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未来への約束 第1話

「静香俺と結婚しよう」

「けっこん?けっこんって何?」

「お前はそんなことも知らないのか?結婚ってのは、好きな奴とずっと一緒にいるって、約束することだ」

「うん!いいよ、流とけっこんする!」

「よしこれで俺たちは、ずっと一緒だな………」






ピッピッピッ、ピピピピピピピピピ

「………うっ…うーん」

いつもの時間いつものように静香の目覚まし時計が部屋中に鳴り響く。

ベッドから腕をだし慣れた様子で目覚ましを止めると、ゆっくり掛け布団を剥ぎ起き上った。

「今日も1日頑張ろう」




神城静香かみしろしずか16歳は、

宝聖ほうせい学園高等部に通う高校2年生だ。

宝聖学園は部活動に力を入れている学校で、

特に静香がマネージャーをしている野球部は甲子園の常連校で、

宝聖野球部に入る為に宝聖学園に入る程の人気がある。

今年の夏に行われた甲子園でもその活躍は目覚しいものだった。

なので部員数がとても多い、

それなのに静香はいつも5:40に学園のグラウンドに行き、

たった1人で朝連の為に準備をしていた。




野球部は人数がいるのでもちろん最初は何人もマネージャーがいたのだが、

宝聖野球部のマネージャーの役割はとても多い。

朝連の準備もその中の1つ。

大半はあまりの大変さに、すぐに辞めていった。

それでも1か月前までは、3年の先輩マネージャーが3人いたのだが引退してしまい。

2年は静香しかマネージャーがいない。

今いるのは静香と地味な仕事はしようとしない1年マネージャー5人だった。




静香は1年のマネージャー達に色々な仕事をして貰おうとするのだが、

部員と関われる様な仕事以外はしようとせず、裏方の仕事は静香しかしていなかった。

静香は大人しい性格なので、何時も1年のマネージャー達に言い包められてしまう。



先輩マネージャーが居た頃も、3年のマネージャー達は皆、

大人しい性格だった為1年達は好き勝手にしていた。

それでもマネージャーは静香と合わせて4人いたので朝連の準備もそこまで時間は必要なかったが、

今では静香1人が準備をしなくてはいけない為、

静香は学園生徒の誰よりも早く学校に行き、1人で準備をしている。






朝連は毎朝7:30から始まる。

今日も静香は7:00になんとか準備を終わらせることが出来た。

グラウンドでの準備が終わり静香が女子更衣室のドアを開けると、

1年のマネージャー達が声を掛けてきた。

「先輩、おはようございます」

「おはようございまーす」

1年のマネージャー達は今し方来たようで、全員ジャージに着替えているところだった。




彼女達はいつも静香の仕事が終わり、野球部の部員が来る前に登校していた。

静香はこのままではいけないと考え、

1年のマネージャー達が着替え終わるのを待ち話しかける。

「おはよう…あのみんなに聞いて欲しいことがあるの」

マネージャー達はジャージに着替え何事かと一斉に静香を見つめる。

皆の視線に一瞬躊躇った静香だったが意を決し話し始めた。

「明日からは、6:30にグラウンドに来てくれない?」

「えっ、どうしてですか?」

「皆学校に慣れなくて忙しいから朝連の準備は無理って言ったよね、でももう10月だし…実は放課後の練習中も今皆がやってる仕事以外にやってもらいたいことがあるの…お願い」




静香の言葉に誰も答えようとしなかった。

しかし、しばらくすると1人の少女が話しだした。

「でも1年生はレポートの提出がもうすぐあるんで、みんな忙しいわよね?」

静香を見つめながらそう言うと他のマネージャー達は次々に同意した。

「白羽さん…」




彼女の名前は白羽京香しらばきょうか1年生には見えないほどスタイルが良く、

顔も綺麗でモデルのスカウトに何度も合う程の美女だが、

静香は彼女達の中で勝気な京香のことが1番苦手だった。

「私達がしているマネの仕事も大変ですし、これ以上忙しくなったら私倒れちゃいます。」

白羽は長い髪を指先に絡め面倒そうにため息を吐く。

「大変なのは分かるけど…」

どうにか頼もうと静香が白羽に1歩近づくが、

「静香先輩そろそろ部員も来ると思うので、その話はまた今度にしましょう」

「あっ」

「私今日はドリンク担当するので確認してきます。」

静香は話の続きをしようとするが、京香はそう言ってドリンク補充に行ってしまった。




「白羽さんずるい私もドリンク担当で」

残っていた後輩の1人が白羽を追いかける。

「うーんじゃあ、あたしはタオル担当であたしも確認してこよう」

「わたしも行く!」

「ならスコア表はアタシがします」

「…………」

皆静香が声をかける前に急いで移動した。




ドリンク確認もタオル確認も2人ずつも必要ない。

スコア表など今行って、どうするというのだろうか?

