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未来への約束 第5話

巧が公園で静香に告白した日から

あの時の言葉通り、2人は毎日の様に会っている。

休みの日には遊園地や映画館に行く等、巧は出来る限りの時間を静香と過ごし

学校のある日は夕方から喫茶店で今日あった事やお互いの事について話をした。




話しをするうちに、2人供公園の近くに家があることや、

クラスは違ったが同じ小学校に通っていたことなど、

話してみて初めて知る事も多く、最初は戸惑っていた静香も、

時間とともに巧といる日々を純粋に楽むようになっていた。

ただ静香はいまだに学校に行けていなかった。

巧に会うために外に出る時は躊躇なく行けるのだが、

学校に行くとなると途端に足が進まなくなってしまう。

静香の両親は静香が毎日、誰かと会いに出掛けることを心配していたのだが、

発作や学校に行けず落ち込んだ様子の静香が少しずつ、

元気を取り戻しているのを感じ、何も言わず見守る事を決めた。




返事をする日まで後2日になった日、巧への返事に悩む静香の元に1人の人物が訪ねてきた。

その相手は静香のクラスの担任の木村陽子きむらようこだった。

木村は静香が学校を休みだしてから静香を心配し電話をくれていたのだが、

いきなり静香の家まで訪ねてきた木村に、

嫌な予感がしたが、静香はその気持ちを隠し木村をリビングに通した。

「どうぞ」

「ありがとう、神城さんのお母様は今いらっしゃらないの?」

「はい、母は夕飯の買い物に行ってるんです。でももうすぐ帰ってくると思います。そこの椅子に座ってください、先生飲み物は紅茶で大丈夫ですか?」

「ええ、でも気にしなくていいのよ」

静香はキッチンで手早く木村と自分用の紅茶を用意しリビングに戻ると、

木村の前に紅茶を置き、静香は紅茶を持ったまま木村の向いの席に座った。

「ありがとう……実は今日神城さんの家に来たのは、神城さんに大切な話があったからなの」

「…………なんですか?」

「単位の事よ」

静香の顔が曇る。

「成績の事なら補修を受ければ何とかなるけど、欠席の回数だけはどうにもならないの。神城さんは発作の事で学校に行きづらいと思っているのかもしれないけど、私も出来る限り神城さんをサポートするから……学校に来てみない?」




(どうしよう)

静香は何時もの喫茶店で巧が来るのを待っていた。

木村との話しは静香の母が家に戻ってきた事で中断となり、

母と木村が話をしている途中に、静香は何も言わず自分の部屋に戻る。

しばらく部屋のベッドの上でじっとしていると、玄関の開く音がし木村は帰って行った。

その後静香は母と2人で夕飯を食べた。

母は食事中色々な話しを静香に話したが、1度も学校に関する話しをする事はなかった。

夕食を食べた後、巧との待ち合わせまではまだ少し時間があったが、

静香は早めに家を出た。






「静香、今日も早いな」

「そう?」

巧は喫茶店に入るとすぐに静香を見つけ、

カウンターでコーヒーを買うと笑顔で静香と同じテーブルに来た。

「…何かあったのか?」

席に座った巧は真剣な顔で静香に尋ねた。

「…どうして?」

「お前は考えてる事がすぐに顔にでるから分かるんだ。ほらそんな顔するぐらいなら早く話せよ」

学校の事を相談しようとしていた静香だったが、

自分の様子がいつもと違う事に、すぐ気がついた巧に静香は驚きを隠しきれない。

「巧君には隠し事できないな……あのね」






「静香はどうしたいんだ?」

「えっ?」

静香は巧に木村から聞かされた事を話すと、巧は静香にそんなことを聞いてきた。

「学校に行くか行かないか、決めるのは静香だろ。他人の意見は無視してお前がこの先どうたいか考えてみろ」

「私は…」

静香は自分がどうしたいのかを考え始めた。

(学校に行けば、流に会わなくちゃいけない…流の姿を見たらまた発作が起こるかもしれない………でも)

「行きたい」

静香は自分に言い聞かせるように呟いた。

「正直に言うと流に会うのが怖いの…それに発作が起きたら、いろいろな人に迷惑が掛かっちゃう…でもこのままじゃいけないと思うから…だから学校行ってみる」

「そうか」

巧は嬉しそうに静香に笑い掛けた。




「明日から学校行こうと思う」

「明日からか?」

「時間が経つと勇気なくなっちゃう気がするから…」

その言葉を聞き少し考える様子を見せる巧。

「なあ、明日はとりあえず様子見でいいんじゃねえか?」

「どういうこと?」

「静香が不安なのは流って奴に会う事と、発作が起きないかって事なんだろ?いきなり長時間学校行くより、明日は野球部の連中に会ってみろ。アイツに会って発作が起きないなら次の日から普通に学校に行けばいい」

