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第二幕:森林と狩猟

アガーテはヨーロッパの最大の自動車メーカー、ルノーの車ルノー・25-ヴァンサンクを駆ってマルセイユ郊外に出ていた。


ヴァンサンクは最高車種ルノー・20の後継機として生まれたハッチバック型の自動車だ。


過去には大統領、駐日フランス大使などの公用車として愛用された経歴があるからその性能と気品が窺える。


これは3年前に愛車を破棄した時に新たに貰った車でずっと愛車として使用している。


アガーテが目指す場所は人知れずにある秘密の森。


マルセイユから2時間ほどの掛る場所で近くの村は向かって1時間から2時間の距離もある。


そこで銃の練習をするのだ。


その森は伯爵の私有地で動物たちと植物の楽園とも言える場所だ。


2時間ほど掛けて森に到着した。


この森は昼間でも暗く人も私有地と言う事もあり来れないから射撃の練習には持って来いの練習場所だ。


ルノーから降りたアガーテはシューティングサングラスを外した。


服装はデニムのパンツに歩き易いシューズ。


上着はオレンジ色の狩猟ベストだった。


腰まで伸びていた金髪は真後ろで纏めている。


「・・・・懐かしいわね」


ここで3年前に自分は初めて射撃をした。


拳銃からサブマシンガン、アサルトライフル、狙撃銃などを撃って練習をして格闘技なども学んだ。


あの時は強くなりたかった。


ただ、それだけの事であった。


暫く森の空気に感じていたが直ぐに後部座席のドアを開けて、黒いナイロン製の細長い鞄を取り出した。


中にはライフルが入っている。


森の中に足を踏み入れる。


一歩踏み出す事に森が拒否するように木がざわめく。


しかし、アガーテには聞き慣れた物であった。


暫く歩いて行くと小さな湖が見えた。


ここも覚えている。


初めて・・・・・・・夫以外に女を捧げた場所。


あの時は雨が降った上に風が強く、とても酷い夜であった。


そんな夜に自分は妻と言う名を捨てた。


「・・・・・懐かしいわね」


あの時から、いや、その前から自分は名も性も全て過去は捨て去った。


何時までも悔やみ続けるのは嫌だったし、何より思い出すのが嫌だった。


だから、抱いてくれるように頼んだのだ。


相手はかなり嫌がっていたが、自分の意志の固さに根負けし結局は抱いてくれた。


かなり罪悪感を覚えていたのを終始、覚えている。


アガーテにはそれが嫌であり我慢できなかった。


あれは彼のせいではない。


元夫のせいでもない。


敵が悪いと言えるが、向こうも向こうなりの大義名分があるから必ずしも悪とは言えない。


だが、とアガーテは思う。


居るかどうかも分からない相手の啓示を受け、何をやっても許されるという考えは絶対に悪だ。


だから、そんな組織や者を見ると否応なく鉛弾をお見舞いしたくなる。


そんな事を考えていると大きな風が吹いた。


髪が乱れるのを右手で抑える。


風が止むのを待ってから、彼女は再び歩き出した。


更に森奥へと進むと、小さな小屋が見えた。


自分の主人が建てた小屋で見た目は木製だがそれはダミーだ。


窓ガラスは対物用ライフルも通さない防弾ガラスでドアには鋼鉄の鉄板を埋め込んである。


更に丸太の中にも鉄筋コンクリートを埋め込んであるから、籠城しても簡単には落とせないようにされている。


ドアに近付いて、鍵を取り出して開けた。


ギィ


と音を立てドアが開く。


直ぐ隣にあるスイッチを入れて、明かりを点けてから中に入る。


鞄を木製のテーブルに置いてから椅子に座った。


ドアは既に閉じてある。


軽く息を吐いてからナイロン製の鞄を開けた。


中には一丁のライフルが入っていた。


スイスの老舗銃器メーカーSIG社が開発したアサルトライフルSG550だった。


世界的に見ても優れた銃器メーカーであるSIG社が作り上げたSG550。


AK-47を参考にした故に故障なども少なく、極めて扱い易いアサルトライフルと認識されているが高額で主に司法組織や特殊部隊など極一部のものだけが使用する。


しかし、スイスは中立国をモットーにしているから、国民すべてにSG550を持たせると同時に訓練をしている。


スイスは山岳地帯が多いゆえに狙撃などを重点に置いている。


そのため、NATO軍が採用している5.56mmよりも更に遠距離狙撃が可能な5.6mm×45弾を使用している。


更に夜間射撃用のナイト・サイトを標準装備している程だ。


元から命中率が高いアサルトライフル故に高倍率のスコープを取り付ければ、H&K PSG1に匹敵する狙撃銃に早変わりする。


アガーテのSG550には2脚と高倍率のスコープが装着されていた。


だが、このライフルはあくまでアサルトライフルだ。


それ故にどうしても狙撃専門に造られたライフルに比べると射程距離が短くなる。


5.6mm×45弾を使用してもやはり他のライフルに比べると劣る。


これで今回の獲物を仕留める事が出来るか?


