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3-5 賭博

「どうしました?」

「騎士団に渡したクリスタルに付与した魔力が切れる時間。悪いけど、騎士団の所に言って連絡してきてくれない? 私は一人で情報収拾を続ける。一時間くらいしたら教会前に行くから、その時に例の魔女も連れてきてとも伝えておいて」


「はい。わかりました。ところで騎士団の詰め所って何処にあるんですかね?」

「多分教会の周辺だと思うけど……そこら辺は住人に聞いたほうが良いかも」

「わかりました! それじゃあ行ってきます」

 元気よく声を上げたロベルは去っていく。


 ロベルの後ろ姿が視界から消えるその瞬間まで見送ったレリアは、彼を追うかのように同じ道を歩み始めた。やがて、レリアの足は賭博場の前で自然に止まった。

 誘惑に駆られて、盗み見るかのごとく古めかしい木製ドアへちらりと目を向けた。

 その後、素早く周囲を見渡し、自分が注目されていないことを確認すると、木製ドアの前に静かに立った。


「こ、これは偵察だから。うん偵察! それに一時間ちょっと気分転換するだけ」

 誰も聞いていないことを承知で、レリアは自分に言い聞かせるように独り言をつぶやきながら扉を押し開けた。


 賭博場の中はだだっ広い室内になっていて、等間隔に二〇を超えるテーブルが設置されている。そして、そのテーブルを囲むように何人もの人間が座っている。

 彼らの手元にはダイスやトランプなどが握られており、賭けの内容は様々だ。

 現金を賭けるテーブルと遊戯用のコインを使用して遊ぶテーブルは別れており、レリアは少し迷って遊戯の方のテーブルへと移動し、空いている机に腰を下ろした。

 レリアの頭の中は、賭け事のことでいっぱいになっており、周りの状況は見えていない。


 だからその時点で……もっと言えば賭博場に入った瞬間に気づいても良かったはずなのに、レリアは気づかない──賭博場にいる人間たちは、勝っても負けても関係なく、淡々と作業のように賭博をしているという事実に。

 通常の賭博場では、緊張と一瞬の静寂、そして歓喜や怒声が響いているものだが、この賭博場に静寂しか存在していない。レリアがその異常な空気感にレリアが気づいたのは、トランプを使ったゲームを始めて少し経ってからのことだった。


「ん?」

 言葉にできない違和感を覚えたレリアが隣のテーブルに視線を移したところ、ちょうど視線の先には、現金を掛けた賭博で目を回すほどの大金を獲得した男性の姿があった。

 しかし、彼は喜びを示すこと無く、表情を一つも変えずに、まるで人形のように淡々と現金へと変わるチップを動かす。


 それを目の当たりにした瞬間、冷たいものがレリアの背筋を駆け抜けた。まるで、人形が自ら思考し動き出したかのような、生理的な不快感がレリアを襲った。

 同時に、レリアは賭博場全体がそうなっている事に気付き、反射的に立ち上がる。

「ど、どういうこと?」

「なにがですか?」


 隣の席に座っていた男がレリアへ声をかける。

 しかし、レリアは彼を無視して席を外れた。そして、周囲を慎重に見渡した後、違和感を確信へと昇華させたレリアは思慮深く口元に手を当てた。

「これは……認識改変? 違う気がする……でも魔女の影響なのは確実」

 などと考えていると、賭博場の扉が勢いよく開く。


 扉が開き、現れたのは煌びやかな赤いドレスを身にまとった女性だった。彼女の容姿は非凡で、人を魅了する力を秘めたアメジストのような瞳を持ち、異次元の美を湛えているかのようだった。


 通常、そのような人物が現れれば、人々はその容姿に釘付けになるものだ。

 しかし、この場にいる者たちは、テーブルの上での賭博に夢中で視線を逸らさない。その結果、女性に注目しているのはレリアだけとなり、レリアと女性の視線は交錯した。

 その一瞬で、レリアは相手が魔女であると確信し、警戒心を一気に高めた。


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