「………うん」

流に会うという言葉を聞いて暗い顔をする静香。

「そんな顔するな、安心しろ俺も付いて行ってやるから」

「えっ!」

思いもよらない巧の発言に驚く静香。

「明日は部活が休みなんだ、だから俺も付いて行ってやるよ」

「……本当に部活休みなの?さぼろうとしてない?」

疑う様な眼差しで巧を見る静香に、巧は呆れたような顔をする。

「お前…言うようになったな…」

「ずっと巧君と一緒にいたんだから仕方ないよ」

「まあいい、今日の所はそういう事にしといてやる……お前は明日5時に、ここで待ってろ。俺も学校が終わったらすぐここに来るからその後、宝聖に行くぞ」




「…ねえ、やっぱり私」

巧の言葉を聞いて静香は巧にそこまで迷惑を掛けたくないと思い、

学校には自分だけで行くと言おうとするが、

巧は話す内容が分かっていたようで、静香が全て言い終わる前に話しをさえぎる。

「1人で行くなんて言葉なら却下だぜ」

「うっ」

「言っとくが俺は迷惑だなんて感じてねえ。俺は静香が好きだから少しでも長く側にいたいだけだ」




何て事のない様に巧は話したが、静香は一気に顔を赤くし狼狽うろたえた。

「た、たく巧く、ん今…私の事…す、好き、って言った…の?」

「なんだ?俺の告白がそんなに嬉しいのか?」

静香が動揺している事に気づいた巧は、嬉しそうに静香をからかう。

「そ、そう言う事じゃなくて…巧君、私が好きなの?」

「はあ?当たり前だ!この前ちゃんと告白したじゃねえか!」

「だって…気にいったとしか言われてないから」

「好きでもない女に告白なんてする訳ないだろ!」

嬉しそうだった巧の顔が不満げに変わる。




「明後日まで言うつもりはなかったが、お前がそのつもりなら本当の事教えてやる」

「どういうこと?」

「俺はずっとお前を知っていた。初めて宝聖に練習試合に行ってお前を見た時すぐに静香だって気づいたんだぜ?」

「えっ?」

「小学校で何度か話した事があったからな。それなのに静香はまったく覚えてなかったけどな」

「…ごめんなさい」

巧が自分の事を昔から知っていたとは思いもしなかった静香は、

覚えていなかったという事実で申し訳ない気持ちになったが、

その後の巧の今まで以上に驚くべきセリフにその気持ちはすぐ忘れた。

「ショックだったぜ?初恋の女に忘れられるのは」

「初恋!?」

「ああ、高校に入って静香を偶然見つけて練習試合に行くたび、静香に話し掛けられないかと思ってたんだ、でも静香が一生懸命野球部の為に働いてるのに邪魔できないだろ。それに……アイツを好きな事は見てればすぐ分かったしな」

「…………」




巧の驚くべき告白に言葉の出なくなった静香をよそに巧は話を続ける。

「公園で静香とぶつかった時、めちゃくちゃ嬉しかったんだぜ、泣かせちまったけどな…静香が悩んでるのに気付いた時お前の支えになりたい、静香が好きだって改めて思ったんだ」

「…………」

「伝える気はなかったんだが2回目に会った時、静香が俺に悩みを話してくれただろ?その時自分の気持ちが抑えられなくなっちまったんだ。」

「…巧君」

「俺は静香に幸せになって欲しい、出来るなら俺が静香を幸せにしたい。まだアイツが好きでもいい、静香が好きだ。俺と付き合ってくれ」

心の奥にしまっていた静香への思いを伝えた巧は、妙に清々しい気分だった。

反対にその気持ちを伝えられた静香は思考が停止していた。

「おい、大丈夫か?返事は明後日…な」

「……うん」

「でも今の俺の告白は、明日学校に行って帰ってくるまでは忘れてもいいぜ」

無茶なことをサラッという巧に静香の思考は働き始めた。

「忘れるなんて無理だよ…」

「なら忘れなくていい、明日はずっと俺の事考えてろよ、そうすれば学校何て簡単に行けるぜ、きっと」

その時静香は明日への不安とそれを上回る心強さを感じた。





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