未来への約束 第4話
誰もいない静かな夜の公園のベンチに1人、
小さなカバンを持った静香は、俯き加減で座っていた。
時折左の手首にある時計と、公園の入口に目を向けそのたび、
また俯き、残念そうにため息を吐いていた。
すると静香の耳に、遠くから自分の側に向かって走る、
誰かの足音が聞こえてくる。
静香が顔を上げると、制服を着た巧が走って、静香の座っているベンチの前まで来た。
巧は持っていたカバンを、無造作に足元に置くと静香の隣に座る。
「悪い、待たせたな」
「ううん、そんなに待ってないよ」
静香がそう言うと、巧は真剣な表情になった。
「いや、この公園は人がいないのを知ってたのに、夜にお前をこんな場所で1人にして、もし何かあったら俺の所為だ、悪かったな、次からは近くにある喫茶店にしようぜ」
「うん!」
静香は笑って巧を見た。
自分を心配してくれた事も嬉しかったが、
巧はまた静香に会う事を、当たり前のように話していた事が、静香には嬉しかった。
他愛無い会話を続ける2人。
「あっそうだ」
「なんだ?」
不意に静香は巧にハンカチを、返さないといけない事を思い出す。
「借りたハンカチ!今出すね!」
カバンの中のハンカチを出すため、巧から視線を外す。
その時静香の視線が、公園の外を歩く人物に気がついた。
瞳孔が開き、動きが止まる静香。
急に固まったように動かなくなった、静香の姿を不思議に思った巧は、
手を静香の前で振ってみたが、静香は何の反応もみせない。
「静香?」
(あれは…)
「おいどうしたんだ?」
静香の視線の先には、白羽京香が友達らしい少女と2人で歩いていた。
白羽達と静香が座っているベンチは距離がある為、
何を話しているのかは分からない。
白羽は静香の存在に気づかずに、楽しげに歩いている。
公園の外を歩いているのが、白羽だと気付いた静香の息が、荒れ始めた。
(うそ…どうしよう!?)
息が荒くなり、発作が出るのではないかと、静香はパニックになっていた。
「静香!!」
静香の体が何かに優しく包まれた。
(えっ?)
静香はゆっくりと隣を見る。
隣に座っていた巧は見えなったが、その代わりに静香を抱きしめる、巧の体が見えた。
「大丈夫だ」
まだ荒い呼吸を繰り返す静香の背中を、巧はトントンと、
小さな子供を寝かし付けるように、優しく叩く。
徐々に静香の息は普段通りに、戻り始めた。
巧は叩くのを止め、両腕で静香をぎゅっと力を込め、抱きしめた。
「俺がいる」
その言葉を聞いた静香の目から、涙が一粒流れ落ちた。
落ち着きを取り戻した、静香の様子を感じた巧は、
静香を抱きしめていた手を離した。
結局白羽は静香に気づくことなく、何時の間にかいなくなっていた。
「平気か」
「…うん…ごめんね…」
静香の心の中は、自己嫌悪でいっぱいだった。
「あのなあ」
巧は大げさなぐらいのため息を吐くと、静香に呆れたような眼差しを見せた。
「何で謝るんだ?」
「だって…また、巧君に迷惑かけちゃったから…」
「俺は迷惑なんて思ってねえ、勝手に俺の気持ちを決めるな!」
「…ありがとう」
「俺は自分の気持ちを言っただけだぜ、静香も言いたい事があるなら言えよ」
その時静香は巧に、自分の事を話す事を決めた。
「…巧君」
「何だ?」
「私の話し巧君に聞いて貰いたいの、聞いてくれるだけでいいけど…話してもいいかな?」
「ああ」
静香は巧に、今までの事を話した。
1年生のマネージャー達の事、過呼吸症候群の事、
学校に行っていない事、そして流の事も何もかも全て。
まだ会って2回目にも拘わらず、静香は巧に包み隠さず話しをした。
巧は静香の話が終わるまで、何も言わず相槌だけを打っていた。
「―――これでおしまい、全部自分でどうにかしなきゃいけない事だけど、巧君が聞いてくれたから、スッキリしたよありがとう」
話が終わった静香は、窺うように巧の顔を見た。
「なあ」
「な…何?」
ずっと黙っていた、巧が口を開く。
「俺と付き合えよ」
「………えっ…それって、どういう意味で…」
「俺の女になれ」
「……えええええ!!!」
先程までの雰囲気が一変した。
「な、なな何言ってるの巧君!!」
いきなり静香が驚く事を、平然と言い出しす巧に、動揺した静香は、
さっきとは違った意味で、パニックになっていた。
「別にからかってる訳じゃねえからな」
「ど、どうして、いきなり…」
「静香が気にいったんだ…お前が自分の事を、俺に話してくれたと思ったら我慢できなくなった」
「…でも」
「返事はいらねえ」
「どう、いうこと?」
「今日から1カ月間、静香の時間を俺にくれ、って言っても特別に何かする訳じゃない、話ししたりどっか行くだけだ」
「…………」
「1ヶ月後に俺の事を知ってから返事をくれ、言っとくが拒否権はねえからな」
「…ないの?」
「ああ、今すぐ付き合えって言わないだけマシだろ?」
自信満々に言い切る巧に、静香は反論が出来なかった。
「巧君はいつも強引だよ…」
「それが俺だからな、明日からは毎日8時に喫茶店な」
「えっ!もしかして毎日会うの?」
「1カ月でお前を俺に惚れさせないといけないんだぜ?当たり前だろ」