竹を取らない物語
このお話は、竹取物語をベースにしています。
むかしむかし、かぐや姫という美しい少女がいて、世の男共を散々魅了した挙句、最終的には月に帰ってしまった、というのはあまりにも有名な話です。が、あれ以来、すっかり地球が、日本が気に入った彼女は、代々であの後も訪れているといいます。
本日はその、もはや何代目になるかもよくわからん、現代に舞い降りたかぐや姫のお話。
あ、そうそう。『え? かぐや姫って世襲制なの? 翁と嫗に付けられた名前じゃないの?』っていうツッコミには受け答えかねますので悪しからず――
*
今と昔とで変わらない事がもしあるとするならば、それはかぐや姫が発見される場所が、“金色に光る竹の中”という事ぐらいでしょうか。何故だかは知りませんが、月の人達が通信を取るのに、最も都合の良かったのがそこだったらしいのです。何も竹の中じゃなくても、と思いましたが、あの竹藪の中でまともな場所、と言うと竹の中しかない、というのも事実だったりします。
しかし、その黄金で儲けた竹取の翁の家は、昔のまま古き良き日本家屋を保っているか、と聞かれれば、まぁ、屋敷は御屋敷だよね、としか言いようがありません。何故なら、翁の家は代々もたらされる黄金により、より豊かに、より豪華に、より大きくなっていったからです。その資金を元手に会社を立ち上げ、今では、“株式会社TAKETORI”、と言えばちょっとは名の知れた一流企業になりました。
まぁ、そんな会社が金のなる木(かぐや姫)をいつまでも狭苦しい竹の中に迎えるはずもなく。竹は竹でも、人工的に作った特殊な柔らかい素材の、しかも中にはテンピュール素材の特製マットレスが敷かれている竹なんだとか。そしてそれは、“竹取記念館”と題された建物の中で、一般公開されているとか。ちなみに売れ筋は竹の粉入りクッキー、通称“かぐやっきー”など……(以下宣伝
さて、そんな時代に遊びに、もとい、生まれおちたかぐや姫は……
「っていうかー、マジ十二単とか暑いんですけどー。もうこれ着なくてよくね?」
すっかりギャルになっていました。
いや、最初来た時には普通に普通のお嬢様だったのです。お茶とお花と踊りが御趣味の、由緒正しきお嬢様だったのですよ。それが……会長夫婦(昔風で言えば、翁と嫗)の所に預けられてからわずか一カ月で、こうなってしまったのです。現社長が頭を抱えたのは、言うまでもありません。
まぁ、別に翁と嫗がそう育てた訳ではなく、社長が忙しくて構ってくれなかった寂しさを補う為に、たまたま見たテレビ番組に影響されただけではあるのですが。それでも、彼らが孫程の娘可愛さに、好きなように、自由奔放に育てたと言えば、育ててしまったのですが。
「まぁまぁ、そんな事言うなー。折角のベッピンさんなんだ。綺麗にしねーと」
「んだ、んだ」
一応申し上げておくと、竹藪がある、と言う事は、翁の家は山の奥にあります。当然、方言も残っています。……ただ、これは古き良き時代を感じさせるためだけに、TAKETORIを継ぐ者が半強制的に教え込まされている、という噂もあるのですが。
「まーあ、じいちゃんとばあちゃんが言うならー、着てるけどー。これ良く見ると可愛いしー」
「だっぺ? しっかしよぐ似合うなー」
「あんがとー」
まぁ、ギャルになったと言えどそこはかぐや姫。髪とか金に染めてるし、かなり盛ってるけどそこはかぐや姫。目とかマスカラでぱっちりだけどそこはかぐや姫。その美しさには、一点の陰りもありません。透き通るような白い肌に、艶やかな衣装がよく映えます。
「あ、かぐや。今日、ここでお披露目会すっから」
「えー。聞いてないしー。って、まさか、だからこれ着せたの?」
「んだー。いつもの服でも良かったんだが、せがれがどうしてもそれ着せろってー」
「かぐやは何着ても似合うから、何でもいいじゃねーかって言ったんだがなー」
「あー。たけぴょんか。カタブツだかんねー。まぁ、コレ気に入ったし、じいちゃんとばあちゃんの頼みだから、別に良いけどさー」
