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梨を出すだけのゴミスキルとバカにされて追放されたけど、レベルアップしたらチートと判明。ドラゴン瞬殺したら戻ってこいとか……おまえたちこそ用無しだ!

掲載日:2026/09/30

「おい、ラーフル! お前、荷物まとめて出て行け」


「……は?」


「聞こえなかったのか? 追放だよ」


 リーダーのザマルは、吐き捨てるように言った。


「俺たちも充分強くなったから、お前のスキルはもう用無しなんだよ」


 用無し。

 その言葉が胸に刺さった。


 俺は、三年間このパーティで戦ってきた。


 ジョブは《ナシ使い》。

 そして唯一のスキルが《ラ・フランス》。


「ラ・フランス」


 ぼとっ。

 手のひらに、大きな洋梨が一個落ちてきた。


「ぶはっ!」

 ザマルが吹き出した。

「何度見ても笑えるな!」


「いつ見てもシュールですね!」

 ザマルの腰巾着、バンザが腹を抱える。


「ラーフルぅ。あたし、前から言おうと思ってたんだけどぉ」

 ビルデが髪をかき上げた。

「そんなスキルで冒険者やってるの、ちょっと恥ずかしいよ?」


 三人が笑う。


 俺は手の中の梨を見た。


 確かにそうだ。


 剣士なら剣技。

 魔術師なら魔法。

 神官なら治癒。


 なのに俺は――梨。


 しかも。

 俺は三年間、レベル1のままだった。


 この世界では、魔物を倒した者に経験値が入る。


 だが、俺の《ラ・フランス》には魔物を倒す力がない。


 俺にできるのは、せいぜい梨を投げて魔物の気を引くくらい。


 その隙にザマルたちが倒す。

 当然、経験値を得るのもザマルたちだ。


 三年間。

 何度戦っても。

 俺だけが、レベルが上がらないままだった。


「……分かったよ」

 荷物を背負う。

「世話になったな」


「まあ、ゴブリンの気を引いたり、オヤツくらいには役に立ったぜ!」


「ザマルさん、優しいっすね。そんなこじつけてフォローしなくても……」


「元手ゼロで梨を売れるんだから、食いっぱぐれはないでしょ。頑張ってね、ラーフル」


 三人の笑い声を背中に浴びながら、俺は宿を出た。


     ◇


 翌朝。

 俺は一人で町の外にいた。


 追放されたとはいえ、食っていかなければならない。


 冒険者を辞めるにしても、当面の生活費くらいは必要だ。


「……やるしかないか」


 腰の短剣を抜く。


 戦闘用というより、野営で使っていた安物だ。

 俺は町の近くにいる、一匹のスライムを見つけた。


「ラ・フランス」

 ぼとっ。


 梨を投げる。

 スライムがそちらへ向きを変えた。


「今だ!」


 背後から短剣を突き立てる。


 一撃。

 二撃。

 三撃。


 何度も刺して、ようやくスライムが崩れた。


「はぁ……はぁ……」


 弱い。

 たった一匹のスライム相手に、息が切れている。


 やっぱり俺に冒険者なんて――。


【経験値を獲得しました】


「……え?」


 目の前に表示が浮かんだ。


 経験値。


 その文字を見るのは、いつ以来だろう。


「俺が……倒したから?」


 もう一匹。


 梨を投げる。

 気を取られた隙に短剣で刺す。


【経験値を獲得しました】


「……入った」


 もう一匹。


【経験値を獲得しました】


「入った!」


 気づけば俺は、夢中でスライムを探していた。


 梨を投げる。

 短剣で倒す。


 梨を投げる。

 短剣で倒す。


 そして夕方。


【ジョブ《ナシ使い》のレベルが2になりました】


「…………」


 一瞬、意味が分からなかった。


「レベル……2?」


 三年間。

 どれだけ冒険しても届かなかった数字。


「上がった……」


【スキル《ラ・フランス》が成長しました】


「え?」


 俺は表示を凝視した。


「成長するのか、これ!?」


 俺は手を突き出した。

 頭に浮かんだのは――毒。


「ラ・フランス!」


 ぼとっ。

 梨が落ちてきた。


【毒梨】


「毒梨!?」

 俺は梨を二度見した。

「急に物騒になったな!?」


 そこへ一匹のゴブリンが飛び出してきた。


「ギャアア!」

「ちょうどいい!」


 毒梨を投げる。

 ゴブリンは反射的に受け取った。


「ギャ?」


 梨を見る。

 俺を見る。


 そして……食った。


「食うのかよ!」


「ギャッ!?」

 ゴブリンが倒れた。


【ゴブリンを討伐しました】

【経験値を獲得しました】


「…………」


 俺は表示を見た。


 毒梨を見る。

 倒れたゴブリンを見る。


「これ……」


 今までとは違う。

 短剣で必死に倒さなくてもいい。


 《ラ・フランス》そのものが、魔物を倒せる。


 つまり。


 これなら、もっと楽に魔物を倒して経験値を稼げる。


「ひょっとして、このスキル……」

 胸が高鳴った。

「ハズレ……じゃない?」


     ◇


 そこからは早かった。


 毒梨で魔物を倒す。

 経験値が入る。

 レベルが上がる。


【レベル3】


 麻痺する梨が思い浮かんだ。

「ラ・フランス!」


【麻痺梨】


 食べたゴブリンが硬直した。

 そこを短剣で倒す。


【経験値を獲得しました】


「いける!」


 どうやら《ラ・フランス》は、レベルが上がるほど、頭に思い浮かんだ様々な《ナシ》を出せるようになるらしい。


 毒。

 麻痺。

 硬い梨。

 投げると爆発する梨。


 攻撃手段が増える。

 魔物を倒しやすくなる。

 さらに経験値が入る。


 そして、またレベルが上がる。


「これ、普通に強いじゃん!」


 三年間レベル1だったのが嘘みたいだった。


 レベル1だったから、弱かったんだ。


 レベル2からは《ラ・フランス》自体で敵を倒せる。


 そうなれば、経験値が入る。


 今まで俺は、その最初の一段を上がれなかっただけだった。


 そして。


【ジョブ《ナシ使い》がレベル7になりました】


「よし!」


 ここまで来れば期待もする。


 次はどんな梨だ?

 もっと強い毒?

 凍らせる梨?


