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1 偽りの平和②


 「アモルーッ! タンオメッ!」

 「タンオメ?」


 意味の分からない言葉を言いながら俺に近づいてきたのは友人のアーサーだ。


 「あれ知らない? 誕生日おめでとうを短縮した言い方」

 「知らない。 っていうかそんな言い方はやってんの?」

 「いや? ボクが今考えた」 

 「じゃあ俺が知るわけなくない? っていうか俺の誕生日明日なのだが??」

 「あれ? そうだっけ?」


 アーサーは首を傾げながらも「まぁそれでもおめでとう!」と何事もなかったかのように再度祝いの言葉を送った。

 

 「それで? 折角の休日に呼び出した理由は俺の誕生日を祝ってくれるからか?」

 「いや違うが?」

 

 普通に恥ずかしいのだが?

 休日に呼びだして第一声が祝いの言葉なら誰でもそう思うと思うのですが、アーサーは何の事だと言わんばかりの真顔で否定してきやがった。


 「ボクがただ遊びたかっただけ」

 「そうかそうですか勘違いした俺が悪うございましたそれじゃあ今日は何して遊ぶんですかこの野郎ッ!!!」

 「なんだよそんな目から涙が流れるほどボクと遊びたかったのかい?」

 「羞恥心を押し殺してるんですぅーッ!」


 そうして俺達はたわいもない言い合いをしながらも他の友人達と合流したり普段は行かないような場所へ訪れプチ冒険をしたりなど、日が暮れるまで遊んだ。

 今日のMVPはアーサーが街中で年上の女性にナンパを始めたが、一蹴してビンタされた瞬間が一番笑った。


 「はぁー笑った。 お前顔はイケメンなのになんでそんなに女性と馬が合わないんだろうな」 

 「フッ。 ボクちゃんのイケメン具合に照れただけサッ☆」

 「いや、普通に嫌がられていましたが??」


 他の友人達と別れ、俺達も家路につきながら今日起きた出来事を笑いながら振り返る。

 そして途中の分かれ道で俺とアーサーも別れる。


 「それじゃあな。 また明日学び舎で」

 「おー。 遅刻すんなのよナンパ君」

 「今度は絶対上手くいく」

 「どこからそんな自信が・・っていや、お前の顔見たら普通はモテると思うんだけどな」

 「つまり、イケメンが仇になっていると?」

 「いやただたんに性格が残念だからじゃね?」 

 「バカなッ! イケメンであれば性格なんて二の次だろうッ!!」

 「そういう所だよバカ」


 そうして今度こそ家路に歩こうとするとアーサーが呼び止める。

 面倒臭そうに振り返るとアーサーは手を大きく振っている。


 「明日はちゃんとキミの誕生日を祝うからーッ! サプライズ楽しみにしといてねーッ!」

 「・・・フッ。 それ言ったらサプライズになんねーよ」


 楽しそうに笑みを浮かべ、俺も軽く手を振り返す。

 こうして、俺達のいつもの日々は今日も終わった。

 


 

