たけぴょん、というのは先程ちらっと出てきた、現社長の事です。その渾名には、たけぱぱ→たけぴー→たけぴょん、という変遷の歴史があったりするのですが、ここではあえて伏せておきましょう。
そんな現社長は、この会長夫婦から生まれた子供にしては、否、生まれた子供だからこそ、きちんときっぱりしっかりしていて、現在この会社内で血族としては唯一標準語を話し、かぐや姫に文字通りのお姫様教育をしていた方です。……もっとも、社長がお忙しくなってからは、そんなもの無かった事のようになってしまいましたが。
ちなみに、いつもの格好だと、誰もそれがかぐや姫だとは分からないでしょう。というか、ギャル語を使いこなすだけではなく、服までそうなってしまっては、浪漫も何もへったくれもありませんし。……事実、それを利用して雑誌のファッションモデルをやっていたりする……なんて事はありません、多分。そんな夢の無い話はありません、おそらく。
「悪いなー。パーテイは18時からだから、それまでゆっくりしてれー」
「ん。りょーかいりょーかい」
そんな訳で。かぐや姫誕生3カ月記念お披露目パーティー、と相成ったのです。
参加者は大企業の御曹司。皆、今度こそはかぐや姫を妻に迎えよう、と必死でした。というのも。何の因果か、株式会社TAKETORIの社長夫婦には、代々息子しか生まれず、その娘に取り入って会社を合併し、ゆくゆくは乗っ取ってやろうという他企業の思惑は見事に外されてしまうのです。その結果、代々のかぐや姫に狙いが集中するのでした。
今年は、時計で有名な“HEINO”、高級チョコレートブランド“ゾゼィバ”、鞄・服などのファッション全般を手掛ける“ピルド”、建築会社“山都ハウス”、そして何故か航空会社の“ZOR”の5社が、かぐや姫に求婚出来る権利を勝ち取りました。そこに至るまでは壮絶な駆け引きと取引が行われた、とか。袖の下には収まらない額のお札が行き交いした、とか。まぁ、最終的には抽選だったので、恨みっこなしだったのですが。その抽選会の模様はテレビ中継で全世界に向けて発信され、どこぞの宝くじの抽選発表のように賭けに利用されていた、というのは、もはや言うまでもないでしょう。
そんな事はつゆも知らないかぐや姫。本日もマイペース。髪型が決まらない、と30分遅れでの登場となりました。
「お待たせー♪」
「おお、遅かったなぁ。どうしたんじゃ?」
「ちぃとばかし支度に手間取ったんだわ」
「ごめんねー。上手い事髪が盛れなくてさー」
そういうかぐや姫の髪は、上の方でお団子……というか、ふわふわとまとめられ、かんざしやラメ、造花などで綺麗に飾り付けられていました。
はい、そこの貴方。今、最近の成人式を思い出しましたね? ……正解です。
「そがそが。さあて、皆様お待ちかねだ。宜しく頼むよ」
「まっかせといてー。昨日寝ないで考えたから♪」
さて。ここで、一流企業とは言え、そこまで大きくもない株式会社TAKETORIがどうしてこんなにまで他社に狙われるのか、というお話をしておきたいと思います。
そりゃ、昔はかぐや姫の美貌に男共が釣られたからなのですが、今はそれだけではありません。実は、この会社がここまで大きくなった事にもそれは関係しているのですが、TAKETORIは世界で唯一、月と交信の出来る会社として、宇宙開発に寄与しているのです。他国と比べると打ち上げ技術などで劣る日本にとっては、この会社の存在はとても大きい地位を占める、と言う訳なのです。宇宙開発はこれからのトレンド、この不景気を乗り切る鍵、“切り札”となりえます。そこで、一見そんな事に何の関係もなさそうなどの会社も、必死になってTAKETORIに取り入ろう、とする訳なのでした。
しかし、そんな事は百も承知のTAKETORIサイド。策はちゃんと打ってあります。それが――
「皆様、本日はわざわざご足労いただき、誠にありがとうございます」
