第五話:悪鬼に堕ちた男
誰かを裁くことは、正義なのか。
それとも………
自分の痛みを、他人に投げつける行為なのか。
人の心の中にある“正しさ”は、時に刃となる。
悪鬼は、その刃に微笑む─────
東京地裁の一角で、前代未聞の事件が発生した。
裁判中、被告人が突如錯乱し、自殺した。
遺体の影からは、確かな悪鬼の痕跡が見つかる。
「担当判事の――堂島黎司。奇妙な判決が続いているわ。」
輝夜は、記録を読みながら眉をひそめた。
「常軌を逸してる。量刑が重すぎる。そして…………、ほとんどの被告が……潰れてる。」
「悪鬼が“正義”を媒介に、堂島を通じて人を壊してるのか?」
満流が呟いた。
「おそらくね………。」
そう呟く輝夜の瞳は怒りと悲しみに満ちていた。
「満流!今夜、行くわよ!」
「ああ!」
深夜の裁判所。
封鎖された第9法廷の中で、彼はまだ裁きを続けていた。
「この法廷は、真の審判の場だ!」
堂島黎司。かつては「温情の裁判官」と呼ばれていた男。
だが今の彼は、憔悴した瞳の奥に禍々しい影を宿していた。
「人は、罰が足りない。だから俺が与える。」
悪鬼の囁きが、彼の心に巣食っていた。
満流が飛び込もうとするが、法廷内の空間は歪められていた。
「チッ…!」
輝夜だけが、静かに堂島の前へ歩く。その周りは空間が解けて輝夜を招き入れているかのようだ。
〝ハッ!流石輝夜だな。凄まじい霊力だ!だが気を付けろ!〟
満流は思った。
堂島の前に進みながら輝夜は彼の心に訴えかけた。
「…………あなたは、誰かを“救うため”に裁いてきたはずよ。」
そう言った輝夜に、堂島の視線が刺さる。
「君こそどうなんだ?!影を斬るたび、誰かの“罪”を代わりに裁いてる気になっていないか?」
その言葉に、輝夜は立ち止まる。
……………過去の記憶が、胸を締めつけた。
それはかつて、
まだ刀を持ち始めたばかりの頃─────
輝夜は、初めて取り憑かれた人間を斬る際、迷いを抱いていた。
その人は…………輝夜の養母だったからだ。
人間と鬼の間に生まれた輝夜を、唯一“普通の娘”として育てようとした女性であり、のちに自身の本当の母だった事を知った……。
だが、悪鬼に憑かれ、ついに斬るしかなかった。
涙の中で下した“斬る”という判断。
その夜から、輝夜は「正義」と「喪失」を抱えて生きている─────
堂島が裁判用の槌を振りかざすたびに、影が現実の空間を歪める。
幻のような法廷に、かつての被告たちの姿が浮かぶ。
『罪を認めなかった……』『謝らなかった……』『変わろうとしなかった!』
悪鬼の声が、堂島の正義と共鳴して爆発する。
「これは、俺の審判だ! 誰よりも正しく、誰よりも厳しく!!」
そう叫ぶ悪鬼に憑かれた堂島にすかさず反論する輝夜。
「─────違う!────それは、あなたの“痛み”を他人にぶつけてるだけよ!」
輝夜が刀を構える。
堂島の影が巨大化し、法廷全体を飲み込もうとする。
「私は……ずっと迷ってきた。斬るたびに“正しかったのか”って」
輝夜の手が震える。
だが、その肩に満流の手がそっと添えられた。輝夜が堂島とのやり取りの中で隙間を作ったから満流も入ってこられたのだ。
「お前は人の心に踏み込んで、向き合ってきた。だからこそ、俺はお前の正しさを信じられる!」
その言葉に、輝夜は瞳を見開いた。一瞬揺らいで輝きを取り戻した輝夜。
「……ありがとう、満流。」
満流の言葉に迷いを振り切る勇気をもらった輝夜は自身の中から熱い何かを感じた。
同時に輝夜の影喰い刀が光を帯びる。
「───────影!断つ!!」
その刃が、堂島の影――悪鬼の本体を斬り裂いた。
悲鳴と共に、法廷は崩壊。堂島は膝をつき、静かに泣いていた。
「もう……誰も裁きたくなかったんだ。俺が……壊れてたんだな」
そんな様子を見て輝夜と満流は同情した。だからこそ悪鬼にこれからも挑んで人々を救おうと決意したのだった。
その後、堂島は司法を退いて治療を受けることになった。
法廷に宿った悪鬼も断たれ、平穏が戻った。
帰り道、輝夜は夜風に吹かれながら言った。
「私が斬ってきたものは、相手の罪じゃない。ただ…“向き合おうとしなかった影”だったのかもしれない。」
「それで十分だろ。……お前がそう思えるうちは、絶対に間違っちゃいねぇよ。」
その言葉に、輝夜は初めて「自分の裁き」を少しだけ許せた気がした。
ご覧下さりありがとうございました。AIノベルです。今までの作品と読み比べてみて頂くと面白いかもしれません。




