梨を出すだけのゴミスキルとバカにされて追放されたけど、レベルアップしたらチートと判明。ドラゴン瞬殺したら戻ってこいとか……おまえたちこそ用無しだ!
「おい、ラーフル! お前、荷物まとめて出て行け」
「……は?」
「聞こえなかったのか? 追放だよ」
リーダーのザマルは、吐き捨てるように言った。
「俺たちも充分強くなったから、お前のスキルはもう用無しなんだよ」
用無し。
その言葉が胸に刺さった。
俺は、三年間このパーティで戦ってきた。
ジョブは《ナシ使い》。
そして唯一のスキルが《ラ・フランス》。
「ラ・フランス」
ぼとっ。
手のひらに、大きな洋梨が一個落ちてきた。
「ぶはっ!」
ザマルが吹き出した。
「何度見ても笑えるな!」
「いつ見てもシュールですね!」
ザマルの腰巾着、バンザが腹を抱える。
「ラーフルぅ。あたし、前から言おうと思ってたんだけどぉ」
ビルデが髪をかき上げた。
「そんなスキルで冒険者やってるの、ちょっと恥ずかしいよ?」
三人が笑う。
俺は手の中の梨を見た。
確かにそうだ。
剣士なら剣技。
魔術師なら魔法。
神官なら治癒。
なのに俺は――梨。
しかも。
俺は三年間、レベル1のままだった。
この世界では、魔物を倒した者に経験値が入る。
だが、俺の《ラ・フランス》には魔物を倒す力がない。
俺にできるのは、せいぜい梨を投げて魔物の気を引くくらい。
その隙にザマルたちが倒す。
当然、経験値を得るのもザマルたちだ。
三年間。
何度戦っても。
俺だけが、レベルが上がらないままだった。
「……分かったよ」
荷物を背負う。
「世話になったな」
「まあ、ゴブリンの気を引いたり、オヤツくらいには役に立ったぜ!」
「ザマルさん、優しいっすね。そんなこじつけてフォローしなくても……」
「元手ゼロで梨を売れるんだから、食いっぱぐれはないでしょ。頑張ってね、ラーフル」
三人の笑い声を背中に浴びながら、俺は宿を出た。
◇
翌朝。
俺は一人で町の外にいた。
追放されたとはいえ、食っていかなければならない。
冒険者を辞めるにしても、当面の生活費くらいは必要だ。
「……やるしかないか」
腰の短剣を抜く。
戦闘用というより、野営で使っていた安物だ。
俺は町の近くにいる、一匹のスライムを見つけた。
「ラ・フランス」
ぼとっ。
梨を投げる。
スライムがそちらへ向きを変えた。
「今だ!」
背後から短剣を突き立てる。
一撃。
二撃。
三撃。
何度も刺して、ようやくスライムが崩れた。
「はぁ……はぁ……」
弱い。
たった一匹のスライム相手に、息が切れている。
やっぱり俺に冒険者なんて――。
【経験値を獲得しました】
「……え?」
目の前に表示が浮かんだ。
経験値。
その文字を見るのは、いつ以来だろう。
「俺が……倒したから?」
もう一匹。
梨を投げる。
気を取られた隙に短剣で刺す。
【経験値を獲得しました】
「……入った」
もう一匹。
【経験値を獲得しました】
「入った!」
気づけば俺は、夢中でスライムを探していた。
梨を投げる。
短剣で倒す。
梨を投げる。
短剣で倒す。
そして夕方。
【ジョブ《ナシ使い》のレベルが2になりました】
「…………」
一瞬、意味が分からなかった。
「レベル……2?」
三年間。
どれだけ冒険しても届かなかった数字。
「上がった……」
【スキル《ラ・フランス》が成長しました】
「え?」
俺は表示を凝視した。
「成長するのか、これ!?」
俺は手を突き出した。
頭に浮かんだのは――毒。
「ラ・フランス!」
ぼとっ。
梨が落ちてきた。
【毒梨】
「毒梨!?」
俺は梨を二度見した。
「急に物騒になったな!?」