おっと。そうこうしている間に、かぐや姫の挨拶が始まりました。さっきのギャル口調とは打って変わって、綺麗なよく通る声で、丁寧な言葉を発しています。原稿はたけ……いや、現社長が書いたとは言え、もの怖じもせず、堂々と明瞭に話すその様は、見事なものです。皆その美しい声に聞き惚れ、うっとりとし、現社長も感慨深く、その様子をビデオに収めています。
「……さて、ご挨拶はこのぐらいにして」
どうやら、一通りの口上は述べ終わったようです。さぁ、いよいよ始まるぞ……。
「これからはー、今回抽選(?)で当たった5名様、“HEINO”、“ゾゼィバ”、“ピルド”、“山都ハウス”、そして補欠合格の“ZOR”の御曹司さんに、あたしからの注文のコーナーですっ」
いえいっ、とかぐや姫は先程のギャル語口調に戻って続けます。そこで会場の雰囲気が一気に凍りついたのは、言うまでもありません。しかし、どこか納得したような様子になったのもまた、事実でした。
「えーっと、実は前に考えていたのが、電化製品の“CYAAQ”さん入れて、だったので、急きょ作り直したのね。だから、ちょーっとZORさんだけ毛色が違っちゃってたんで、ZORさんだけ別に発表」
実は、CYAAQ、当選で当たったは良いものの、その社長は独身とはいえ40オーバー、後継者になれそうなのはまだ幼稚園生、という訳でレースから外されたのです。事前にそのぐらい調べておけよ、っていうかそのぐらい考えて応募しろよ、とも思うでしょうが、何せ応募数が応募数なので(総数は……ほら、おそろしくって申し上げられませんよ、ははは)いちいち確認している余裕は無いのです。
「はい、なんなりと」
そんなこんなで最後の一枠を勝ち取った、幸運なZORの社長。余裕綽々、といった表情で、威風堂々、一歩前に進み出ます。
と言うのも、歴代のかぐや姫は皆賢そうな、才色兼備なお嬢様だったので、この無茶ぶ……ではなく、注文は大変に凝った、難しいモノが多かったのです。例えば、ワシントン条約にのっとって指定された動物全てを連れてくる、とか。ギネスの世界記録全てを塗り替えてくる、とか。かの有名な猫型ロボット所有の秘密道具を全て再現してみる、とか。それらは、もはや不可能の域の物が多く、挙句の果てに、最近は凝り過ぎて1つ練るのが精一杯で、5人に同じ課題を突き付ける事もあったとか。……本当に、古き良き時代の名残も無くなってしまっているようです。まぁ、そのお陰で何とか今まで会社は乗っ取られずに済んでいるので、代々の社長たちはそこら辺には寛容なようですが。
しかし、今回のかぐや姫は、最初こそきちんと喋っていましたが、台詞が無くなった途端、いかにも頭の悪そうな、ギャル語使い。しかも、鍵を握る注文は急いで昨日、それも律儀にもきちんと5つ考えた、と言うではありませんか。こりゃ、今回当たった奴はラッキーだな、楽勝だ、と誰もが思いました。……次の言葉を聞くまでは。
「えーっとね、オリエント急行のチケット」
一気に顔が青ざめるZOR社長。他の者達も、こりゃ、ZORは終わったな、と思いました。
「あたしねー、一回乗ってみたかったんだ、あれ♪」
『・・・』
皆様ご存じの通り、殺人事件で有名な、違った、小説やドラマの舞台としても有名なオリエント急行は、2009年12月、その歴史に幕を閉じました。昔の使用済みのチケットならまだしも、すでに廃止された鉄道に乗る、というのは無茶な話です。それを知ってか知らずか、真意は読めませんが、兎に角これでZORはレースから外れたも同然です。
打ちひしがれたZOR社長は、すごすごと引き下がっていきました。そして、代わりに残りの4社の代表達が、前に歩みでてきます。
「で、他の会社の人はあみだで決めたんだ。んと、“HEINO”さんはチョコレート、“ゾゼィバ”さんはドレス、“ピルド”さんは一軒家、“山都ハウス”さんはバッグ、をそれぞれ一般向けに発売してー。で、あたしをその購入者第一号にして。あ、勿論、国産じゃないとダメだよん? 外国製はいろいろ信用ならないからねー」
嗚呼、あみだってそういう……。って、こんなん楽勝……!?