 「ただいまー」


 扉を開けると「おかえり」と声が聞こえる。

 母は晩御飯の準備でキッチンに立ち、父も仕事が早く終わり帰っていると隣で母の料理を手伝っている。

 それが俺がいつも見ている光景。

 いつもの日常だ。

 そして用意してくれた晩御飯を食べながら両親の仲が良いやり取りを聞き、今日は何をしてどんな出来事があったのかを話す。

 そしてアーサーの事を話すと両親ともに笑い、俺もそれにつられて笑ってしまう。

 そんな平和な日常が、俺の普通の日常だ。


 「・・・・か、あさん?」


 その日、俺の日常は非日常に変わり果てていた。


 「とう・・さん?」


 いつも見ている日常は見えなかった。

 いつも感じていた気持ちが消えていった。

 今あるのは、目の前に広がる両親が血を流して倒れている光景と、今まで感じた事のない怒りと憎悪だった。


 「わァァァああああぁぁぁぁッアァぁアがァあぁッッッ?!?! 父さんッ!!? 母さんッ!?!」


 母はテーブルの横で心臓を刺されていた。

 父は誰かと抗戦したのか護身用の剣を持つ腕が千切れ、首を斬られていた。


 「なんでッ! 誰がッ!!! どうし、て~~~~ッ」


 すでに身体が冷たくなっている両親を抱き上がる。

 理解が追い付かない。

 感情の高ぶりが抑えきれない。

 溢れ出る涙は流れ続け視界がぼやける。

 どうしても状況の把握する余裕を持つことができなかった。


 『・・・貴様ガ、子供カ?』


 そんな時、背後から声が聞こえた。

 獣のような呻き声でありながら人の言葉を発するソレは、初めて聞くはずなのに全身が逆立つほどの嫌悪感を感じる。


 『可哀ソウ二。 苦シイダロウ。 憎イダロウ。 ソレモスベテ貴様ノ親ガ間違ッタ選択ヲシタセイダ』


 呼吸が乱れる。

 息が苦しい。

 身体は震え動かく事が出来ない。

 それでも、両親を殺したであろう人物の前にアモルはわずかな力で声を発する。


 「お前が、父さんと母さんを、殺したのか」

 『アァ、ソウダ』

 「――ッ」


 声からした男であろう人物は悪びる様子もなく即答で答えた。


 「なんで・・どうしてッ!!」

 『貴様ノ両親ガ悪ダカラダッ』

 「ふざけるなッ!!?」


 男の言葉にアモルは叫ぶ。


 「俺の母さんと父さんが一体何をしたっていうんだッ! とても優しくてッ! 強くてッ! ここまで俺を育ててくれた人達が悪な訳がないだろうがッ!!」


 怒りの勢いに俺は何とか上半身だけ身体を動かす事が出来た。

 背後にいる男の方へ振り向き睨みつける、がその瞬間息が止まる感覚が分かった。

 男は全身を黒いコートのような物で顔まで隠しているせいで素顔が見えないが、フードの隙間から見える瞳は俺をしっかりと殺意を込めて睨んでいた。

 さっきまで怒りと憎悪は嘘のように消えていき、再び体の硬直が始まる。

 

 俺は、ただ男と目を合わせただけで恐怖で動けなくなってしまった。


 (・・・あれ、あの瞳は)


 頭が真っ白になっていく中、男の瞳が母と同じ紅い瞳をしている事に気付いたが、次の瞬間には何も考えられなくなった。


 『・・・哀レダナ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 殺意が籠った視線は哀れんだモノへ変わり、男は片手に持つ禍々しい剣を振り上げる。


 『貴様ハ忌ミ子デアル。 貴様ノ存在ハ世界ノ秩序ヲ乱ス。 故二、殺ス』


 そうして俺は何もする事が出来ないまま、振り下ろされた剣に斬られた。


 (・・・熱い)


 斬られた瞬間に考えた事がこれだった。

 右肩から腹部へと斬られた部分が痛みよりも痺れるような熱さが全身に感じる。

 それから少しずつ意識が遠のきながらも体から流れる生暖かい血が広がっていくのが分かる。


 (あぁ・・死ぬのか)


 さっきまで恐怖で何も考えられなかったはずなのに、何故か今はとても冷静に現状を把握する事が出来る。

 すぐ目の前にある両親を茫然と眺め、目から涙が流れたのが分かる。


 (とうさん・・・かあさん・・・)


 これは走馬灯と呼ばれる現象だろう。

 今まで両親と暮らしてきた思い出や、学び舎の友人達との記憶が一生に感じるほどの感覚で映像が蘇る。


 

 ・・・楽しかった。 うん。 俺は、幸せ者だった。



 そうして俺の視界は何も見えなくなった。

 考える事も出来なくなってきた。

 それでも聴覚はまだ生きているのか、男が何か言っているのが聞こえる。


 『■■■■ッ! ■■■■ッ!?』


 いや、これは言い合っている?

 ・・・誰と?


 「■■■■! ■■■!!」


 何を言っているのか理解は出来ない。

 ただ声からして若い男と言い争っているのが聞こえる。

 ただ、この声がなんとなく聞き覚えのある気がした。




 ―――アモルッ!?



 あぁ・・・お前、か。


 声さえ聞こえなくなってくる意識の中、アーサーがアモルを呼ぶ声が聞こえたような気がした。


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