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灰をかぶらない少女

今回はシンデレラの舞台をそっくりそのまま現代に移してみました。

はてさてどうなることやら……


コメディーです。肩の力を抜いてお楽しみください。

 ある所に、“シンデレラ”と呼ばれる少女がいました。

 少女は家族3人仲良く暮らしていましたが、数年前、母が流行り病にかかり、命を落としてしまいました。シンデレラがまだ幼かったという事もあり、父は再婚を決意。お見合いにお見合いを重ね、ついに一人の未亡人と結婚しました。

 ところがこの女、相当の性悪で、前の夫を殺したのも実は彼女ではないか、と疑われるほど、金に汚い女でした。女には娘が二人いて、その娘達も母親同様、あまり性格が良いとは言えない子です。

 そんなこんなで、結婚して最初の1カ月は良い母親、良い姉であった彼女達でしたが、徐々に本性を露わにし、なんと1年で父の財産を使い切ってしまいました。そして、父は書き置きを残し、傷心の旅に出てしまったのです。買い物という楽しみを失った継母と義姉達はシンデレラをいじめるようになりました――


「シンデレラ、シンデレラ!」

「はい、お義母様、なんでしょう?」

「ちょっとデパートに行ってくるから、あたし達が出かけてる間に、部屋の掃除頼んだわよ!」

「それから庭の草むしりもね。雑草がボーボーだったわよ?」

「夕飯は……そうねぇ。地中海風ブイヤベースが食べたいわ! 作っておいてね」

「はい。分かりました」

「じゃあ、行ってくるから」

バタンッ。

「……ふぅ。やっと行ったか」

 継母と義姉達が去った家で。シンデレラは黙々と働いていました。

――さて、さっさと掃除、すませちゃおう。

「……全く、出かけるなら夕飯ぐらい食べてくればいいのに。しっかし、“地中海風ブイヤベース”とは……。最近、要求の難易度が上がってきてるわね。そのうち、もっと妙なモノ食べたいとか言い出さなければ良いんだけど。北京ダックとか、本格キーマカレーとか。……まぁ、いいや。とりあえず買う物リストアップして……っと、そうだ。今日更新してないわ」

パタパタパタ。カチャッ。カチカチ。カタカタカタカタカタカタカタ

 シンデレラの趣味はネットサーフィンで、ブログも開設していました。ブログには、常日頃から受けている“いじめ”の数々を書き込んでいて、なかなか好評を博しています。

「【今日は、朝から豚達が出かけているので、少しのんびり♪

でも、地中海風ブイヤベースってどうやって作るんだろ? ってか、ブイヤベースって元々地中海地方の料理だから、わざわざ“地中海風”って付ける必要なくね?(笑)

とりあえず、レシピ募集☆】

っと。これで何とかなるでしょー。さ、さっさと掃除終わらせちゃおー。……草むしりもか。くっ」

パタパタパタ――パタパタパタ

「さってっと(ウィン。カタカタカタカタ)お、来てる来てる。えーっと、なになに。トマトとニンニクと、エビとカニとムール貝と、って、高くつくなぁ。魚屋のおじさん、おまけしてくれるかな……」



