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2-11 意識不明

 数分前までの強気な態度はどこへ行ったのか、先程までの態度を一変させて泣きそうな顔でミアは言う。

 隣に立つフーレですら躊躇しそうなほどに同情心を掻き立てるその反応に、レリアは一切踊らされずに、変わらない冷たい目を向け続ける。


「仮にそうでもあなたが魔女であることは確定してる。選択肢は既に提示した二択しかない」

 ミアはレリアの言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。

 そして顔を両手で埋め、懇願する。


「い、一日だけ時間をください……」

「駄目。この場で決めて」

「無理です! お願いですから一日だけ……」


 何度も頭を下げてミアはレリアに鳴き声のような悲鳴にも近い祈りを捧げる。

「あ、あの……一日だけ時間をあげてもらえませんか?」

 フーレはもう完全にミアに同情してしまったらしく、言いづらそうにレリアへ向かって言った。

 それを見てレリアは眉で八の字を掻きながらも肩をすくめ、ため息を吐いた。


「逃げたら殺す。それで良いなら一日だけ」

 今にも泣き出しそうなほどに曇ったミアの表情が花開く。

 満面の笑みを携えながらミアはレリアへ向かって深く頭を下げた。

「ありがとうございます。ありがとうございます!」


 何度も頭を下げるミアを見ながらフーレはレリアにそっと近づいて、耳打ちをする。

「頼んだ側として言いづらいんですけど、本当に良いんですか?」

「危険度は低いし良いんじゃない? どうやら私の依頼された魔女じゃないみたいだし」


「そ、そうなんですか? 俺はてっきりミアさんが本丸なのかと……」

「違う。ミアの力では四千人も殺せないし、理性もある。どうやらこの街には二人魔女が居たみたい。取り敢えず今日は魔女を一体捕まえたということで良しとしようかな──」


 と、そこで言葉を切って、ミアの方の姿を視界に収める。

「そう言えば、あなたはいつその力を手に入れたの?」

「半年前よ」


 ミアの発言を聞いた瞬間に、レリアは眉を八の字に曲げた。

 この街に来て、レリアは半年という単語を何度か聞いた。

 一つ、ロベルの住んでいた村で聞こえていたらしい魔物の声が消えた時期。

 二つ、この街に住んでいた三人の魔女ハンターの同時死亡。

 三つ、ミアの魔女化の時期。

 全て半年前に起きた出来事だ。


 これらは別々の現象として、何の関係性なく発生したのだろうか? 何かしらの関係性があると見たほうが良いのではないだろうか?

 レリアがこの街に来る理由となった四千人もの命を奪った魔女の存在。その魔女がこれらの事件に関連している可能性も考えられる。


「あなたがその力を手に入れた時、その場に誰か他にいたの?」

「……居ないわ。多分──」

「多分?」


 あやふやな回答にレリアは思わず首を傾げた。

「当時私は劇団員をしていたのよ。舞台終了後、気がついたら舞台の上に王冠を被ったフクロウがいて、力を与えてもらった。そこからトントン拍子にシスターの地位を得て今に至るって感じ。その時舞台の上に誰か立っていた気もするけど、気の所為だと思う」

「劇団員……」


 ミアの言動が奇妙な迫力が籠もっていたのはこれのせいか、と思いながらレリアは口元に手を当て思考する。

 人生の転換点の出来事にも関わらず、ミアの証言があやふやだ。ミアの記憶が改ざんをされている可能性がある。ならば彼女の証言はあまり信用できない。

 もし、外部から記憶を改ざんされたのであれば、手を加えた者の情報をある程度類推できる。


 まず記憶改ざんされた可能性から認識改変魔術を持つ悪魔パイモンと契約している可能性が

 浮上してくる。

 また、劇団員のミアがトントン拍子にシスターの地位を得たという証言から人身掌握系魔術を持つ悪魔ベリアルが干渉してきたと推察できる。この悪魔と契約をすれば、簡単に高い地位に就くことができるのだ。


 ミアの説明から彼女は、回復魔術を与えてくれる悪魔ストラスのみの契約をしていると思われるので、ベリアルの魔術を使用したのはミアではなく、パイモンの契約者と同一人物だろう。

 また、人心掌握の魔術を保持しているなら、この街で関わった人間も操られている可能性がある。場合によってはこちらの情報は全て魔女へ伝わっていると考えたほうが良い。


「良くないね。思ったより難航しそう」

「何か問題でも?」

 レリアの難しい表情を見てフーレは心配そうにレリアの顔を伺ってきた。

「目的の魔女がかなりめんどくさい魔術を保持してるかも……。パイモンとベリアル。人心掌握と認識改変が使われている可能性がある」


「それってまずいんでしょうか?」

「超やばい。誰も信用できないよ。こんなの……」

 しかもまだ件の魔女が二体しか契約していないとは限らない。他にも契約している悪魔がいる可能性がある。

 敵の正体は不明。魔術も未知数。こちらの情報は漏れている可能性が高い。

 状況は絶望的だ。


 とはいえ、半年前からの時系列を無理やり組み合わせれば一本の線が見えてこない事もない。

 例えば、四千人の命を奪った魔女は、長い間ロベルの住んでいたイニシウム村に閉じ込められていた。

 それが半年前に脱走したか、もしくは誰かに移動させられたかして、獲物の多いサンティマン・ヴォレへ向かった。


 その際、この街に住む魔女ハンターに感知され、隠蔽の為に魔女ハンターを殺害。魔女ハンターを殺害したことで、魔女がいるとハンター協会に察知される可能性が高まる。

 そのため、他の人物を魔女に仕立てあげ隠れ蓑にするためにミアを魔女にした。

 考えてみれば、割と道理は通っている気がする。


「まぁ、半年前に起きたことを中心に調べるのは悪くなさそう」

 レリアが独り言を呟いた後、顔を上げると、こちらの方を心配そうな眼差しでこちらを見つめていたフーレと目が合った。


 彼のどうでもいい肉体情報が頭に流れ込んできたので、レリアは視線を僅かに逸らす。

「私はそろそろ帰る。ミアの監視は忘れないで。回復魔術しかもっていないから大した脅威にはならないと思う」

「は、はい!」


 フーレの敬礼を横目にレリアは息苦しい教会から出て、ロベルの元へと向かうことにした。


 レリアが支部長の別宅へ戻ると固い大地の上にロベルが──倒れていた。


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