し、みおの顔を見て微笑むとみおも微笑み返した。

そんな静香達の様子に気づいた野球部の部員達や

もう1人のマネージャーも静香の周りに集まてきた。




「神城!来てたのか!」

「心配してたよ?」

「神城がいなくて大変だったんだ」

「先輩来てくれたんですね!」

次々に声が掛かり戸惑いつつも、静香は嬉しさを感じていた。

「静香ちゃん!」

一際大きな声で名前を呼ばれ見てみると、中山が静香の近くへ走って来るのが見える。

「はあ…はあ静香ちゃん来てたんだ!」

「あっ……」

中山に返事をしようしたその時、中山の後から歩いてきた姿に目を奪われた。

(流…)




「…………」

「…………」

流は静香の近くには来たものの黙ったまま何も話さない。

静香も流の姿を見た時から、1言も話さなくなってしまった。

周りにいた野球部員達も静香と流の様子がおかしい事にすぐに気付き

黙った為、辺りは重苦しい空気が流れていた。

「え~と…静香ちゃんが来てくれて俺達も嬉しいぜ!またマネージャーやってくれるだろ?」

そんな重苦しい空気を変えようと、中山は静香に明るく話し掛けた。

「皆がいいなら…続けたいと思ってるんだけど…」

「そんなのいいに決まってる!なあ皆?」

中山の問いに部員達は皆、もちろんと答えた。

「流もいいだろ?」

1人黙っていた流に問いかけると、皆一斉に黙る。

「……勝手にしろ」

ビクッ

一瞬静香の肩が震える。

「流!もうちょっと言い方考えろよ!」

「…………」

「流!!」

一言話すと流はまた黙り込んだ。

「ったく…静香ちゃん、流言い方は悪いけど来ていいて事だから、気にすんな」

「…うん」

静香の顔が悲しげな事に気づきながらも、

中山は気づかない振りをしてそのまま静香と話を続ける。

「この後どうする?ジャージないよな?」

「明日から学校にも行くから、明日の放課後から部活に出るよ。だから今日は帰るね」

「そっか、分かった。また明日な」

「うんまたね」

静香は部員とマネージャー、側にいる1人1人に挨拶して校門へ向かった。

結局最後まで静香と流が話す事はなかった。






静香が歩き出すと部員達は、マネージャーからドリンクを貰い話し始める。

だが流だけは微動だにせず、静香の後ろ姿を見つめていた。

「本当にお前は馬鹿だな…改めて思った」

流の隣に立ち同じ様に静香を見ていた中山はひとり言の様に呟いた。

「………」

「はあ~お前は1人反省会でもしてろ!」

何も話さない流に呆れたのか、中山は流の側を離れた。

流の側には誰もいなくなった。

だから流が校門にいた巧と静香の姿を見て、

苦しげな表情を浮かべていた事を知る人物はだれ1人いなかった。






「ただいま」

「おかえり」

校門で待っていた巧に声を掛け、2人は歩き出した。

「頑張ったな…体大丈夫か?」

「うん、平気だった。ねえあの公園行きたいんだけどいいかな?」

「いいぜ」




「ここで初めて会ったんだよね…」

公園に着いた2人は辺りを見回し初めて会った日を思い出す。

「正確には初めてじゃねえけどな、あの時俺は心臓が飛び出るかと思う程驚いたんだぜ?」

「そうだったの?」

「ああ、何とかしてお前と近づこうと考えてたらいきなり泣かれたて、どうしたもんかと迷ったぜ」

「ご、ごめん」

「何謝ってんだ?今こうして静香と居られるんだ結果オーライだろ?」

静香を子突きながら笑う巧を見た静香は、いきなり真剣な顔をした。

「どうかしたのか?」

雰囲気の変わった静香に気づいた巧は心配そうな顔をする。

「巧君…あの…後ろ向いて欲しいの」

「いきなりなんだ?」

「お願い聞かないで…それともう1つだけ、私の話が終わるまで黙ってそのまま後ろ向いてて…お願い」

真剣な様子の静香に巧は黙って頷き静香に背を向けた。




巧が後ろを向いた事を確認した静香は、深呼吸してから話し始める。

「巧君…今日私が学校に行けたのは巧君のお蔭だよ…ありがとう」

巧は小さく笑ったが、静香の言葉通り喋らず静香の話しの続きを待った。

「それだけじゃない、もし巧君がいなかったら私は今も部屋の中で1人うずくまったままだったかもしれない…」

静香はそっと巧の背中に額を当てる。

「ありがとう、あの日巧君に会えて良かった」

「…………」

「………巧君ごめんなさい、私フライングしちゃう」

風の音しか聞こえない公園の中で、

静香はもう一度深呼吸して巧に自分の気持ちを伝えた。







「私を…巧君の彼女にしてください」

その言葉を聞いた瞬間巧は振り返り静香をきつく抱きしめる。

「……嘘じゃねえよな?」

「…本当だよ」

静香は両腕を巧の背中にまわし抱きしめ返す。

「大切にする」

「うん」

「ずっと俺が側にいてやる」

「うん」

「静香…好きだ」

「…ありがとう」

静香は巧の腕の中でゆっくり目を閉じた。





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