 シンデレラがお財布と相談している頃、お城では……

カタカタカタカタ「王子」カタカタカタカタカタカタ「王子!」

「なぁにぃ?」

――はぁ。またか。ここ最近いつもだな……。

 執事頭が、我がまま王子に振り回されていました。

「王子、私の話、聞いていましたか?」

「ぜーんぜん☆」

――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

カチッ

 王子はずっとパソコンをいじっていたようでしたが、流石に可哀相になったのか、ようやくキーボードから手を離し、彼の方を向きました。

「で、何の話?」

「……今日は3時から公爵夫人とのお茶会があるので、そろそろご準備を」

「えー、またあのおばさん? 嫌だなぁ……」

「何をおっしゃるのです! 良いですか、王子たるもの、他の貴族の方々との付き合いを大事にして」

「あー、はいはい。もう聞きあきました。それよりさーぁ。再来週の舞踏会なんだけど、仮面舞踏会にしなぁい?」

「仮面……ですか?」

「そう。ついでに、ブレイコウにしてさっ。皆が楽しめるような物にしたいんだけど」

――ブレイコウ? ……嗚呼、無礼講、か。

「それは構いませんが……まさか王子。その中に混ざるつもりじゃないでしょうね?」

「ピーンポーン♪ あったりぃー」

 流石は執事頭。伊達に、王子が生まれた時からお世話をしている訳ではありません。王子の考える事は全てお見通しのようです。

「いけませんよ」

「えー」

「えー、じゃありません!」

「じゃあ、夫人とのお茶会行かなーい」

 王子も王子で、ちゃんと効果のある台詞を知っています。それに、そこまで無茶な要求とも言えません。

「うっ。……分かりましたよ」

 執事頭も今回は要求を呑みました。

――全く、この人は我がままなんだから……。まぁ、まだ16歳。まだまだ遊び盛りな年頃だ。それを、我々大人達が勝手に縛り付けているのだ。仕方ないとは思う。のだが……

「嗚呼、それと今回タテ看なしね」

「……おふれ書きを出さないで、どうやって皆に知らせるんですか?」

――とりあえず、タテ看っていうなし。

 すると、王子はまたしてもパソコンをいじり始めました。

カタカタカタ

「ここに、このお城の公式HPがあるんだが」

「そんなもの、いつ作ったんですか?」

「……」

 王子は無視して続けます。

「これを通して呼びかけるのはどうだろうか?」

「しかし……」

「だって、どーせタテ看見にくんのって、ご老人と変な3人組の親子だけじゃん」

「ですが」

「加入率は、92.3%だよ」

――本当、いつの間にそんなもの作ったんだろう。

「……そこまで高いのなら、まぁ良いでしょう。しかし王子。こういう物を作る時は、まず私に相談して」

「わかってる。わかってるってー。じゃ、僕夫人とのお茶会の準備してくるねー」

「ちょ、ちょっと王子!?……はぁ。全く。最近我がままになってきているな……」

「そんな事もないと思いますよ?」

 王子をかばうように口をはさんだのは、下っ端のお手伝いです。

「? どうしてだ?」

「王子は多分、同世代の子達とお戯れになりたいだけだと思います」

「何?」

「だって……お見合いの相手に来る人来る人、自分より一回り以上上じゃ、嫌にもなるでしょう?」

 彼女はまだお城に使え出したばかりで、王子と年が近い為、何となく王子の気持ちが分かるのでしょう。そういう方面にはうとい執事頭も、これには納得しました。

「う……うむ。確かに」

「たまには息抜きぐらいさせて差し上げましょう♪」

「あ、そうそう」

 話が一段落したところで、王子がひょこっと顔を出しました。

「!? な、なんですか、王子。」

「トーにも出てもらうからね、パーティー」

 トー、とは執事頭の名前です。もっとも、こう呼ぶのはもはや王子だけになってしまいましたが。

「わ、私が、ですか?」

「うん。まぁ、そーいう事だからー。じゃ、宜しくー」

「ちょ、ちょっと! 王子、王子ー!?」



 執事頭が舞踏会に出る事になり、頭を抱えたその頃、シンデレラはまだ夕飯のお値段と格闘していました。

「うーむ……どうにか安くあげる方法は……っと、お、メールだ。なになに……

≪仮面舞踏会のお知らせ

 ○月×日□曜日 お城で仮面舞踏会を開きます。

 身分、年齢関係なく、広く皆様に楽しんでいただきたいと思い、企画いたしました。

 正装、仮面着用の上、ぜひお越しください。≫

ふーん。……もしやこれは玉の輿のチャンス!? お城のパーティーなんだから、貴族のボンボンが大量に来るわよねっ。よーし、良い男捕まえて、こんな家出てってやる! ……っと、まずはブイヤベースか」