『あ!』
よくよく意味を推し量った御曹司達は、自分の浅はかさと、この注文がいかに無謀な事かについて悟りました。同時に、やはりギャルになってもかぐや姫。その聡明さに偽りはなかった事を実感します。
だって、考えてもごらんなさいな。それぞれの社の特徴、シンボルとも言える主力商品をごちゃまぜにされ、しかも、かぐや姫の為だけに作るのではなく、それを一般に販売しなければいけないのです。流通ルートやら、製造ラインなんかは他社に大体抑えられてしまいます。つまり、お互いがお互いを邪魔し合ってしまうのです。これでは、仮に全社一致団結しても、一社が抜け駆けするような真似は出来ません。また、日本製、と念押しされてしまったのも厄介です。海外ならば、他者が手の届かないルートもあるでしょうが、日本国内、となるとそれはもはや絶望的です。また、これならZORを除いた理由もうなづけます。
かぐや姫は会社同士での、つぶし合いを目論んだのでした。
「じゃ、そういう事だからー。頑張ってねー☆」
かたや、確実に不可能な注文。かたや、一見可能なように見えて、実はどうあがいても難しい注文。その二枚刃を楽々と使いこなし、意気揚々とステージを下りていくかぐや姫。御曹司達は黙って、その後ろ姿を見送る事しか出来ませんでした。
舞台裏にて。
「かぐや!」
「あ、たけぴょーん」
一仕事終えたかぐや姫に、たけぴょ……、現社長がねぎらいの言葉をかけます。
「よくやった。見事だったぞ」
「えへへー。あたしだって、やれば出来るっしょ?」
「嗚呼、これで我が社は助かった。本当にありがとう」
自分の娘ほどの年齢の、まだ少女と言っても良いようなかぐや姫に、ただただ頭を下げる社長。
「そんなー。いいっていいって。でも、たけぴょんが喜んでくれたんなら、それが一番嬉しいなー」
「か、かぐや……。お前……」
「んじゃ、あたし着替えてくんねー。いい加減重いわ、これー」
タッタッタッタ
社長の目が涙であふれ、去っていく彼女の姿を見送れなかったのは、言うまでもありません。そしてこの事が、社長に新たな決意を起こさせました。
「……こんなに良い子を、手放してなるものか……」
そんなこんなで会社の危機は乗り越えましたかぐや姫。しかし、やはりあの瞬間だけはいつも等しくやってくるもので……
プルルルル。ガチャ。
「はーい。もっしー」
あれから少し経ったある日。かぐや姫の携帯型通信機に交信が入りました。ちなみに、その携帯は金色の竹が描かれ、ラインストーンやちりめんのリボンなどで和風に可愛らしく彩られた、たけぴょんからの贈り物だ、という事は、もはや言うまでもありません。
「かぐやか」
「嗚呼、おとっつぁん?」
「そうだ、久しいな。元気か?」
「うん、元気だよ。……もうそんな時間?」
「そうだ、かぐや。もういいだろう。お父さんだってお前に会いたいんだ……。
月に、帰ってこい」
「帰りたくないよー!!」
実の父親から帰宅命令を受けたかぐや姫は、すぐに翁と嫗の元へ向かい、そう叫びながら泣きじゃくりました。
連絡を受けた現社長や重役達、更にはまだ諦めきれず、ひそかに結託して作戦を練っていた御曹司達も、駆けつけました。
「くっ、かくなる上は……。月の奴等と全面戦争か……?」
「しゃ、社長!?」
「かぐやは俺にとっても可愛い娘だ。娘を“はいどうぞ”、とやるような父親はいない」
「たけぴょん……」
まぁ、薄々勘付かれていた方もいらっしゃるでしょうが、現社長はその態度にこそ感心しませんが、かぐや姫自身の事はとっても可愛がっているのです。
噂によると、社長の自室はかぐや姫の写真であふれ、成長記録のビデオが所狭しと並んでいるとかいないとか。
「幸い、こちらには武器も兵力もある……」
「わ、私達も微力ながらお力添えさせていただきます!」
「ふふふ。こんな事もあろうかと、すでに他国には根回しも済んでいる……」
娘の為なら何でも出来る、とはよく言ったものですが、ここまでそれを忠実に再現した男親も、なかなかいないのではないでしょうか?