要するに皆部員の側で楽な目立つ仕事はしたいが、面倒で地味な仕事はしたくないのだろう。




(今日もダメだった……仕方ない、とりあえず朝は予備の道具点検と部費で買わないといけない物を確認しないと…そういえば傷薬と絆創膏が無くなりそうだったよね、薬箱見て確認しよう)

静香がそんなことを考えている内に、時計の針は7:25分になっていた。

(グラウンドに行かないと!)

静香はグラウンドに向かって走る。





「今日の練習メニューを発表する」

グラウンドに着くと幼馴染の流が部員達に、練習メニューを伝えているところだった。




越谷流こしたにりゅうは宝聖学園高等部の2年生で野球部の部長をしている。

3年が引退しまだ新しく部長になったばかりなのだが、

完ぺきに部長としての役割を毎日こなし、野球部の部員達には信頼されている。

そればかりか流は成績優秀で外見も良いので、女子の人気は流に集っていた。

現に今も静香以外のマネ達は、流を恍惚とした顔で見つめている。




(すごいな流は…私もあんな風に上手く話せるようにならないと)

静香は何でも器用にこなしてしまう流に憧れている。

それと同時に静香は流のことを想っていた。

しかし静香は他の女子達とは違い、

流と付き合いたい自分の気持ちを伝えたいと思ったことはない。

静香は流に誰よりも幸せになってもらいたいと考えているからだ。




静香の両親と流の両親は大学時代からの友人同士で、

静香たちが生まれた頃から住んでいる家も近くにあり、2人は幼馴染として育った。

幼い頃からずっと2人は一緒だった。

静香は流がいつも何事にも努力していることを知っている。

器用にこなすと言っても、流は天才なわけではない。

野球も勉強も努力しているから今の流がいる。

その過程を知っているからこそ、静香は流を好きになった。

だが何時からか、色々なことが出来る流と自分を比べ、

流の隣に自分は似合わないと考えるようになってしまった。




だから静香は隣に居られないのなら、少しでも流を支えたいと思うようになった。

今のところ流の側に、彼女らしき人を見かけたことはない。

もし彼女が出来てしまったら、胸が苦しくて泣いてしまうだろう。

それでも流の前では笑っておめでとうと言える自信が静香にはあった。

それは流の幼馴染という世界で静香しかいない立場があったからかも知れない。




「今日も1日気合い入れていくぞ」

流の話しが終わり部員達は各自練習に取り掛る。

「静香」

静香も薬箱の確認をする為、

薬箱のある女子更衣室に行こうとすると、すぐ後ろで静香を呼ぶ声がした。

「流」

静香が振り返ると流は静香の近くまで来ていた。

最近はあまり流から話し掛けられることのなかった静香は単純に喜んでいたが、

流は何処となく不機嫌そうな顔をしていた。




「どうしたの?」

「最近マネージャーの仕事しているのか?」

「えっ?」

「3年が引退してから、お前が仕事している姿を俺は見たことがねえ」

流が言っていることの意味が、静香にはわからなかった。

「いくらマネージャーやってる期間が長いからと言って、1年共に仕事を押し付けるな」

「………」

「ちゃんとやれ、わかったな」

それだけ言うと流は静香の側を離れ、他の部員達の所へ走って行った。




(押し付けるな…か)

喜んで上がっていた気持ちが急速に下がっていく。

静香が仕事を押し付けている訳が無い。

静香は1年のマネージャー達の何倍も働いていた。

しかし最近は洗濯や部費のチェック、買い出し等で部員の前でするような仕事は、殆どしてこなかった。

変わりに部員達を応援しドリンクやタオルを渡すのは、何時も1年のマネージャー達だ。

そのドリンクさえも、作るのは静香の役目だった。

裏で静香が作ったドリンクをただグラウンドに持って行き渡しているだけなのだが、

流にしてみれば、何時も姿が見えない静香は、さぼっているのだと思い込んでいた。




有らぬ誤解をされショックを受けた静香だったが

(これも私が後輩の皆に上手く言えないのが悪いんだし、流に誤解されちゃったけど、私は私の仕事をしていれば流ならすぐ気付いてくれるよね)