そこへ一匹のゴブリンが飛び出してきた。
「ギャアア!」
「ちょうどいい!」
毒梨を投げる。
ゴブリンは反射的に受け取った。
「ギャ?」
梨を見る。
俺を見る。
そして……食った。
「食うのかよ!」
「ギャッ!?」
ゴブリンが倒れた。
【ゴブリンを討伐しました】
【経験値を獲得しました】
「…………」
俺は表示を見た。
毒梨を見る。
倒れたゴブリンを見る。
「これ……」
今までとは違う。
短剣で必死に倒さなくてもいい。
《ラ・フランス》そのものが、魔物を倒せる。
つまり。
これなら、もっと楽に魔物を倒して経験値を稼げる。
「ひょっとして、このスキル……」
胸が高鳴った。
「ハズレ……じゃない?」
◇
そこからは早かった。
毒梨で魔物を倒す。
経験値が入る。
レベルが上がる。
【レベル3】
麻痺する梨が思い浮かんだ。
「ラ・フランス!」
【麻痺梨】
食べたゴブリンが硬直した。
そこを短剣で倒す。
【経験値を獲得しました】
「いける!」
どうやら《ラ・フランス》は、レベルが上がるほど、頭に思い浮かんだ様々な《ナシ》を出せるようになるらしい。
毒。
麻痺。
硬い梨。
投げると爆発する梨。
攻撃手段が増える。
魔物を倒しやすくなる。
さらに経験値が入る。
そして、またレベルが上がる。
「これ、普通に強いじゃん!」
三年間レベル1だったのが嘘みたいだった。
レベル1だったから、弱かったんだ。
レベル2からは《ラ・フランス》自体で敵を倒せる。
そうなれば、経験値が入る。
今まで俺は、その最初の一段を上がれなかっただけだった。
そして。
【ジョブ《ナシ使い》がレベル7になりました】
「よし!」
ここまで来れば期待もする。
次はどんな梨だ?
もっと強い毒?
凍らせる梨?
俺は期待を込めて唱えた。
「ラ・フランス!」
ぼとっ。
「…………」
臭い。
ものすごく臭い。
【腐った梨】
「…………」
俺は梨を見た。
「なんでレベル上がって弱くなってんだよ!」
納得できない。
もう一度。
「ラ・フランス!」
ぼとっ。
【腐った梨】
「もう一回!」
ぼとっ。
【腐った梨】
「ラ・フランス!」
ぼとっ。
【腐った梨】
「おい!」
辺りに異臭が漂い始めた。
「レベル7どうなってんだよ!」
半ばヤケになって、もう一度唱える。
「ラ・フランス!」
ぼとっ。
キラァァァン。
「…………え?」
地面に落ちた梨が輝いている。
【金の梨】
「…………金?」
恐る恐る拾う。
重い。
どう見ても金だ。
町へ戻って鑑定してもらった。
「十万ゴールドですね」
「じゅっ……!?」
俺は金の梨を見る。
鑑定士を見る。
もう一度、梨を見る。
「十万!?」
「はい」
「…………」
頭の中に、ビルデの声が蘇った。
『元手ゼロで梨を売れるんだから、食いっぱぐれはないでしょ』
「…………」
本当に食いっぱぐれなくなった。
「なんであいつらの嫌味、いちいち当たるんだよ」
俺は走って町の外へ戻った。
「ラ・フランス!」
腐。
「ラ・フランス!」
腐。
「ラ・フランス!」
腐。
「ラ・フランス!」
腐。
「確率どうなってんだよ!!」
結局、あれ以来、金の梨は出てこなかった。
◇
そんなこんなで。
一人で魔物を狩り続けること、一ヶ月。
ついにその瞬間が来た。
【ジョブ《ナシ使い》がレベル10になりました】
「きた!」
節目のレベルだ。
レベル7で金まで出た。
レベル10なら、とんでもない梨が出るに違いない。
【《ラ・フランス》がレベル10になりました】
俺は手を突き出した。
「ラ・フランス!」
ぼとっ。
「…………」
梨だった。
普通の梨。
「え?」
拾ってみる。