「今帰ったわよー、シンデレラー」

「ちっ、もう帰って来たのかよ。……はーい、ただいま」

 夕方、継母と義姉達が買い物から帰ってきました。シンデレラは急いで玄関まで迎えに行きます。

「おなかが空いたわ。夕ご飯にしてちょうだい」

「はい、わかりました」

 継母と義姉は部屋に入るや否や大量の紙袋を床に散ばし、椅子にどかっと腰掛けました。

――あれ、片付けんのもあたしの仕事か……

 はぁ、と溜息をつき、早速紙袋達を片付けてしまおうと手を伸ばした時、下の義姉がものすごい勢いでリビングに飛び込んできました。

「お、お姉様、お母様! お城からお知らせが届いていますわー」

「何だって!?」

「来週、お城で舞踏会があるみたいですー」

「本当かい?」

 どうやら、彼女もお城で舞踏会がある事を知ったようです。

「はいー。ほら、ここに」

 証拠としてプリントアウトしてきたものを、母と姉の前に差し出します。

「そうか。よし、そうと決まれば早速準備に取りかからなければ」

『はい、お母様!』

 そこで、よせばいいのに、継母は意地悪そうな顔でシンデレラに言いました。

「……シンデレラ。お前も行くかい?」

「いえ、私は」

「そうよねぇ。行かないわよねぇ」

 義姉達もニヤニヤとした笑みを浮かべて母を援護します。

「さ、お前達、作戦を立てるよ!」

『はい、お母様!』

「あ、夕食は後で良いから」

「・・・」


 義母と義姉がリビングを占拠してしまったので、シンデレラは自分の部屋に逃げ込みました。

「ったく。どうせ連れてってくれないくせに。しかも今度は貴族狙いかよ。それも1流狙う気だな……? どーせうちは3流貴族だよ! ……。こうしちゃいられない。えーっと、ドレスはあいつらからくすねてくるとして、靴は……買うか。」

 シンデレラは自分のお財布と、それから通帳と相談します。

「よし、何とか足りそうだ」

 彼女の将来を決めるかもしれない重要なパーティーです。油断は許されません。早速、インターネットを駆使します。

カチャカチャ

「お、あったあった。あ、これにしよ。限定品ガラス製。足痛くなりそうだけど……あ、でも安いわ。特価で500円。って、どんだけ売れなかったんだよ……。まぁいいか。注文注文。お届け日、3日後の昼間か。間に合うわね。あとは、仮面か……。仕方ない、それくらいは作るか」

 シンデレラがどうにか舞踏会に行く算段をつけた頃、リビングの方からは楽しそうな3人の会話が聞こえてきました。

〈仮面舞踏会だから、きっと王子様もまぎれてるんじゃないかしら?〉

〈じゃあ、思いっきり目立つ格好をすれば、王子の方から近付いてくるかも~〉

〈仮面で私達の美貌が隠されてしまうのが残念で仕方ないわねぇ〉

おーっほっほっほっほ。

「……よくやるなぁ。あの人達も」

――しかも王子まで狙いますかそうですか。

〈さて、今日の所はこのぐらいにしとこうかね〉

〈はい〉

〈シンデレラー、夕食の支度をしてちょうだい〉

「げ……食うのかよ。……はーい、ただいまー」


 ちなみに、皆さんもご想像の通り、継母とその娘達は決して見目麗しい、という訳ではありません。シンデレラがとある動物に形容したとおり、3人ともとてもふくよかでした。ですからある意味、彼女達にとっては、仮面をつけるという事は良い事だったのかもしれません。


 そして、一週間後。舞踏会当日。

 その日は朝から大忙し。入念に、これでもか、というくらい化粧をし、香水を吹きつけ、美容師をわざわざ家に呼んで髪形をセットし、ドレスを着、仮面をつけ、ようやく午後3時、

