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未来への約束 第3話

この先本来の症状、原因等を過大に表現してあるので実際と異なる点もあると思いますが、ご理解の程よろしくお願いします。



朝8:00

静香はのろのろと布団から起き上がった。

リビングに行くと、父はもう会社に行ったのか母親しかいない。

母はリビングの入口に立っている静香に気が付き、声を掛けた。

「おはよう静香、朝食用意するから椅子に座って待ってなさい」

いつもと同じように母は静香に接していた。

今日も変わらない母の優しさは、嬉しいと感じるが、

同時に静香は自分が情けなく思えた。

「お母さん……ごめんね…ありがとう」

そんな静香に、母は笑いながら答える。

「何謝ってるのよほら早く座りなさい、すぐに持って来るから」

静香はコクリと頷くと椅子に座った。





2週間前

「……う…」

静香が目を開けるとまず1番初めに、真っ白な天井が見えた。

(ここは…)

次に首を横に動かすと、心配そうにしている母の姿があった。

「お母さん?」

「目が覚めたのね、今先生を呼ぶからちょっと待っていなさい」

それだけ言うと、カーテンを開けどこかに行ってしまった。

(先生?……もしかして、ここは…)

静香は先程あった事を思い出し、状況を理解した。

(そうか…私は玄関で倒れて…病院に運ばれたのか)

突然だった。

胸が痛くて、苦しくて、このまま死んでしまうのではないかと、本気で思った。

静香が思い返していると、母が医者を連れて戻ってきた。

その医者は、優しげな雰囲気の比較的若い女の人だった。




「神城さん目が覚めたんですね」

「はい」

「どうしてここにいるのか、わかりますか?」

「倒れて、気を失ったんですよね…」

「そうです。ゆっくりでいいんで、その時の症状を話してもらえますか?」

静香はもう1度その時の事を思い出し始めた。

「えっと…学校に行こうと玄関に向かったらいきなり息が出来なくなって、苦しくて…意識がなくなって…気が付いたら、この病院にいました」

「わかりました…やはり…神城さんが倒れたのは、過呼吸症候群かこきゅうしょうこうぐんの所為だと思われます」

「過呼吸症候群ですか?」

「はい、10代や20代の若い人は発症しやすいんですよ。色々な原因が挙げられますが、主に心理的なストレスからくることが多いです」

(ストレス…)

「症状としましては息苦しさを感じたり、胸に圧迫感を感じる事もあります。他にも、激しい動悸や気を失う方もいます」

先生が言うどの症状にも、静香に当て嵌まった。




自分が弱い所為で両親に迷惑を掛けてしまったと、静香の顔は曇る。

それに気がついた医者は、静香を励ますように静香の肩に触れた。

「過呼吸の発作が出てしまった時は、ペーパーバッグ法と言って紙袋等で口と鼻を覆い、その中で呼吸をする方法で症状が和らぎますよ。もちろん薬もありますから安心して下さい。それに発作が起こった人でも、その先1度も発作が出ず過呼吸症候群が治った例もあります。先程言った通り心理的な事から起こりやすいので、自分を追い込んでは駄目ですよ」

「…はい」

その後も静香は母と一緒に、過呼吸症候群についての説明を聞き、

病院を出てタクシーで家に帰った。

シーンと静まり返ったタクシーの中で母は、

「静香…学校行きたくないなら、行かなくてもいいからね」

それだけしか喋らなかった。

その時静香は昨日吐いた嘘が母には、ばれていた事に気づき1人苦笑いをした。





家に着いた母は静香を特別気遣うのではなく、普段通りに接していた。

それは父も同じだった。

しかし母が朝静香を起こす事はなくなり、

静香は倒れてからの2週間、家の中だけで過ごしていた。






朝食を食べ自分の部屋に戻った静香は、

自分のベッドの上に座りこれからの事を考えていた。

このまま家の中に居れば、発作は起こらないかもしれない。

でもそれでは何も解決にならない。

分かってはいるが、学校に行き流に会う勇気はなかった。

その時ふと、勉強机に置いてある携帯が目に入り、

流に傷つけられた日に出会った巧の事を思い出した。




ベッドから降り勉強机の側まで歩いた静香は、

机の引き出しを開け中から巧に借りたハンカチを取り出した。

巧と別れ家に帰った静香は明日にでも巧に連絡をしてハンカチを返そうと思い、

家に帰ってすぐにハンカチを洗いアイロンまでしていたが、

倒れてしまった所為でハンカチを返しそびれていた。

(ハンカチ返さないと)

静香は携帯を手に取り巧にメールを送ることにした。

(えっと…こんにちは、この前公園で会った静香です。あの時は色々ありがとう。借りたハンカチを返したいんだけど、どうしたらいいですか?連絡待ってます……こんな感じでいいかな?)




文章を打ち終わり携帯を持ったままもう1度ベッドに座ると、

メールを送ってから数分も経っていないのに、静香の携帯がブルブルと震えた。

(もう返事が来たの?)

手に持っていた携帯を開くと、画面には巧の名前と着信の文字が表示されていた。

(えっ…電話?)