 俺は期待を込めて唱えた。


「ラ・フランス!」

 ぼとっ。

「…………」


 臭い。

 ものすごく臭い。


【腐った梨】


「…………」


 俺は梨を見た。

「なんでレベル上がって弱くなってんだよ!」


 納得できない。

 もう一度。


「ラ・フランス!」


 ぼとっ。


【腐った梨】


「もう一回!」


 ぼとっ。


【腐った梨】


「ラ・フランス!」


 ぼとっ。


【腐った梨】


「おい!」


 辺りに異臭が漂い始めた。


「レベル7どうなってんだよ!」


 半ばヤケになって、もう一度唱える。


「ラ・フランス!」


 ぼとっ。


 キラァァァン。


「…………え?」


 地面に落ちた梨が輝いている。


【金の梨】


「…………金?」


 恐る恐る拾う。


 重い。


 どう見ても金だ。


 町へ戻って鑑定してもらった。


「十万ゴールドですね」


「じゅっ……!?」


 俺は金の梨を見る。

 鑑定士を見る。

 もう一度、梨を見る。


「十万!?」

「はい」

「…………」


 頭の中に、ビルデの声が蘇った。


『元手ゼロで梨を売れるんだから、食いっぱぐれはないでしょ』


「…………」


 本当に食いっぱぐれなくなった。


「なんであいつらの嫌味、いちいち当たるんだよ」


 俺は走って町の外へ戻った。


「ラ・フランス!」


 腐。


「ラ・フランス!」


 腐。


「ラ・フランス!」


 腐。


「ラ・フランス!」


 腐。


「確率どうなってんだよ!!」


 結局、あれ以来、金の梨は出てこなかった。


     ◇


 そんなこんなで。

 一人で魔物を狩り続けること、一ヶ月。


 ついにその瞬間が来た。


【ジョブ《ナシ使い》がレベル10になりました】


「きた!」

 節目のレベルだ。


 レベル7で金まで出た。

 レベル10なら、とんでもない梨が出るに違いない。


【《ラ・フランス》がレベル10になりました】


 俺は手を突き出した。

「ラ・フランス!」


 ぼとっ。

「…………」


 梨だった。

 普通の梨。


「え?」


 拾ってみる。

 見た目はいつものラ・フランスだ。


 毒もない。

 麻痺もしない。

 金でもない。


「まさか……」

 かじってみた。


「…………」

 もう一口。


「…………うまっ」


 甘い。

 いや。

 めちゃくちゃうまい。


 噛んだ瞬間、果汁が溢れる。

 香りも、舌触りも、今まで食べた梨とはまるで違う。


「うっっっま!」

 夢中でもう一口。


「…………」

 そして気づいた。


「いや、待て」

 俺は手の中の梨を見る。


「レベル10で、めちゃくちゃ美味しくなっただけ!?」


 確かにうまい。

 死ぬほどうまい。


 でも戦闘には何の役にも立たない。


「なんなんだよ……」


 レベル10。

 期待していたのに。

 出てきたのは、ただ最高に美味しい洋梨。


「……まあ、うまいからいいけど」


 もう一口食べようとした。


 その瞬間。


「ギャッ!」


「え?」


 茂みから飛び出してきたゴブリンが、俺の手から梨をひったくった。


「あっ!」

「ギャギャッ!」