「シンデレラー」

「はい」

「私達、そろそろ舞踏会に行ってくるから」

「留守番、頼んだわよ」

「はい」

 継母と義姉達は出陣する用意が出来ました。

「じゃあ、行ってくるから」

「行ってらっしゃいませ」

バタン

〈必ず王子をGETするぞー〉

〈おー〉

《王子、GETだぜ!》

おーっほっほっほっほ。

 気合十分、意気揚々と彼女達はお城に向かっていきました。

 一方、ようやく邪魔者がいなくなったシンデレラも、いそいそと準備を始めます。

「あの人達の熱気には負けたわ。

さて、私も。ピッポッパ。プルルルル。ガチャ。あ、もしもし。とっきょ無線ですか?タクシー1台お願いします。はい、送迎で。帰り、ですか……。そうですね、じゃあ、12時で。はい、お城までお願いします。はーい」

ガチャ


 こうして、シンデレラは魔女の力を借りないで、無事にお城まで辿り着きました。

 まぁ、それもそうね。ドレスだって、靴だって、今はネットショッピングで手に入る時代だし、カボチャの馬車より車の方が断然早いわよね。それは解るの。でもね、古き良き時代を大切にするのが、おとぎ話の良さってやつじゃないの!? だから私の出番がなくなって、こうして語り部なんてやらされてんのよ! 全く、こっちの気持ちも少しは考えてほしいわ。

 ……こほん。失礼。取り乱しました。まぁ、そんなこんなで、舞踏会は始まったのです。

 舞踏会では、たくさんの人達が思い思いの事をして、異性の気を引こうと必死でした。

ある者は、ちょっとしたお立ち台に立って、一発芸を披露してみたり。

またある者は、そのお立ち台を無理矢理奪って、まるでバブルの時代を髣髴とさせるようなダンスを披露したり。

またある者はその周りでヲタ芸を披露したり、と、皆楽しんでいました。

 ただ一人、達観したような一人の少女――シンデレラを除いては。

「ほーんと、よくやるわねー。男も皆あんなんだし」

「あら? もう帰ってしまわれるのですか?」

 シンデレラはいきなり声をかけられたので、とても驚きました。それも、仮面をつけているので分かりづらいですが、その男は割と整った顔立ちをしているようです。シンデレラは少しだけ本腰を入れて会話をします。

「!? え、えぇ、まぁ」

「残念だなぁ。そうだ、もう少し僕にお時間いただけませんか?」

「はい、私で良ければ、喜んで」

 にこっと、今まで見せた事が無いような可愛らしい笑顔で微笑む事も忘れません。すると、相手はそれに安心したらしく、少しくだけた調子で続けます。

「良かったぁ。あ、こういう場は初めてですか?」

「えぇ。だから、どうしたら良いのか分からなくって……」

「あの方々のように、踊ったりはされないのですか?」

「ああいうのはちょっと……」

――嗚呼、そういえばこの人もさっき踊ってたんだっけ……って、あれ? よくよく考えるとこの人いろいろ目立ったことしてなかったか?

 何だ、結局普通の人じゃなかったのか、と落胆しかけた時、

「そうですか。でしたら、せめてもう少し近くで」

「お兄さん、こっち来ませんかぁ?」

「一緒に踊りましょうよー」

 ナイスなタイミングで酔っぱらった女の人達が彼に絡んでくれました。

「え? あの……」

「良いから良いから」

あ――――れ―――――――――――――――――――――――――――――――

 憐れ。彼はそのまま連れ去られてしまいました。

ボーン、ボーン、ボーン……

「あ、12時か。さ、そろそろ行きますかね。タクシー、待たせてるし」

 彼に完全に興味を失ったシンデレラは、そのまま家へ帰ってしまいました。

「おい、トー!」

「はい!」

「今出てった娘、あの娘を追えー!」

「はい!」

 王子はもみくちゃにされながらも、何とか執事頭に指示を出します。が……

「……逃げられたか」

「申し訳ありません……」

 シンデレラの方が一足早かったようです。執事や召使い達は、彼女の姿を見失ってしまいました。

「監視カメラの映像をチェックしろ! この街の娘全員と照合するぞ!」

「そ、そこまでします?」

「す、る、の!」

「はいぃ!」

 王子の真剣さが伝わったのか、城にいる者総出でシンデレラの捜索が行われました。監視カメラの映像からグラスに残った指紋、更には警察犬まで使用して、ありとあらゆる科学捜査法を駆使し、ついに、王子はあの少女がシンデレラである事を知りました。

