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ひねくれぼっちにラブコメなんて有り得ない!?  作者: 小鳥遊咲季真
続・ひねくれぼっち06「仕事探し編」
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66 ハローもグッドバイもサンキューも

 夏休みが明けた。



 放課後に自動販売機で飲み物を、ガラナを買っていた俺は愕然とした。



 生徒会長室の掲示板にはデカデカと新聞が貼られていたのだ。

  


 「球速百三十六キロ! 大会新記録!」



 と見出しに大きく書かれ、小さく丸い写真で球を握る俺が写っていた。うちの学校が地方大会決勝に勝利し、優勝したことと、抑えのクローザーである、守護神の九郎九坂二海くんが大会新記録の百三十六キロをマークし、その剛速球で打者を三人で抑えたと書かれていた。



 全国大会はこれからだぞ。まだ、これからだ。



「あら、自分の勇姿を眺めるのは気分が良くて?」


「恋瀬川、何だこれは。嫌がらせか? そうなのか」


「あら、校内の生徒が新聞に載るような活躍をしたのよ。生徒会としては応援したいじゃない、守護神九郎九坂くん」



 ぬ、ぬおー。ば、バカにしている。俺を晒し者に、見世物にしたいのだなチクショウ。



 今度からは目立つようなことは控えよう。あと新聞の取材も気安く受けるのは控えよう、そうしよう。



 俺はこれを教訓に戒め、改めて行こうとそう誓うのであった。



「生徒会室に何かご用で?」


「いや、別に。通りかかっただけだよ」



 またな、恋瀬川。



 俺は踵を返して、炭酸ジュースをカバンに入れて本来の目的地へと向かった。






 ※ ※ ※








「失礼します」



 職員室の扉を開けると、中は忙しそうな雰囲気であった。どこかざわついていると言うか、雑踏に雑音というか。



「九郎九坂」



 大垣先生だった。俺のことを書類の束を丸めたのを手に持って、それで招くように、招いていた。俺は呼ばれるように、招かれるままに大垣先生の机の元へ向かった。



「よく来た、九郎九坂。そうだな、ここだと少し狭いな。向こうに行くか」


「はい」



 そこはいつもの喫煙所だった。職員室全体とはパーテーションで仕切られていて、そんなここには座る小さなソファも、小さな机もあった。俺はそこに座る。その向かって灰皿と言うか、喫煙スペースが机の向かいにあった。先生はそこで一本吸い始めながら、そして、そっとその紙の束を机に置いた。俺はお礼を言いながら、受け取り、目を通した。



「学校から、私から紹介してやれるのはその四件だ。選択肢が少なくて申し訳ないが、うちは九割九分進学する生徒が占める進学校だからな。現時点で就職希望を出しているのは君だけ。年が明けたらまた少し増えるかもしれないが、それでも数名だろう。最初から進学しないという生徒は、こう言ってはなんだが、珍しいんだよ。なあ、別に(さと)すわけでは無いが、本当に進学しないのか。君ならそれこそスポーツ推薦とか、そういう道もありそうだが」


「俺がですか? ないですよ、そんな。野球部に入ってる訳でもないですし」



 俺はカバンから先程買ったガラナを取り出して飲んだ。炭酸の甘みが広がる。



「俺は家庭環境を言い訳にするつもりは毛頭ないですが、しかし、家族のために働きたいという思いはあります。これ以上学費やら入学費やらで負担を掛けたくはないんです。妹もいますしね。たとえ学校に行くとしても、学費は自分で稼がないといけません。最低賃金に近い中卒の給料じゃ、それは、働きながら通うというのはなかなか現実的じゃない。奨学金という手もあるけど、借金してまで、堕落的に学校に行こうとは思いませんよ。やりたいことが別にあるわけじゃないですし」



 たとえやりたいことがあったとしても、それはやろうと思えば、学校に通わなくてもできるはずだから。



「日本の高校進学が九十七パーセントを超えているのだとしても、その後大学進学率はそのうちの半分約五十パーセントだ。そしてそこまでして行った高校は、専門学校とかでない限り、大したことしないんだ。勉強はするだろうけど、そんなの十年後にはだいたい忘れている。数Ⅱとか、古文とか記憶にはありません、って状態になる。大概の高校生は、それこそ大方青春でも謳歌して、楽しく部活でもして、友達と過ごして、そうやって終わっていくんだ。そんな事に金を使い果たすくらいなら、俺はひとりで働いた方がいい」



「なるほどな。それも、そうかもしれないな」



 先生は、吸って吐いて、そして言った。



「でも人並みの生活をすることは、実はそんなに悪くないことなのだよ九郎九坂。一生物の友達に出会えたなら、それは最高の普通じゃないか」



「そんなの、別に中学でもできる。義務教育の間に済ませておけば良い」


「一生物の友達、出来たか? 九郎九坂」



 そう聞かれると弱い。知り合いは出来たが、それが一生物かというと、多分違う。たとえば、香取とか、多々良とかは卒業したら同窓会まで会わないだろう。友達ですら無い。渡良瀬と恋瀬川は、まあ、多少連絡取ったりすることはあるかもしれないが、でも疎遠になるだろう。どれだけ親しくても、生活環境が違えば、違う場所に身を置けば、すれ違って行くものだ。ハローもグッドバイもサンキューも言わなくなる。そういうものだ。『一生物』ができても、それは『いつもの』とは違う。すべてのことは徐々に『普段』ではなくなる。日常はどんどん人間を入れ替え、取っ替え引っ替えして変わっていく。日々は変わるのだ。環境と共に。



「俺の場合、そんなモノできないですよ。作らないですから」


「そうか。まあ、先生はいつでも相談に乗るからな」


「はい、ありがとうございます」



 俺は立ち上がって深く一礼した。




 職員室を出た俺は、今日は帰ることにした。それは変わることのない日常であった。ひとりきりであること、ひとりぼっちであること、孤独であること。こんな日常いつまで続くのだろうか。いつまで続けられるのだろうか。続いていくのだろうか。



 俺はきっとこの先、どこまで行っても変わらず、変わることが出来ない、ずっとそういう残念なんだろうなと、そう思いながら上履きを下駄箱に入れ、外靴のスニーカーに履き替え、その昇降口から外へと向かって行った。

 


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