見た目はいつものラ・フランスだ。
毒もない。
麻痺もしない。
金でもない。
「まさか……」
かじってみた。
「…………」
もう一口。
「…………うまっ」
甘い。
いや。
めちゃくちゃうまい。
噛んだ瞬間、果汁が溢れる。
香りも、舌触りも、今まで食べた梨とはまるで違う。
「うっっっま!」
夢中でもう一口。
「…………」
そして気づいた。
「いや、待て」
俺は手の中の梨を見る。
「レベル10で、めちゃくちゃ美味しくなっただけ!?」
確かにうまい。
死ぬほどうまい。
でも戦闘には何の役にも立たない。
「なんなんだよ……」
レベル10。
期待していたのに。
出てきたのは、ただ最高に美味しい洋梨。
「……まあ、うまいからいいけど」
もう一口食べようとした。
その瞬間。
「ギャッ!」
「え?」
茂みから飛び出してきたゴブリンが、俺の手から梨をひったくった。
「あっ!」
「ギャギャッ!」
ゴブリンが逃げる。
「待て!」
よりによって、初めて出したレベル10の梨だぞ。
「返せ!」
「ギャギャギャ!」
「待ちやがれ!」
ゴブリンは俺を振り返り、梨を見せつける。
「ギャッ!」
「てめえ!」
俺はゴブリンを指差した。
「俺の『ようなし』返せ!」
ポンッ。
「…………」
ゴブリンが消えた。
「…………え?」
宙に浮いていた梨が落ちる。
ぼとっ。
そして。
その横に。
ぼとっ。
もう一個、梨が落ちた。
「…………」
二個。
「…………増えた?」
俺は二個の梨を見る。
さっきまでゴブリンがいた場所を見る。
もう一度、梨を見る。
そのとき。
昨日のザマルの声が、なぜか頭をよぎった。
『まあ、ゴブリンの気を引いたり、オヤツくらいには役に立ったぜ!』
「…………」
俺は二個の梨を見た。
「……増えた」
「ギャアア!」
背後から別のゴブリンが飛び出してきた。
俺は振り返る。
ゴブリンを見る。
さっきの言葉を思い出す。
「……ようなし」
ポンッ。
ぼとっ。
「…………」
ゴブリンがいない。
梨がある。
「…………」
俺は梨を拾った。
どう見ても普通のラ・フランス。
試しにかじる。
「うまっ」
レベル10の梨だ。
「…………」
俺は固まった。
洋梨。
ようなし。
用無し。
「…………まさか」
三匹目のゴブリンが現れた。
「ギャアアア!」
俺はそいつを見た。
「お前――」
一拍。
「用無し」
ポンッ。
ぼとっ。
「…………」
極上のラ・フランスが転がった。
「…………」
俺は頭を抱えた。
「そっちの『用無し』かよ!!」
◇
その三日後。
王都に終末の鐘が鳴った。
「逃げろ!」
「西門へ急げ!」
「子供を先に!」
人々が悲鳴を上げる。
俺も空を見上げた。
「…………嘘だろ」
空が黒い。
いや。
空ではない。
翼だ。
山のような巨体。
黒い鱗。
口から漏れる炎だけで雲が赤く染まっている。
『終末の災厄』――エンシェントドラゴン。
三百年前、一夜で三つの国を滅ぼしたとされる伝説の魔物。
「総員、攻撃!」
騎士団が突撃する。
宮廷魔術師たちが一斉に魔法を放つ。
炎。
雷。
氷。
数百の攻撃がエンシェントドラゴンを直撃した。
だが。
「効いて……ない……?」
無傷だった。
『――グオオオオオオオオオオオ!!』
咆哮だけで王都の窓という窓が砕ける。
騎士たちが立ち尽くす。
魔術師たちが絶望する。
俺だって怖い。
怖いけど。
「…………」
三日前の光景を思い出す。
ゴブリン。
ポンッ。
梨。
石でも試した。
ポンッ。
梨。
木でも試した。
ポンッ。
梨。
大きさも、生き物かどうかすら関係なかった。
なら。
「…………いやいや」
俺は首を振る。
相手は終末の災厄だぞ?