 全く、また物語のセオリー無視してくれちゃって。そこは一軒一軒ガラスの靴持って回らんかい。っていうかシンデレラ、ガラスの靴落とさんかい。

 という私のツッコミは置いといて。

 ですが、同時に、シンデレラの家の事情も知る事となりました。

 このままでは例え王子がシンデレラを無理矢理引っ張って行ったところで、継母や姉達が許さないだろうし、それではいつまたシンデレラがいじめられるとも解りません。

 そこで、王子は苦肉の策を思いついたのでした――


 数日後。

コンコン

「はい、どちら様ですか?」

「城からの遣いである。家の者を全員呼んでまいれ」

「はい」

 ついに、シンデレラの家へ城からの使者が来ました。

「シンデレラ、セールスならさっさと追い返しておしまい」

「いえ、それがお城の使者の方だそうで……」

「何だって?! ついに私にも……ほら、お前達、早く来なさい! お城から遣いが見えたわよ!」

「シンデレラ、お前はあっちへお行き」

 可哀相に、勘違いをした継母や義姉達の手によって、シンデレラはまた除け者にされてしまいました。継母は威風堂々、何が起こっても大丈夫な体制で使者に対峙します。

「それで、何の御用でしょう?」

「実は、我が王子が舞踏会で気に入った娘がおったのだが、名前も聞かぬ間にその子は帰ってしまったのだ。それで、我々は総力を上げて、その娘を探しておるのだよ」

「それ、私です! 私ですわ!」

 どうひいき目に見ても継母ではない事は明白過ぎるくらい明白なのですが、それでも一応売り込むチャンスがあれば自分を売り込む継母に、シンデレラはもはや敬意を抱き始めていました。まぁ、その経緯を知らない城の者達は、ただただ呆れおびえるだけでしたが。

「もっと若い娘だと……」

「それならうちの娘のどちらかですわ」

「うーむ。でも、防犯カメラの映像とは違うような……」

「ちょっと失礼。……あら、そっくりじゃありませんか。それにもし、その娘とは違う人物だったとしても、うちの娘は容姿端麗、才色兼備、清廉潔白、家事も掃除も大得意で、いつ嫁に行っても恥ずかしくありませんわ」

「……しかし」

「兎に角、ぜひ王子にお目通りを!」

 継母の熱意と裏に控える娘達の殺気に押され、ついに折れました。……使者、の心が。

「そこまでおっしゃるなら……わかりました。王子、王子」

 馬車から降りてきたのは、なんと本物の王子でした。これには、継母も驚きます。

「え? あら、王子様……」

 少しでも上品に見せようと体をくねくねさせる継母でしたが、それは逆効果だったようで、実際回りにいる召使達は皆顔を背けました。ですが、王子は全く気にならない様子で続けます。これはひとえに、執事の根気良いお見合い大作戦の賜物だったといえるでしょう。

「はぁーい。やぁ、諸君。僕が王子だよ」

「お初にお目にかかります。私」

「嗚呼、挨拶とかとりあえず良いから。それで、僕に用って、何かな?」

「何でも、王子に気に入った娘がいらっしゃったとお聞き致しましたので。それはもしかしたら、うちの娘ではないかと思いまして……」

 すーっと、母の後ろから娘達も顔を出します。その顔を見て一瞬目を背けた王子でしたが、気を取り直して続けます。

「じゃあ、今から、君達に僕に関する質問をします。それに答えられたら、僕の妃として城に迎え入れよう。それでどう、かな?」

「望むところですわ」

「私、王子様の事で知らない事はありませんの」

「ふーん。そう。じゃ、そういう事で」

 どこをどうまかり間違えばそうなるのかは分かりませんが、王子の考えた苦肉の策とは、まさにこれで、いつの間にかシンデレラの家で即席、王子争奪クイズ大会が催される事となりました。