「獲物を仕留められるギリギリの射程まで近付くしかないわね」


もしくは狙撃以外の手で殺すかだ。


狩りの名人は獲物を確実に仕留めるため自ら獲物に近付く。


確実に仕留められる距離まで近づく。


これこそ狩りの名人の真髄と言えるだろう。


狙撃以外の手で殺すとなれば近距離で殺す事になるだろう。


それはアガーテとしては難しかった。


書かれていた資料では、元GIGNのメンバーだけあって空手は黒帯で柔道も習得していると言う。


更にキックボクシングもこなし、拳銃でも50メートルの的に全弾を命中させる事も可能と言う驚異的な射撃術を誇っている。


「かなりきついわね」


ブランクがあり、更に格闘技が苦手なアガーテには不味い相手だった。


だが、この獲物を仕留めて主に献上すると明言した。


そしてこの獲物を仕留められたら恐らく更に自信が付くだろう。


極端なほど自信が無いのも問題だが、自信があり過ぎるのも問題である。


この相手ならそこそこの自信を付けられるから申し分ないと言える。


SIG SG550を鞄から取り出して半透明のマガジンを抜いた。


半透明にする事により残弾数が幾つあるか明確に確認が出来る。


全弾装填しているから30発だ。


銃口にサプレッサーを取り付けた。


アメリカではサプレッサーを使用する事は禁止されているが、ヨーロッパでは射撃の音が煩かったり、獲物を逃がす事もあるためサプレッサーを使用する事が認められている。


要は国によって見方も違うのだ。


サプレッサーを取り付けて、アガーテは小屋を出た。


小屋の直ぐ前にある木にナイフで的を描いた。


それから300メートルほど離れてスコープを覗き見する。


高倍率のスコープだけあってよく見える。


人差し指をトリガーに掛けて引いた。


サプレッサーを取り付けているため極めて小さい音が出た。


弾は的から大きく右に15センチも外れた。


「やはり・・・・・・・・・・・」


アガーテは直ぐに倍率などを調節し始めた。


映画などでは鞄から出して直ぐに狙撃するが、あれは間違いだ。


スコープというのは非常にデリケートな代物だ。


特に温度差が激しいとスコープがぼやけて見えてしまう。


更に高倍率だとそれが顕著な程に出てしまうから痛い所だ。


アガーテとしてもスコープが余り好きではなかった。


ただ、確実に相手の眉間か心臓を狙う為にスコープを装着しているに過ぎない。


実際、スコープ無しで狙撃するのはかなり難しい。


これが出来るのは極一部の限られた才能と努力をした者たちだけだ。


射撃はそれなりに出来る方だが、やはりまだスコープ無しでは心もとない。


スコープを外して倍率などを細かく調整しては何度も試射をする。


何発か無駄撃ちして、やっと的に命中した。


更に細かく調整して的の中心に当たったのは全弾を撃ち尽くす5発前だった。


「・・・・ブランクは怖いわ」


ブランクが長いとこんなにも感覚が鈍る物か、と思う。


ポケットに入れていた銀製の懐中時計を取り出してボタンを押して蓋を開けた。


時計の針は12時を指そうとしていた。


「そろそろ狩りに行こうかしら」


ここには3日ほど居る積りだ。


たかが3日でブランクを直せるとは思っていないが、表の世界での仕事も考えて難しいのだ。


SG550を持ち適当に足を動かして獲物を探す。


今は秋の時季だから冬眠前に熊などが出ている筈だ。


それか鹿のどちらかだろう。


3日分の食料を得られるなら、熊が一番だ。


別に生のまま食べても良いし、少し臭くても構わない。


昔なら口が拒絶していただろうが、狩人になってからは気にもしなくなった。


一々、そんな細かい事を気にしていたら生きていけないのだから。


1時間ほど時間を掛けて歩いていると、鹿を見つけた。


木の実か何かを食べているのだろう。


こちらに気付かない。


ふと横を見ると子供が居た。


子供を見ると、過去を思い出す。


『あの子たちも若くして死んでしまった』


胸に弾丸を撃たれて、血を流して、死んだ。


自分はそれを黙って見ているしか出来なかった。


代わりに盾になることも出来なかった。


しなかったのだ。


怖くて、自らの命が大事で。


鹿の親子を見ていると無性に狩りたい、という衝動に襲われた。


本来なら親子連れの獲物を仕留めるのは、駄目だ。


親を亡くした子供一人で生きていけるほど自然は優しくない。


直ぐに狼や熊の餌食だ。


それか冬の凍てつくような寒さに負けて野たれ死ぬ。


だから、親子連れは殺さない。


アガーテの主も親子連れは身の危険が無い限り、仕留めない。


その部下である自分が破るのか?


『・・・・・・出来ないわね』


静かに構えていたSG550を降ろして、別の獲物を探した。


今度は大きな足音と糞を見つけた。


大きさから見て熊だろう。


「・・・・・・・・・・」


熊は非常に臆病な生き物だ。


人間を見れば逃げる。


だが、人間が変な真似をすると襲い掛かるし、人間が先に逃げると追って来る。


所謂、追跡本能とも言える行動だ。


それか子供を産んだばかりだと余計に気が昂ぶって危険だ。


しかし、今は冬眠前だから、先ず子連れは居ないだろうと思った。


熊は冬眠時に子を産み、育てるのだから。


足跡と糞を見て、まだ新しい物と解かり、追跡した。


犬は居ない。


狩猟において犬は絶対不可欠だ。


“1に犬、2に足、3に銃”


と言われるほど犬は大事なのだ。


獲物を追跡し、狩人が仕留め易い環境を作る。


犬の種類によって大きく異なるが、大体はこんなものだ。


アガーテは犬を飼っていない。


犬が欲しいと思うが、仕事が忙しく中々ペットショップに行けないから仕方が無い。


一人で熊の後を追った。


熊を追跡して仕留めた頃には既に夜になっていた。


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