国を滅ぼす伝説のドラゴンだぞ?
さすがに――。
エンシェントドラゴンが口を開いた。
巨大な炎が集まっていく。
「あ……」
あれが放たれれば。
王都が消える。
「……やるしかないか」
俺は空を見上げた。
終末の災厄を指差す。
「お前――」
喉が鳴る。
「用無し」
ポンッ。
「…………」
消えた。
山ほどもあったエンシェントドラゴンが。
消えた。
空には青空だけが残っている。
そして。
ぼとっ。
俺の目の前に、一個の洋梨が落ちてきた。
「…………」
王都が静まり返る。
騎士も。
魔術師も。
逃げていた人々も。
全員が俺を見る。
俺は梨を見る。
空を見る。
また梨を見る。
「…………マジかよ」
【鑑定】
《ラ・フランス》
品質:極上
「…………」
こうして終末の災厄は、極上の洋梨になった。
◇
その日から、俺の人生は変わった。
『終末の災厄を一撃で倒した英雄』
『王都の救世主』
『伝説のナシ使い』
最後の呼び名だけはどうにかしてほしかった。
国王から勲章を授けられ、冒険者ギルドからは最高ランクへの昇格を打診された。
そして。
当然というべきか。
あいつらもやってきた。
「頼む、ラーフル! 戻ってきてくれ!」
「…………」
ギルドを出たところで、ザマルが土下座していた。
「俺が間違ってた! お前は最高の仲間だ!」
「そ、そうっすよラーフルさん!」
バンザが揉み手をしながら近づいてくる。
「俺はずっと、ラーフルさんには何かあると思ってたんすよ!」
嘘つけ。
「ねえ、ラーフルぅ」
ビルデが俺の腕に胸を押しつけてきた。
「あたしたち仲間じゃない? あれはちょっとした冗談だったのよぉ」
「冗談?」
「そうそう♡ あたし、本当はラーフルのこと、一番頼りにしてたんだからぁ」
三人を見ながら思い出す。
『お前のスキルはもう用無しなんだよ』
『戦闘中に梨出してどうするんすか!』
『そんなスキルで冒険者やってるの、ちょっと恥ずかしいよ?』
「ラーフル!」
ザマルが顔を上げる。
「もう一度、四人でやり直そう!」
「…………」
俺は三人を見た。
あの日。
ザマルは俺に言った。
用無し。
だったら。
同じ言葉を返すことにした。
「今更戻ってこいとか……」
「ラーフル?」
「お前たちこそ――」
三人の顔を見る。
「用無しだ」
ポンッ。
ポンッ。
ポンッ。
「…………」
静まり返るギルド前。
三人の姿はない。
代わりに。
三個のラ・フランスが転がっていた。
「…………」
一個拾う。
【鑑定】
《ラ・フランス》
品質:極上
「…………」
これ。
元ザマルか?
そっと戻した。
「なんか嫌だな」
その瞬間。
聞き慣れた声が頭の中に響いた。
【ジョブ《ナシ使い》のレベルが11になりました】
「お?」
【《ラ・フランス》に新たな能力が追加されました】
「…………」
嫌な予感がする。
恐る恐る確認する。
【新スキル】
《※※※※※》
「…………」
俺は空を見上げた。
「なんでだよ!?」
――完――
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ところで、ラーフルがLv11で覚えた
《※※※※※》
いったい、どんなスキルだったのでしょうか。
作者にも分かりません。
というわけで、
Lv11の新スキル、感想欄で募集中です!
「《用無し》の次ならこれだろ!」
「こんな梨スキルは嫌だ!」
「いや、もう梨ですらないだろ!」
などなど。
ラーフルが空を見上げて、
「なんでだよ」
と言いたくなるようなスキル、お待ちしております。
くだらなければくだらないほど大歓迎です!