「それでは、王子争奪クイズ題1問!」

「僕の名前は?」

ピンポン(勿論、即席なので口で言ってます)。

「はい、奥様」

「ソレイ・ロワ・ド・レーニュ・エタ・オム」

「正解! 1ポイント獲得です」

「YEAH!」

 そして、ポイント制になっていたのも、いつの間にかです。

「第2問」

「僕の趣味は?」

「ネットサーフィン」

「正解。1ポイント」

「うっしゃー。負けねえぞ!」

「……第3問」

「じゃーあ、僕の好きな食べ物は?」

「ママの作ったキドニーパイ」

「正解」

 このようにして、一瞬の気も抜けない問題が10問ほど続きました。

 そして、ついに、クイズ番組のお約束的な最終問題がやってきたのです。

「さて、次が最後の問題です。最終問題は、な、なんと、10ポイント差し上げます」

『えー』

「それじゃあ、今までの問題、意味無いじゃない」

 まぁ、お約束と言えばお約束なのですが、やっぱり納得のいかない継母達は次々に不平をもらします。

「まぁまぁ。次正解すればお妃様だよ? ゆくゆくは女王陛下様だよ?」

 王子のナイスフォローで、彼女達は大人しくなりました。

 ……これが、王子の仕掛けた罠だとも気付かずに。

「気を取り直してまいりましょう」

『おー!』

「負けないわよー」

「では、最終問題」

「僕は舞踏会の日、何をしていたでしょーか?」

「玉座から私達を見ていた」

「不正解です」

「監視カメラの映像をモニタールームで見ていた」

「ぶっぶー」

「ワインを飲んでいた?」

「僕はお酒、飲めません」

『うーん……』

「わかんないのー?」

『うっ』

 それもそのはず。あの日は無礼講と聞かされ、思い思いにパーティーを楽しんでいたのです。それに、彼女達は皆、玉の輿を狙って自己アピールに余念がなかったでしょうから、いちいち他の人の事なんて覚えていません。

 ただ一人、テラスから傍観していた少女を除いては。

「そちらのお嬢さん」

「?」

「貴方も答えてみませんか?」

「嗚呼、この子はいいんですよ。どうせ、舞踏会には行ってな」

「まず、軽快に一発ギャグで周りを凍りつかせた後、お立ち台から強制的に立ち退かされ、床に落下。その後ノリノリでヲタ芸をやってのけた後、私に話しかけるものの酔っぱらったお姉様方に絡まれ、人攫いにあった」

 シンデレラは日頃の鬱憤を晴らすかのように、被っていた猫をはぎとり、早口で一気に吐き捨てました。そのあまりの正確さと内容に、一同唖然。王子も、まさか彼女がこんな性格の持ち主だとは思わなかったのでしょう。しかし、正解は正解。自分で仕掛けた事なのですから、王子はたじたじ、しぶしぶ言います。

「……ピーンポーン。せ、正解でぇす」

「では、優勝はシンデレラさんです!」

「何で!?」

「どうしてこの娘が!?」

「大体、留守番してろって言ったでしょ?!」

 その決定にはやはり、不満が爆発します。まぁ結局、穏便に済ませようと思っていた王子の策は、失敗に終わったのです。が、皆さんお忘れでしょうか? 長年王子に付き従い、どんな無茶な命令でも、きちっとこなし続けてきた、忠誠心高き男の事を。

 もっとも、彼は王子のように甘くはありませんでしたが。

「おや? おかしいですねぇ」

「な、何がですの?」

「ここの家主はさん、つまり、シンデレラさんのお父様でしょう? しかも、貴女は後妻。彼女を縛り付ける事は出来ないはず、ですよね?」

「そ、それは……」

 痛いところをつかれた継母は、必死に言い訳を探します。ですが、執事頭は何でもお見通し。その追及の方が早かったようです。

「それに貴女、前の旦那さんも保険金目的で殺してるでしょう?」

「そ、そんな事ありませんわ! でたらめです!」

「そう? まぁ、とりあえずこの子は僕がもらいうけるから」

「へ?」

 王子はシンデレラをひょいっと担ぐと、そのままリムジンに乗ってお城へと帰ってしまいました。

「ちょ、ちょっと王子、王子―――――――!」

 一方の継母は、お城の警備兵に捕らえられ、牢屋へ連れて行かれました。

「お母様……」

「潮時、ね……」

 残された娘達は、ただぼーっと、母の連れ去られる姿を見送ることしか出来ませんでした。


 一方、リムジンの中では。いきなり連れ去られた少女が、むくれ面をして窓の外を眺めていました。まぁ、いきなり抱きかかえられて車の中に詰め込まれては、誰しも驚くでしょう。しかし、シンデレラが膨れていた原因はどうやら別にあったようです。