もしかしたらこの社長、本当に彼女を“目に入れても痛くない”のかもしれません。
「流石社長!」
「さて、そうと決まればまず兵器の準備だ。こちらにはあの某SF映画で使用されたレーザー銃や、光の剣がある……。更には某アニメのロボットや軍艦もな……」
「ま、まさか、アレを使う気ですか!?」
「ふははははは。まさか私の趣味がこんな形で役に立つとは……」
社長の趣味:かぐや姫の成長記録ビデオを撮る事、SF映画鑑賞、空想世界を現代科学で実現する事。
アレ、とはそんな社長が趣味で作った兵器達の事です。一応飾る為に作られた物ではありますが、だからと言って別に性能が劣る訳ではありません。むしろ、一般的なものと比べれば高いぐらいです。……いや、一般的って何さって話だし、開発費いくら投じてんだ、と言われればそれまでなのですが。
「現代科学なめんなよ!」
「どこまでもついていきます!!」
社長は科学者としては超一流ですが、いかんせんその方向性が方向性なので、学界からは追放された身である、という事は名誉の為に伏せておく事にしましょう。
そんな国家レベル、いや、地球レベルの戦略が練られている横で。
「でもそいじゃ、かぐやのおとっつぁんまで、巻き込んじまうよー?」
「んだんだ。そうなれば、かぐやも悲しむし、何より、将来困んのはおめぇだちだー」
泣きじゃくるかぐや姫をなだめる翁と嫗は、流石というべきか、こういう時でも、目先の感情より後々の利益を優先して発言します。ただ、少し落ち着き過ぎている、という印象は受けましたが。
そんな事は気にも留めず、いかにしてかぐや姫を月に帰らせないかに必死な様子の現社長。しかし一応、娘の手前こう発言しました。
「……。とりあえず、相手の出方を見てみようじゃないか」
そして、満月の夜――
突然、辺りがピカーっとまぶしいほどに光ったと思ったら、巨大な宇宙船と共に、かぐや姫の実父と、その家来だと思われる鎧型宇宙服を着た武者風の屈強な男達の軍団が、姿を現しました。……何というか、古典なのか古風じゃないのかよく分からなくなっています。
ただ1つ言えるとすれば、それは月サイドも臨戦態勢である、という事ぐらいでしょうか?
「約束の時間だ。準備は良いな、かぐやよ」
もう連れて帰る気満々で、というか家に帰ったら愛でる気満々な御様子のおとっつぁん。
「今だ! 打て―!!」
その油断した所に、たけぴょん率いる地球人部隊が攻め込みます。この日の為に用意した最大戦力を、一気にぶつけます。
そう。たけぴょんは最初から、月人達と、かぐや姫の実父と真っ向から戦うつもりだったのです。
「ふっ、そんなものが我に効くとでも思うてか!?」
……確かに。此方側の攻撃は、何故だかは知りませんが、全て相手方の体をすり抜けてしまいます。銃弾、砲撃、レーザー、ミサイル……。どれもこれも当たりません。折角、戦車やら戦艦やらを自衛隊からお借りしてきたり、セスナを飛ばしてみたり、人工衛星にまぎれさせた何かで空から狙ってみたり、たけぴょんお手製ロボットを稼働してみたりしたのですが……。
しかし、それでも不敵な笑みを浮かべるたけぴょん。勝ち誇ったように言います。
「打ったのは貴様じゃない」
「何!?」
「貴様らの乗って来た宇宙船だぁ!」
「!?」
ちゅどーん。
砲弾は彼らの体をすり抜け、巨大な戦艦にひとっ飛び。命中した所から爆発が起こり、火の手が上がっています。装甲はへこみ、穴があいている個所もあります。あれではもう、使い物にはならないでしょう。
「はっはっは。船がなきゃ帰れないよなぁ?」
もはやどちらが悪人なのか分からなくなってまいりました。……というか、最初から悪人はいなかったですね。ただ、娘を奪い合っているだけだもの……。
「……ふふふ」
「何がおかしい?」
「貴様、何も知らぬようだな。あの宇宙船はな、元々牛車だ!」
「それがどうした? ……!?」
モオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
『超速再生、だと……?』
まるで牛の鳴き声のような雄叫びがしたかと思うと、焼け焦げて穴が開いたはずの箇所が、みるみるうちに塞がり、直っていきます。これでは、いくら攻撃が当たると言っても、意味がありません。
「ほら、どうした? かかってこないのか?」
「くっ……」
最初からこれに賭けていたたけぴょんは、言葉に詰まります。まさか、こんな非現実的な事まであるとは考えていなかったようです。
……まぁ、攻撃を突き抜ける身体の時点で、充分とんでもないんですけどね!
