1 偽りの平和①
「いい加減に起きなさいよ~」
母親の声と作ってくれている朝食の良い匂いで目が覚める。
まだ眠い頭をフラフラさせながらなんとか起き上がり、欠伸をしてリビングに向かうと、長い髪を一束にまとめて調理をしている母親がキッチンに立っていた。
「もぉ~やっと起きた。 学び舎が休みだからってダラダラしてたらダメだからね」
「・・・ふぁい」
「はぁ。 ほら、早く顔洗ってきなさい」
「ふぁい・・・」
母親に言われるがままに洗面台に向かうと鏡の前で自分と同じように眠そうな顔をした父親が歯磨きをしていた。
「・・・はよ」
「・・おぅ。 はよ」
お互い短い挨拶を終え、それぞれ小さな洗面台の前で顔を洗い歯を磨く。
「・・今日、学び舎は?」
「今日は休み。 父さんも仕事は?」
そう聞くと父親は眠そうな顔で眉間に皺を寄せる。
「さっき部下から呼び出しがあった」
「そっか」
「どうも北部草原あたりで怪しい動きをしてる連中がいると報告があったそうだからな。 ちょっと確認してくる事になった」
「ご苦労さまです」
「・・・お前も一緒に来るか?」
「嫌ですが??」
何故父親の仕事について行かなくてはならないのかと眠そうな顔で顔を横に振る。
父の仕事はここから少し離れた小さな国の駐屯警備隊の衛兵として働いている。
ただ、父の前職の関係もあり、稀にこうして国境近くまで遠出する仕事が割り振られる事があるのだ。
そして何故か父は俺をその遠出に連れて行こうとする。
「お前も明後日には15歳になるんだ。 少しは外の世界の事も見ておいた方が良いと思うんだがな~」
「俺、将来は魔法研究者に成りたいからそういうのはノーセンキュー」
「・・そうか。 そうだったな」
そういうと父はフッと笑みを浮かべながら寝ぐせのある俺の頭を乱暴に撫でた。
「ちょっとアンタ達ッ! いつまで顔洗ってるのよッ! ごはん冷めちゃうでしょうがッ!!」
「「ハイッ! すみませんッ!!」」
寝ぼけていたせいか、気が付いたらそこそこな時間が過ぎており、調理中だった母の朝食はとっくに出来上がっていた。
それぞれ用意されたテーブルの椅子に座り、朝食を用意してくれた母と食材に感謝を込めて「いただきます」と揃えて言う。
父は未だ休日に出勤させられる事に不満を言葉を履き、母がそれを笑いながら稼いでくるように念を押し、俺はいつもの如くお互いを楽しそうに会話をしている両親を見せつけられながら朝食を食べる。
これが俺のいつもの日常だ。