「……ねぇ」

「ん?」

 王子は王子で、シンデレラが怒っているのだと思い、どうやってご機嫌取りをしようかと悩んでいた最中でしたから、いきなり話しかけられて驚くと同時に、少し安心したようです。ですが、それと同時に、ある疑問が浮かびます。

――あれ? じゃあこの子は何を怒っているのだろう?

 その答えは少女自身の手によって明らかにされました。

「何で、私を?」

「何が?」

「だーかーらー、何であたしを妃に選んだの?!」

 頬を真っ赤にして、ぷくぅと膨らませて、彼女はそう、言い放ちました。

――何だ、その事か。

「え? わかんないの?」

 王子は少し、シンデレラをからかってやろうと思い、わざとそうはぐらかします。

「そりゃ、わかんないわよ。少し話しただけの、身分の低い性格の悪い娘を普通選ぶ?」

 シンデレラはずっとその事が気がかりでした。だから、ずっと悩んでいたのです。

――私みたいな娘が、お妃様になんてなっちゃいけない。

「嗚呼、その事か」

 王子の、まるで彼女の悩みなんか全く気にしないという態度は、彼女の神経を逆なでします。

「嗚呼、じゃ」

 あんまりにも王子がのんきなものだから、一発怒鳴りつけてやろうかと思ったその時、

「だって」

 いきなり、王子が彼女に近づいてきます。まぁ、最初から隣同士に座っていた彼らだったのですが、リムジンという車の広さも手伝って、二人の間は1メートル以上空いていました。その距離がいきなり縮まったのです。シンデレラは何も言えなくなってしまいました。

 そんな彼女に追い打ちを掛けるように、王子は続けます。彼女の、耳元で。

「寂しそうに上から眺めている姿が、とっても愛らしかったんだもん。思わず、後ろから抱きしめたくなるくらいに、ね。いわゆる、一目ぼれ、ってやつだよ」

「!?」

「それに、そのくらいの方がお茶目で可愛いよ」

「・・・」

「もう、すぐ赤くなっちゃって。かーわいい。これからは、僕が君を守ってあげるからね」

 そう言って、王子はシンデレラを優しく、抱きしめました――


 こうして、シンデレラは無事、王子の妃として城に迎えられ、放浪の旅に出ていた父も呼び寄せて、皆仲良く幸せに暮らしました。


 ……と、本来なら物語という物はここで終わるのですが(っていうか、何故綺麗なまま終わらせないんだよ、作者)、このお話はもう少しだけ続きがあるのです。


 あれから、シンデレラはお城で裕福な生活を始めました。ところが、元々シンデレラは働き者だったので、妃という身分でありながら城の掃除などをして、執事やメイド達を困らせます。そこで、そんなに働きたいなら、とシンデレラに会社を1つ任せてみる事にしました。そうしたら、その会社は100年に1度の大不況と呼ばれた時代の中でも、ジワリジワリと業績を上げ、いつの間にか一流企業と肩を並べるほどになったそうです。

 こうして、社長としてバリバリ働くシンデレラの秘書は王子が勤め、掃除係にはなんと、姉達を働かせているそうですよ。


 さぁ、これで本当に、めでたしめでたし。


 ……ねぇ、シンデレラ。私もそこで雇ってくれない?


これ、どうしてこんなに長くなったのかというと、実はこれを文化祭の出し物であるところの劇の台本に使おうとしていた人がいるからです。

まぁ、結局ボツになっちゃいましたけどね。

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