「万策尽き、打つ手なしのようだな……。まぁ前回の、刀で直接斬りかかってきたり、弓矢を射ってみたりする、“原点に返る作戦”に比べれば、ちぃとはましになっているみたいだがな。その程度で、儂の最高部隊が崩れるとでも思うたか!」
「くそぅ。ここまでか……」
「儂の可愛い船を攻撃してくれた礼だ。とっておきを見せてやる……」
『!?』
シュウウウウウウウウ。
先程の宇宙船の先端に、徐々に光が集まっていきます。どうやら、何かを撃つ為のエネルギーをチャージしているようです。
「今まで仲良くやってきた地球だが……。儂の娘を横取りするような奴に、要は無い。消え失せろ」
たかが娘。されど娘。何もそこまで、とは思いますが、これも愛情の結果なのでしょう。ですが、それで地球を消滅させられては敵いません。
「やめてえええええええええええええええええええええええええええええええ!」
たまらず、かぐや姫が二人の父の間に割って入ります。
『かぐや!?』
「もう、おとっつぁんもたけぴょんも、止めてよ……。二人の争う所なんて見たくないよ……」
『・・・』
可愛い娘の涙ながらの訴えには、ヒートアップし過ぎて当初の目的を忘れかけていた父二人も、流石に心を動かされたようです。
『攻撃、止め』
両軍ともに撤退し、先程の攻撃も中断されました。一応、地球滅亡の危機は回避されたようです。しかし、大元の問題は、依然として残ったまま……
「でも……。あたし、もっとじいちゃんとばあちゃんと一緒にいたいよー!!」
実父の所に帰りたくない訳ではないが、今まで優しく育ててくれた翁と嫗とも離れたくは無いかぐや姫。彼女の中でも、両者の間の葛藤が起こっているようです。
そんな彼女を安心させるように、さらっとすごい事をいってのけるは、先程から孫娘がいなくなるというのに落ち着き払っている翁。
「大丈夫だー。儂らも一緒に行くじゃて」
「え……?」
「こんな事もあろうかと、貯金貯めといたんだー。抽選に当たるかどうかは賭けじゃったけんな」
「も、もしかして……」
「んだ。月旅行ツアー、券がとれたじゃき」
歴代の会長達は何故これを考えなかったのか、と言えば、理由は簡単。彼らの時代には、まだそこまで技術が発達していなかったからです。しかし、宇宙船、打ち上げ技術共に水準が高まった今となっては、月に行く事ぐらいはもう夢物語ではありません。
「じゃあ……」
「心配せんでも、ずーっと、一緒だー」
*
こうして、かぐや姫と翁と嫗は、実の親共々、皆で仲良く月で暮らしましたとさ、めでたしめでたし。
って、それは流石に夢物語だ、出来る訳ないじゃないかって? いや、別に良いと思うんだけどね。この作者の頭ん中の絵空事だし。でも、ほんの少しだけ現実味を持たせるなら、要は月と地球の生活環境の差を埋めれば一応、人でも住めるという訳で、居住空間は勿論、TAKETORIで宇宙ステーション用意したし(協賛:山都ハウス)、月の人の言葉が分かる翻訳機(共同開発:HEINO)も開発済み。そこら辺はぬかりないです。え? 食料(出資:ゾゼィバ、他数社)やら水やら着替え(提供:ピルド)やらはどうするのかって? 嫌だなぁ。適任が一人いるじゃないですか。
と言う訳で、たけぴょんは今日も、可愛い娘見たさに、必要物資と一緒に宇宙船(運航:ZOR)の中です。風の便りでは、たけぴょんとおとっつぁんはすっかり仲良しになって、たけぴょんが月に行く度に、娘の可愛さについて語りながら、酒を酌み交わしているんだとか。あとは、かぐや姫がついに黒髪の良さに気がつき、ギャルを卒業した、などという噂も聞こえてきたそうな。それに対して二人の父があまりの嬉しさに号泣、結果的に1月口を聞いてもらえないほどの恐ろしい喜びぶりだった、というのもあったようなのですが……。
では、あんまり生っぽくなりすぎるのもあれですし、そろそろ終わりにしましょうかね。ナレーションは勿論私、そういえばあいつどうしたし、こんな奴もいたなぁ、という感じのポジション、とある時の帝の末裔でした☆ ……嗚呼、僕が求婚争いに参加しなかった理由? それは簡単ですよ。
だって僕、13歳、中学一年生だもの。
という訳で、現代の、そして日本にやってきた、最後のかぐや姫のお話でした。これにて一件落着。長い間御拝聴いただき、ありがとうございましたー。