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2-2 身勝手な行動

「それじゃあ行こう」

「一体何をしたんですか? あの兵士多分漏らしてましたよ?」

 レリアは扉の下を通過し、門の先にある町並みを見ながら口を開く。

「まぁ、誰彼構わず喧嘩を売るような真似をしちゃいけないってことだね」


 そう言いながらレリアは鼻歌をしながら街の中へ入った。

 重厚な鋼鉄製の扉をくぐり抜けた途端、レリアの隣を歩いていたロベルが感嘆の声を上げた。田舎暮らしをしていたロベルには、人々が集う街はまるで異世界のように映ったのだろう。

 綺麗に敷き詰められた石が大地を覆っており、歩きやすく舗装された地面が広がっている。

 真っすぐに伸びる道には、目を見張るほどの多くの人々が闊歩し、道の脇には様々な商店や露店が軒を連ねている。その道が続く先には、街のシンボルとも言える巨大な教会がそびえ立ち、老若男女様々な人々が集っている。

 彼らはクルエリフと呼ばれる創造主を信仰しており、一般的にクルエリフ教会と称されている。


 また、教会の近くには、教会に匹敵する大きさの二階建ての建物が建っており、その建物には多種多様な旗が掲げられている。

 入口の側には《ハンター協会》という看板があり、教会へ向かう人々とは異なる屈強な肉体を持つ様々な者がその中へ入っていく様子が見て取れる。

 ハンター協会とは、魔物や魔女を駆除する為に志を同じくする人間が集まり設立された組織だ。始まりはわずか数人からの小さな集まりであったが、現在では拡大を続け、国家に影響を及ぼすほどの大組織に成長した。

 また、ハンター協会と教会は、魔女を滅ぼすという攻撃的な理念のもとに協力関係を築いている。


 この二大勢力の協力関係により、国家は容易に介入できず、むしろハンター協会の動向に対して、様々な歩み寄りを見せている。

 そんなハンター協会を目指して歩いていたレリアは、隣を歩いていたロベルが唐突に足を止めるのを見た。彼は教会前の方に顔を向けており、釣られてレリアも教会の方へ視線を向けた。

 そして、すぐに異常に気がつく。視線の先では、三百人近い人が集まって何やら騒がしくしていた。


「あれ、何をしているですかね?」

「さぁ? 大したことじゃないと思うけど……」

 どうせ神を称える祭りか何かそういうイベントが行われているだけだろう。

 そんな事を考えつつ、レリアは特に興味を示さずに、再び歩き出す。

 すると、背後からロベルの声が飛んできた。


「レリアさん。少し寄ってもいいですか?」

「行きたいの?」

「はい。興味あります」


 好奇心を抑えられずにウズウズとした様子のロベルを見て、まるで子どものようだとレリアは微笑む。

「それじゃあ行ってみようか」

 レリアは少しばかり歩を早め、前を歩くロベルに追いついて教会前広場にたどり着いた。


 教会前広場には男性が多く、背の高い男性が壁のように立ちはだかっていただめ、レリアは人だかりの中央で何が行われているかを見ることはできなかった。

 隣に立つロベルを見ると、どうやら彼には人だかりの中央で行われている事か見えているようで、顔は蒼白になっていた。

 先程までの子供のようなウズウズした様子は見る影もない。

 違和感を強めたレリアは、つま先をピンと伸ばして背伸びする。そうすることで、前に立つ男性の頭頂部を超え、かろうじて人だかりの中央で行われていることを視認できた。


「あれは……」

 思わずレリアは声を漏らす。

 群衆の中心には、高さ三メートル程度の十字架が立てられており、その十字架には二〇代前半と見られる赤髪の女性が縛られている。女性は、自らの罪を否定するように喉が裂けんばかりの声で「違う、違う私は違う! 私は、魔女じゃない!」と力強く叫んでいた。

 魔女狩りだ。

 魔女は、力を持たない一般市民の間では恐怖の対象である。そして、このような恐怖の感情が高ぶってくると、人々は暴走したように恐怖を発露しようとして、魔女狩りを行う。


 だが、彼らの行為は立派な法律違反だ。

 今から八年前の六九三年に『特定魔女狩り認可法』という法律が施行された。

 特定魔女狩り認可法には五つの条項の中に注目すべき三つの点がある。

 一つ目が、魔女の定義について。

 『魔女』とは悪魔と魂を対価にした契約を結び、かつ、その契約に基づいて超自然的な能力、または魔術を授与された個人を指す。また、この定義には間接的な方法による能力・魔術の獲得は含まれない。

 この通り、間接的な方法による能力の獲得は魔女と定義されない。すなわちロベルはこの時点で魔女判定から除外される。


 二つ目が、魔女狩りの規定について。

 魔女狩りの実行権はハンター協会に限定されており、その他の個人または団体による魔女狩りは禁止。そして、違反者とそれに関わる者はハンター協会の職員や関係者によって極刑が科される。

 ということが実際の法律文ではもっと長文で記されている。

 この時点でレリアはこの広場にいる実行犯及び組織、場合によっては見物客も含めた全員を極刑にする権利を意図せずに得てしまった。

 仮に十字架に架けられた女性が本物の魔女だったとしても、彼らに正当性は認められない。


 ちなみに三つ目の注目すべき項目には、特定状況における権利非保持者への権利の貸与と、その責任について書かれている。


 それはともかく今回の場合、この広場にいる全員を極刑にするのは無理がある。

 そのため、この魔女狩りを率いた個人、または組織を極刑にしなければならない。

 よく見ると、人だかりの中心部には、騎士のような人物が横並びに数十人立ち、群衆が近づき過ぎないようにしている。


 その事から、レリアは本騒ぎを引き起こしたのは騎士たちだと判断した。

 魔女ハンター以外の者による魔女狩りの犠牲者は、ほとんどが魔女ではない。そもそも一般市民には人間社会に潜む魔女を見分ける能力を持ち合わせていない。彼らの行う魔女狩りは、根拠のない推測に過ぎない。

 レリアを含めた魔女を見抜く力がある個人は魔女ハンターになったり、国に雇われたり、教会に雇われたりと、その能力が必要とされる場所に雇われる。

 そういう才能を社会は見逃さない。


 また、専門職には就いていないが魔女を見抜く力を持った者たちは、このような魔女狩りには関わらない。なぜなら吊し上げの犠牲となる人々の大多数が一般市民であり、彼らは魔女狩りとされる無意味な殺人の実態をよく知っているからだ。

 すなわち、この場に居る人々は、魔女を見抜く力がないのに『多分魔女』という曖昧な理由で無為に人を殺そうとしている。


 悲しいことに、彼らは自分たちが人を殺しているという自覚がない。ただ邪悪な魔女を狩っているだけと自らを正当化している。レリアからしてみれば、彼らは悪意を持った殺人者以上に邪悪な存在だ。自覚のない殺人ほど最悪なものはない。

 なぜなら、彼らの頭には後悔という二文字は存在していないからだ。


 他人の意見はともかくレリアはそう思っている。

 そして、多分国王も同じような思考の持ち主だ。

 このような魔女狩りを一度許してしまえば、一般市民の間で無責任な魔女狩りが流行ってしまう。それはレリアとしても不本意な事態だ。


 だからこそレリアは憤慨していた。秩序を守り混乱を減らすための法律を国家に仕える騎士が率先して破っているのだ。

 彼らの処分をどうしてやろうかと、レリアは考え、少し相談に乗ってもらおうとロベルの方を向く。


「ねぇ。ロベ──ル?」

 先ほどまで隣に立っていたはずのロベルの姿がなかった。

「あれ?」


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