静香は慌てて通話ボタンを押した。

「…もしもし」

「久しぶりだな、静香」

電話に出た静香に、巧の声が聞こえてくる。

「うん、久しぶりあの、メール見たよね?」

「ああ、あんま時間ねえから電話にしたんだが不味かったか?」

「そんなことないよ!ただてっきりメールが来ると思ってたから驚いただけなの」

「ならこのまま電話続けるぞ。話し戻すが、ハンカチ返したいんだろ?律儀な奴だよな…」

「そうかな?」

「構わねえけどな、今日の夜8時にこの前会った公園で会おうぜ」

「今日?」

「なんだよ、都合悪いのか?」

「そういう訳じゃないけど…」

前回会った時の様に強引な巧に静香は戸惑っていた。

巧はそんな静香の様子に気づき、不満げな声を出す。

「けど何だよ?」

声のトーンが下がった巧に静香は慌てて返事をした。

「…分かった。今日の8時に公園ね?」

「ああ、マズイそろそろ授業始まるな、お前んとこもそうだろ?」

「……私は…」

思いがけないセリフに驚く静香が巧の質問に答える前に巧が話しを続けた。

「!担任来たからもう切るぜ!見つかると面倒なんだ、また後でな」

そう言い終わると静香の返事も聞かず、巧は電話を切った。

静香は今学校に行けていないと、一瞬話そうかと思ったがまだ会って間もない巧に、

気を使わせてしまうのではないかと躊躇ためらっていたので、

巧の質問に答えなくて済み静香は安堵していた。




2週間振りに外に出る事になった静香は、

発作がもし起きてしまった時の為の用意と、着て行く服を選びだす。

まだ巧と会うまで10時間以上ある事に静香が気づくのは、

出掛ける用意が全て終わった後のことだった。







宝聖学園のグラウンドでは、今日も野球部は放課後の練習をしている。

静香が学校を休み2週間、野球部の様子は大きく変わっていた。

今まで静香がしていた仕事が1年のマネージャー達に回り、

1年達は静香のしていた仕事が分からず、

あまりの大変さにこの2週間で2人のマネージャーが野球部を辞めてしまった。

残った3人の内2人は何とか静香の様に頑張ろうと努力し始めたが、

白羽だけはどんなに忙しくても変わらなかった。




決まった時間通り休憩になり、白羽が部員達にタオルを1人1人に配り始めた。

「マネージャー、ドリンクは?」

タオルを受け取った中山がドリンクが無い事に気づき、質問をした。

「えっ…今他の2人が作ってます」

タオルを配っていた白羽の返答に中山の隣にいた流が苛立たしげに答える。

静香がいなくなってから流は日に日にやり場のない苛立ちを感じていた。

「チッ、タオルなんか配ってねえで、ドリンク早く作って持って来い!」

「……タオルを配るのだって私達の仕事です」

「何?」

好戦的な白羽を流は睨みつける。

そんな流の態度が白羽のプライドを傷つけたのか、白羽の不満が一気に溢れだした。

「元々ドリンク作りみたいな地味な仕事は全部あの人がするはずじゃない!なのに何で私がそんな事しなきゃいけないのよ!もう辞めるわよ!野球部なんて!!」

それだけ言うと、まだ持っていたタオルを投げ捨てパタパタと走り去った。




目の前で怒り去って行った白羽の姿を見て、部員達が騒つきだす。

「…京香ちゃんも辞めたか…これで3人目だな…なあ流そろそろ……オイ流!」

流は中山の言葉を最後まで聞かず、騒いでいる部員達を尻目に、

グラウンドの隅に生えている1本の大きな木の側に移動した。

流がその木の根元にしゃがみ込みうつむいた。

そのままぴくりとも動かずしゃがんでいる流の前に、

何時の間にいたのか中山は、流の目の前に立ち流を見下ろしていた。






中山が近くに来た事に気がついた流は、

ぼおっとした様子で目の前の中山を見上げる。

「…何だ?」

中山は流を見下ろしながら、どこか怒った様子で流に話しかけた。

「…白羽達の事は確かにお前の言い方も悪いが、流だけの所為じゃないから別に何も言わない。でもな静香ちゃんは違う。この2週間で静香ちゃんが、野球部の為にどれだけ頑張ってくれてたか分かっただろ?」

「………ああ」

「なら、謝りに行けよ」

中山はずっと流を見つめ話したが、流は中山が来る前の様に目線を下げ地面を見つめた。

「…………行かねえ」

「はあ?」

流石に流も謝りに行くと思っていた中山は、流の意外な一言に驚き声を上げる。

「謝れるわけねえだろ!」

流は勢いよく立ち上がり、木を思い切り殴りつけた。

「静香にだけは、俺が間違いだった何て…認められねえ」

そう言った流は苦しそうで、流自身は謝りたいと思っているのに、

プライドが邪魔をして静香に謝れないのだと、中山はすぐに分かった。

「…はあ、お前は…本当に面倒な奴だな!これ以上俺が言ってもお前は聞かないだろうから、これで最後だ…………このままじゃお前、後悔するぞ」

「………」

「恰好付けて、失くしてから後悔したって遅いんだぜ…俺が言えるのはそれだけだ」

「………」




何も答えない流に背を向け中山は離れた場所にいる部員達の元に歩き出した。

残ったマネージャー達が、作って持ってきたドリンクに群がっている部員たちの姿を

遠くに確認した中山は、マネージャーに声を掛ける。

「マネージャー!俺にもドリンクくれ!」

中山の大声が流の耳にも聞こえたが流はその場から動かず、

何かを考えるように目を閉じた。





静香ちゃんは、次から次へと問題が…

でも最後は誰とくっついても、静香ちゃんは幸せにするつもりです!



お読み下さりありがとうございました。



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