2 タイムスリップ
『貴様ハ忌ミ子デアル。貴様ノ存在ハ世界ノ秩序ヲ乱ス。故二、殺ス』
「わァァァああああッ!!」
息を切らしながら飛び起きた。
まるで今この瞬間に起きた出来事のような感覚が全身を覆う。
しかし飛び起きて数秒ほど経ってから、それが今起きた出来事でない事を認識した。
「ここは、どこだ」
木の葉の隙間からこぼれる日光が眩しく、自然の心地良い風が頬を撫でる。
それは今までも当たり前のように感じてきた心地よさではあるが、見覚えのある森の景色でなかった。
「・・・起きたか」
「!?」
突然隣から聞こえた声に驚き思わず立ち上がり距離を取る。
「あぁ、あまり急に動くな。 傷に障るぞ」
「え・・キズ?」
そう言われ指をさされた先へ視線を向けると上半身の服は脱がされ、包帯をグルグル巻きにまかれていた。
それと同時に黒いコートの男に禍々しく感じ取れる剣で斬られた事を思いだす。
「――ッ!」
「大丈夫か? 無理はするな」
隣に居た男はアモルを心配そうに気遣いながら地面に座るように促す。
しかしアモルは男の胸倉を掴み今にも倒れそうな身体を脚を振らわせながら質問する。
「父さんと・・母さんはッ?!」
「・・・オレが見つけたのはキミだけだ」
「~~~~~ッ」
それを聞いて踏ん張っていた脚の力が一気に抜ける。
何故斬られて死んだ筈の自分が生きているのか。
もしかしたら両親も近くで生きているのではないか。
そんな疑問と期待のあった気持ちは瞬時に無くなった。
「言いにくいかも知れないが、オレに出来る事なら協力しよう。 だから出来る範囲で説明してくれないか?」
男は優しい口調でアモルの肩を支え、落ち着くように促す。
そうして、アモルは少し言葉を切らしながらも自分に起きた出来事を男に話した。
「・・そんな事が。 でもなぜ君だけがここに?」
「分からない。 俺も目が覚めたらアンタに助けられていたから」
「そうか。 ここは人里からかなり離れた場所の草原近くだからな。 普通キミくらいの子供が居て良い場所ではないはずなんだよ」
「草原?」
「あぁ、ほらここからでも見えるよ」
男が指をさし方に視線を向ける。
するとそこには一面に広がる緑の草原が見えた。
小さな川が所々で流れ、多くの種類の動物が穏やかに過ごしている。
「穏やかな場所だろう? でも見える光景だけで騙されてはいけない」
「え、なんで」
「まぁ待って。 あと少しで・・ほら、あそこ」
「・・・どれ?」
男が指をさした方向に視線を向けるが、見えるのは変わりのない草原だけ。
「あぁごめんよ。 ここからじゃ魔法なしでは見えないよね。 それじゃあコレを」
そう言って男が小さなバックから取り出したのは普通の双眼鏡だ。
「大丈夫。 此れは少し魔術を組み合わせた魔道具だよ。 これでかなり通り場所でもよく見える」
「魔道具?! マジでッ!! お兄さん金持ちなんだな~」
魔道具は国が指定された重要保管道具として定められ、かなりの金持ちか国に認められた魔法使いしか持つ事も扱う事も出来ないようにされている。
それをあたかも当たり前のように持って他人に貸す人など金持ちくらいしか思いつかない。
「? まぁいいや。 それよりもほら」
「あれは・・・魔獣?」
指をさされた方向を見ると全く見えなかった草原の先を確認する事ができた。
そこには視認だけで分かるほど狂暴な魔獣同士が争っているのが見える。
「片方はフェンリルだね。 狼型の魔獣で上位冒険者の3パーティーほど雇わないと討伐できない魔獣だよ」
「そ、そんなに強いの?」
「あぁ、そしてそれと争っているのはオーガだ。 知能があり人の真似をして棍棒などの武器を使って戦う魔獣だ」
男に説明してもらいながら双眼鏡越しで眺める魔獣同士の戦いは、あまりにも悲惨なものだった。
フェンリルに片腕を食いちぎられるオーガは片方の腕でフェンリルの胴体を棍棒で殴り叩きつけ、どちらもあたりの平地を破壊しながら力尽きるまで戦い続ける。
そして結果的にはフェンリルがオーガの首を噛み千切って戦いは幕を閉じた。
「これだけ穏やかに見える草原も少し進むと魔獣達が住まう魔界に繋がっている。 たまにではあるけどそんな魔獣達がここまでくる事もあるからね。 だから普通の人達はこんな所に近づく事はない・・って大丈夫かい?」
「~~~~~ッ」
吐き気がする。
今まで本や絵でしか見た事がない光景がすぐ目の前にある。
それは15年生きてきたアモルの中で日常になかった現実がそこにあった。
「とりあえず今日は休みな。 まだ日は明るいが1時間もすれば日が暮れ始める。 明日になれば人里のある場所まで連れて行くから」
「・・・ありがとう」
そうして男が言ったように1時間後には日が傾きすぐに周りは暗くなった。
男は慣れた動きで小枝を集め、魔法で火をつける。
さらには双眼鏡を取り出した小さなバックから食料を次々に取り出して晩御飯の準備を始める。
その光景を見て男が持っているバックも魔道具である事を認識した。
魔道具を持っているだけでも驚きだが、魔法をここまで簡単にコントロールする人物は国宝として人類の最高上位【魔法使い】の称号を持つ。
魔法使いは現段階では数人しか認められておらず、その内の1人はアモル達の暮らす国の女王が魔法使いだと言われている。
そしてここまで簡単に魔法を扱い、魔道具を数個所数している男は魔法使いだという事だ。
これだけの条件があって魔法使いでないとなると逆に怪しい。
「あの、アンタの名前は?」
名前を聞いた所で魔法使いの公表を控えられてい為分かるはずはない。
それでも危ない草原近くで保護してもらったのだから相手の名前くらい知っておかなければ失礼だ。
「ん? オレの名前かい? そういえば自己紹介をしていなかったね」
慣れた手つきで食材を切り分けて料理をしている男は手を止めてアモルと視線を合わせる。
「オレの名前はルイ・フラノス。 これでも一応、人類守護機関の勇者をしてる。 よろしくな」
「・・・・・・え?」
その名前を聞いて、今までルイに対して抱いていた違和感に気付いた。
ボサボサの黒髪に人当りの良さそうな顔。
一見何処にでもいそうな普通の男ではあるが、ボサボサの髪も相手の表情を伺ってヘラヘラしている表情も見慣れた顔。
そして名前であるフラノスはアモルの苗字と同じものだ。
フリーズしているアモルに首を傾げながらも焚き火の上で温めていた鍋が溢れ沸き出た所を混ぜるその姿は正に、家で母と並んで料理をしているアモルの父親と瓜二つだった。