素敵なボディランゲージ
一人旅の途中、フィンランドのタンペレ(Tampere)駅からヘルシンキ行きの列車に乗ろうとした時の事。
ホームで待っていると、続け様に何度か構内放送があった。当然フィンランド語なので、何を言っているのかさっぱりわからない。
と、予定時刻になっても私が乗るつもりの列車がこない。
あ、さっきの放送はこの事を言ってたのかな? と思うけど、単に少し遅れるという放送なのか、発車ホームが変わるのか、それとも事故かなんかあってすんごく遅れるって事なのか……?
とか思っているうちに向かい側のホームに列車が……。
うわ! もし、あれがヘルシンキ行きだったらどうしよう?
この辺りは列車の本数が少ないから、ひょっとしてアレに乗り損なったら今日中にヘルシンキに着けないかもしれない。
いつもの移動ならそれでもいいけど、今日はヘルシンキから日帰りのつもりで、向こうに宿もとってあるし、カメラと財布とパスポート以外は全部部屋に置いてあるっていうのに……。
とにかく、駅員さんに訊いてみよう。(フィンランドでは若い人はある程度英語を話せる人が多い。私の英語が低レベルでも、それなりに意思疎通はできる)
あせりまくった様子で時刻表や時計や向かいのホームをキョロキョロ見た後、切符売り場の方へ駆け出けだそうとした時、傍のベンチに座っていたおばあさんにトントンと軽く背中を叩かれた。
振り返ると、笑顔といっしょに
「ヘルシンキ?」という問い。
「ヘルシンキ」
と言って頷くと、おばあさんは袖をまくって自分の腕時計を見せてくれ、まず現在時刻を指してから時計の縁に沿ってぐるっと指を半周させ30分後の場所で止めた。そして、にっこり笑って自分の隣の席をパンパンと叩く。
これって『ヘルシンキ行きの列車は30分遅れるけど、ここに座って待っていればちゃんと乗れますよ』って言ってくれてるのかな?
「キートス(ありがとう)」と言って不安を残しながらも、おばあさんの隣に座った。
英語も通じないし、ボーッと座り続ける事30分。
来たっ!
ヘルシンキ行きの列車が目の前のホームへ滑り込んでくる。
「キートス!」
改めておばあさんにお礼を言って列車に乗り込んだ。
こちらから尋ねたわけでもないのに行きずりの外国人に親切にしてくれた事、言葉なんて通じなくても気持ちを伝える知恵を教えてくれた事、忘れられない思い出です。
1990年7月の出来事。
タンペレではムーミンミュージアム(MUUMIlAAKSO)に行って、ピハヤルヴィ湖畔を散策しました。
この話は以前個人のホームページにも掲載していたものです。