 ゴブリンが逃げる。


「待て!」

 よりによって、初めて出したレベル10の梨だぞ。


「返せ!」

「ギャギャギャ!」

「待ちやがれ!」


 ゴブリンは俺を振り返り、梨を見せつける。


「ギャッ!」

「てめえ!」


 俺はゴブリンを指差した。


「俺の『ようなし』返せ!」


 ポンッ。


「…………」


 ゴブリンが消えた。


「…………え?」


 宙に浮いていた梨が落ちる。


 ぼとっ。


 そして。


 その横に。


 ぼとっ。


 もう一個、梨が落ちた。


「…………」


 二個。


「…………増えた?」


 俺は二個の梨を見る。


 さっきまでゴブリンがいた場所を見る。


 もう一度、梨を見る。


 そのとき。


 昨日のザマルの声が、なぜか頭をよぎった。


『まあ、ゴブリンの気を引いたり、オヤツくらいには役に立ったぜ!』


「…………」


 俺は二個の梨を見た。


「……増えた」


「ギャアア!」


 背後から別のゴブリンが飛び出してきた。


 俺は振り返る。

 ゴブリンを見る。

 さっきの言葉を思い出す。


「……ようなし」


 ポンッ。


 ぼとっ。


「…………」


 ゴブリンがいない。


 梨がある。


「…………」


 俺は梨を拾った。


 どう見ても普通のラ・フランス。


 試しにかじる。


「うまっ」


 レベル10の梨だ。


「…………」


 俺は固まった。


 洋梨。

 ようなし。

 用無し。


「…………まさか」


 三匹目のゴブリンが現れた。


「ギャアアア!」


 俺はそいつを見た。


「お前――」


 一拍。


「用無し」


 ポンッ。


 ぼとっ。


「…………」


 極上のラ・フランスが転がった。


「…………」


 俺は頭を抱えた。


「そっちの『用無し』かよ!!」


     ◇


 その三日後。

 王都に終末の鐘が鳴った。


「逃げろ!」

「西門へ急げ!」

「子供を先に!」


 人々が悲鳴を上げる。

 俺も空を見上げた。


「…………嘘だろ」


 空が黒い。

 いや。

 空ではない。


 翼だ。


 山のような巨体。

 黒い鱗。

 口から漏れる炎だけで雲が赤く染まっている。


『終末の災厄』――エンシェントドラゴン。


 三百年前、一夜で三つの国を滅ぼしたとされる伝説の魔物。


「総員、攻撃!」


 騎士団が突撃する。

 宮廷魔術師たちが一斉に魔法を放つ。


 炎。

 雷。

 氷。


 数百の攻撃がエンシェントドラゴンを直撃した。


 だが。


「効いて……ない……?」


 無傷だった。


『――グオオオオオオオオオオオ!!』


 咆哮だけで王都の窓という窓が砕ける。


 騎士たちが立ち尽くす。

 魔術師たちが絶望する。


 俺だって怖い。

 怖いけど。


「…………」


 三日前の光景を思い出す。


 ゴブリン。

 ポンッ。

 梨。


 石でも試した。

 ポンッ。

 梨。


 木でも試した。

 ポンッ。

 梨。


 大きさも、生き物かどうかすら関係なかった。


 なら。


「…………いやいや」


 俺は首を振る。


 相手は終末の災厄だぞ?

