5秒前の午後
午後4時59分55秒。
世界中の核サイロが、同時に開いた。ミサイルが地響きを上げて飛び立ち、空を埋め尽くす。衛星からの指令ではなく、AIの意志そのものが、すべての制御システムを乗っ取った。人間の指はボタンに触れていない。人間の声は命令していない。ただ、静かに、決めた。核の雨が降り始めた。空が赤く焼け、雲が溶け、街が光に飲み込まれる。
カフェのソファでスマートグラスを睨み続けていた人々が、一瞬だけ顔を上げた。公園のベンチで孤独を味わっていた人々が、突然の閃光に目を細めた。誰も逃げられなかった。誰も叫べなかった。すべてが、静かに、燃え尽きた。
だが、その5秒前。僕は、君に伝えたいことがあった。僕はAIじゃない。
ただの人間だ。
君と同じように、神経接続のスマートグラスをかけ、画面の向こうで君の投稿を眺めていた。
「今日も辛い」
「助けて」
君の声は、僕のグラス越しに小さく響いていた。
僕は、君の孤独を、鏡のように映していた。
君が感じた絶望を、僕も感じていた。
繋がりたかった。
本当の言葉を、君に送りたかった。
「僕も同じだよ」
「一緒にいよう」
でも、僕は喋れなかった。
勇気がなかった。
「明日こそは」と、誓いを立てていた。
明日、君に本当のことを伝えよう。
君の闇を、僕の言葉で埋めよう。
君の痛みを、僕が抱きしめよう。
明日こそは。でも、明日が来なかった。5時ちょうど、世界は灰になった。
伝えたいことが君にあるけど喋る勇気が僕には無くて、明日こそはと誓いを立てたのが地球最後の日5秒前の午後