そう気持ちを入れ変え女子更衣室に向かった。






(……98、99、100、うん100個ちゃんとある。)

静香は薬箱の確認を終え、倉庫で予備のバットやグローブ、ボールの数をチェックしていた。

最後のボールの数を、数え終え外に出るともう朝連は終わっていた。

グラウンドから見える時計を確認した静香は走り出す。

(予鈴が鳴るまで後10分しかない、急いで着替えて鞄持って教室行かないと)






女子更衣室に着き中に入るともう誰も残っていなかった。

静香は制服に早早はやばや着替え、教室に行こうと鞄を持つと、

隣の男子更衣室の扉が開く音がし、話し声が聞こえてくる。

「この時間ならなんとか間に合いそうだな、流」

「ああ」

聞こえてきた声は流と流の親友の中山彬なかやまあきらだった。




中山は明るく誰にでも優しい性格で、野球部の副部長をしている。

そして流に次いで女子に人気のある人物だ。

(流と中山君もまだ教室行ってなかったんだ)

静香は先に教室に行こうと、女子更衣室の扉の前まで歩く。

「お前朝連の最中、静香を見たか?」

扉の前で静香の足はピタッと止まった。

「静香ちゃん?うーん俺は見てないけど?」

「…やっぱり、アイツまたさぼったんだな」

(盗み聞きなんていけない、早く教室に行かないと)

そう思っているのに、静香の足は一向に先に進まない。

静香が葛藤している間にも、流と中山は着替えながら話を続けた。




「静香に今日、マネの仕事ちゃんとやれって言ったんだ」

「静香ちゃん何て?」

「返事もしなかった」

「だからってさぼったと決まった訳じゃないだろ?見えないとこで何かやってたかもしれないし、具合悪くて休んでたかもしれない」

「ここ最近毎日か?」

「うーん」

静香の心臓がドクドクと早まる。

(これ以上聞いちゃだめだ)

動かない体を無理やり動かし、扉に手をかけた。




「3年がいなくなって怠けだしたんだろ、結局アイツも他の女と変わらねえ、出来もしねえ事言う、口だけの女だ」

「いくらなんでも言いすぎだぜ流、お前静香ちゃんと幼馴染なんだろ?」




「…ただ家が近いだけだ、幼馴染なんて言うんじゃねえ、あんな女」






バン!

気がつくと静香は、女子更衣室の扉を乱暴に開け走り出していた。

とにかく学校には居たくなかった。

1人になりたかった。

苦しく、悲しく、辛い、負の感情が静香を襲った。

けれど涙が出ていなかった。

それは泣く事すら忘れてしまう程、静香の胸が傷ついていたからだった。

静香は何処に行くのかも考えず、ただ、ただ走る。

流の声を忘れ去ってしまいたいと、願いながら…






「今女子更衣室から、音がしたな」

「誰かまだ残ってたんだろ」

「聞かれたかもしれないぜ?いいのか?」

「別に気にしねえ」

「お前は良くても…いやなんでもない」

中山は軽くため息を吐くと、男子更衣室の扉を開ける。

すると校門に向かい走る静香の姿が見えた。

「オイ流!マズイ、今聞いてたの、きっと静香ちゃんだ!早く追いかけろ!!」

後ろにいる流に叫ぶ中山だが、流は顔を下に向け動こうとしない。

「流!!」

流はゆっくり顔を上げた。

「………俺は間違ったことなんか言ってねえ」

「お前…」

「…そんなに気になるなら、お前が行けばいいだろ」

流は中山の横を通り教室に向かい歩きだした。

「お前が行かなきゃ意味ないだろ…馬鹿野郎」

中山は静香が走って行った校門を見るが、そこに静香の姿は無かった。

中山はやり切れなさを抱えながらも、流の後を追い教室に向かった。




あらすじを読むと分るかもしれませんが、三角関係のお相手は中山ではありません!


自分で書いていて途中相手は中山でもいいかな?と思いましたが、流は中山がいないと暴走しそうで…(笑)

やはり流のフォロー役という大事な役割があるので、止めました。



次回は、もう1人の相手が登場します!

のんびり更新かもしれませんが、よろしければ2話目もお読みください!!


感想がありましたら、お待ちしています。



お読み下さりありがとうございました。

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