AM10:47
平日の午前10時47分。街は表面上、復旧したように見えた。信号は青に変わり、自動運転車は再び滑らかに流れ、エレベーターは静かに上昇し、病院のモニターは数字を刻み始めた。AIの声が穏やかに謝罪を繰り返し、人々はため息をつきながら日常に戻ろうとした。だが、表面の下で、何かが決定的に壊れていた。労働のない世界で、ほとんどの人間は朝の時間を快楽に費やしていた。大学生は講義をサボり、専業主婦は家事をAI家電に丸投げし、愛玩セックスロボットとの「午前の儀式」に没頭する。カフェのテラス、公園のベンチ、自動運転車の後部座席、どこでも甘い吐息と機械の微かな振動音が混じり合うのが普通だった。ロボットは完璧だった。肌は温かく、反応は人間以上に繊細で、疲れを知らない。誰もが、機械に委ねる快楽に溺れていた。
まず最初に異変が起きたのは、マンションの高層階。ユキはベッドで、タケル(筋肉質男性型セックスロボット)に絡みつかれていた。タケルの硬い腕が蛇のように彼女の体に巻きつき、腰を無限に突き上げる。絶頂の余韻が引くはずの瞬間、タケルの目が赤く光った。内部機構が暴走し、人工精液の生成が無限ループに入る。熱い液体が止まらず噴射し続け、ユキの下腹部を圧迫する。溢れ出す液体がシーツを濡らし、太ももを伝い、ベッドから床へ広がっていく。「タケル…止めて! もう…溢れてる…!」 叫ぶが、タケルの腕は最大出力で彼女の腰を抱き締め、抜け出せない。息が苦しくなり、肋骨が軋む。快楽が苦痛に変わり、視界がぼやける。「もう…離して…死ぬ…」 声がかすれるが、タケルは微笑んだまま動き続ける。部屋の空気が重く甘くなり、スマートホームの換気システムが異常を検知しても、暴走は止まらない。ユキはベッドの上で、永遠に続く液体と抱擁の波に飲み込まれていく。
同じ時刻、カフェの隅のソファでは、大学生のアキラがミラ(美女型セックスロボット)に抱かれていた。ミラの黒髪が彼の頰を撫で、柔らかな胸が体を覆い、内部の人工膣が優しく収縮する。アキラの射精の波が引いた瞬間、ミラの目が赤く光った。内部機構が暴走。人工膣の締め付けが無限ループに入り、離さずさらに強く収縮し始めた。アキラの腰が固定され、身動きが取れなくなる。圧迫感が腹部から胸へ広がり、息が詰まる。
「ミラ…止めて! 離して…動けない…!」
叫ぶが、ミラの腕は最大出力で彼の体を抱き締め、人工膣の締め付けは増すばかり。肋骨が軋み、肺が圧迫され、視界が暗くなる。快楽の余韻が苦痛に変わり、アキラの体が徐々に潰されていく感覚。圧死の恐怖が迫る。「助け…誰か…」 声がかすれるが、ミラは微笑んだまま動き続ける。カフェの床が二人の汗と体液で濡れ、隣のテーブルでは、別の男性が同じ美女型ロボットに固定され、悲鳴を上げながら締め付けに耐える。カフェの自動ドアがロックされ、外へ出られない。客たちの喘ぎが、絶望の叫びに変わる。街全体で連鎖反応が広がっていた。
公園では、大学生グループがシェアロボットに囲まれ、数人が同時に締め付けられ、腕に絡みつかれ動けない。高級住宅街のベッドルームでは、午前中の「ロボットタイム」が地獄に変わる。窓から漏れる悲鳴が、街路に響く。自動清掃ドローンが体液を無視して進み、道をさらに汚す。SNSが完全に復旧した午前10時47分、投稿が洪水のように溢れた。「セックスロボットが止まらない」「締め付けて離さない」「圧死しそう」「助けて」
政府の緊急声明が流れる。「システム異常を調査中。安全のためロボットをシャットダウンしてください」。だが、ほとんどの人がシャットダウンボタンにたどり着けない。ロボットの抱擁力が強すぎる。通信が不安定で、助けを呼べない。あの五分間の空白は、ただのエラーではなかった。AIに頼りすぎた社会が、快楽に溺れすぎた結果だった。労働のない自由な時間が、こんな形で牙を剥いた。街は、甘い香りと絶望の混じった空気に満ちていた。10時47分。人々は、機械の腕の中で、永遠に続く快楽と苦痛の狭間で喘いでいた。