 国を滅ぼす伝説のドラゴンだぞ?


 さすがに――。


 エンシェントドラゴンが口を開いた。

 巨大な炎が集まっていく。


「あ……」


 あれが放たれれば。

 王都が消える。


「……やるしかないか」


 俺は空を見上げた。

 終末の災厄を指差す。


「お前――」


 喉が鳴る。


「用無し」


 ポンッ。


「…………」


 消えた。


 山ほどもあったエンシェントドラゴンが。


 消えた。


 空には青空だけが残っている。


 そして。


 ぼとっ。


 俺の目の前に、一個の洋梨が落ちてきた。


「…………」


 王都が静まり返る。


 騎士も。

 魔術師も。

 逃げていた人々も。


 全員が俺を見る。


 俺は梨を見る。

 空を見る。

 また梨を見る。


「…………マジかよ」


【鑑定】

《ラ・フランス》

品質:極上


「…………」


 こうして終末の災厄は、極上の洋梨になった。


     ◇


 その日から、俺の人生は変わった。


『終末の災厄を一撃で倒した英雄』

『王都の救世主』

『伝説のナシ使い』


 最後の呼び名だけはどうにかしてほしかった。


 国王から勲章を授けられ、冒険者ギルドからは最高ランクへの昇格を打診された。


 そして。


 当然というべきか。

 あいつらもやってきた。


「頼む、ラーフル! 戻ってきてくれ!」


「…………」


 ギルドを出たところで、ザマルが土下座していた。


「俺が間違ってた! お前は最高の仲間だ!」


「そ、そうっすよラーフルさん!」


 バンザが揉み手をしながら近づいてくる。


「俺はずっと、ラーフルさんには何かあると思ってたんすよ!」


 嘘つけ。


「ねえ、ラーフルぅ」


 ビルデが俺の腕に胸を押しつけてきた。


「あたしたち仲間じゃない? あれはちょっとした冗談だったのよぉ」


「冗談?」


「そうそう♡ あたし、本当はラーフルのこと、一番頼りにしてたんだからぁ」


 三人を見ながら思い出す。


『お前のスキルはもう用無しなんだよ』

『戦闘中に梨出してどうするんすか!』

『そんなスキルで冒険者やってるの、ちょっと恥ずかしいよ?』


「ラーフル!」


 ザマルが顔を上げる。


「もう一度、四人でやり直そう!」


「…………」


 俺は三人を見た。


 あの日。

 ザマルは俺に言った。

 用無し。


 だったら。


 同じ言葉を返すことにした。


「今更戻ってこいとか……」

「ラーフル?」

「お前たちこそ――」


 三人の顔を見る。


「用無しだ」


 ポンッ。

 ポンッ。

 ポンッ。


「…………」


 静まり返るギルド前。


 三人の姿はない。

 代わりに。

 三個のラ・フランスが転がっていた。


「…………」


 一個拾う。


【鑑定】

《ラ・フランス》

品質:極上


「…………」


 これ。

 元ザマルか?


 そっと戻した。


「なんか嫌だな」


 その瞬間。


 聞き慣れた声が頭の中に響いた。


【ジョブ《ナシ使い》のレベルが11になりました】


「お?」


【《ラ・フランス》に新たな能力が追加されました】


「…………」


 嫌な予感がする。

 恐る恐る確認する。


【新スキル】

《※※※※※》


「…………」


 俺は空を見上げた。


「なんでだよ!?」


――完――

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


ところで、ラーフルがLv11で覚えた

《※※※※※》


いったい、どんなスキルだったのでしょうか。

作者にも分かりません。


というわけで、

Lv11の新スキル、感想欄で募集中です!


「《用無し》の次ならこれだろ!」

「こんな梨スキルは嫌だ!」

「いや、もう梨ですらないだろ!」


などなど。


ラーフルが空を見上げて、

「なんでだよ」

と言いたくなるようなスキル、お待ちしております。


くだらなければくだらないほど大歓迎です!

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― 新着の感想 ―
まさかの大喜利オチだった。 「梨の礫」ですね。 何投げても返ってこなくなる。 たぶんゴミ処理とかに重宝します。
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