98話目 ブラコン•バトル!!(2) 右子side
時系列ではこのお話の後、『92話目 さようなら交代劇(1)』
に進むことになります。
和珠奈さんは、めちゃめちゃ怪力だった。
「うっつ!?も、もたない······」
雪搔きで鍛え上げ、かなり力が強いだろう麦本くんを以ってしても、すぐ限界がきそうだった。
そこへ、異変を聞きつけた近衛騎士達が小屋の中へ入ってきて和珠奈さんを押さえて、ようやく縄で捕縛することに成功した。
「くっ····こんな事をして、お父様が知ったら大変ですわよ!」
ギリ、ギリ、·······
和珠奈さんは縄で結ばれた両腕手首を高く翳して引き千切ろうと力を入れている。縄の繊維が少しずつ切れる音がする。
皆が気遣わしげに私を見る。
これからどうするの?という顔をしている。
「け、形勢逆転ですね!」
私は震える指を悟られないようわざと顔にピタリと当ててホホホ···と笑ってみせる。近衛騎士が4人もいるのに足りない気がするのはどうして。
このままだと捕縛の縄もいずれ千切れてしまう予感がする。
このまま和珠奈さんを離したら、彼女はまた私を捉えようとするのだろう。
だけど、もしこのまま捕縛できていても、和珠奈さんに何かあれば徳川公爵家の私兵が黙っていないかもしれない。
私はどうしたら正解を導き出せるのか、さっぱり分からなかった。
寧ろ私こそが大人しく幽閉された方がいいの?
「右子様、奏史様に連絡をします」
近衛騎士の槙田くんが言った。
私は久しぶりの槙田くんの顔をじっと見つめる。
「奏史様は、この状況をどう対処すると思いますか?」
槙田くんは躊躇いながらも答える。
「このまま彼女を捉えて牢獄行きかと。帝女になりすますばかりか、本物を攫おうとしたのですからそれ相当の罪になるでしょう」
近衛騎士の彼らは小屋の外からしっかり私達の話を聞いていたようだ。
「保くんはどうなりますか?」
「どこまで関与していたかが分かりませんが、恐らく同様の罪でしょう」
「学長は、帝女になりすまし勝手に実家に有利な所へ嫁に行くのは、国家叛逆罪って言ってたよな」
麦本くんが言うと、和珠奈さんはギッと睨んだ。
「麦本、この裏切り者······!子々孫々まで呪いましてよ!」
麦本くんは苦悩している。
「くっっ!右子様だと思っていたのに、まさか主家の姫様の和珠奈様だったなんて······」
だけど牢獄と聞いて焦ったのだろう。和珠奈さんは急に語調を緩める。
「ねえ右子様、そんな穏やかでないことにはなりませんよね?ただ、私は右子様が平民になりたいと仰ったからこうしたまでなのです」
「いや、私を幽閉するとまで言ってたよね?」
とは言え、私がそもそもの現況であるのは確かだ。
私は今回の落とし所が分からない。
和珠奈さんと保くんを牢獄へなんて、とんでもなく望まないのは確かだった。
「保くんと話をしなきゃ······」
「お兄様と?」
和珠奈さんが僅かに反応する。
私は、保くんを取られて悔しくて和珠奈さんをちょっとギャフンしたかっただけだと、ようやく自分の気持に気づいた。
それはとても簡単なことだった。
「保くんと話をしてビシッと言ってやるわ。麦本くんも不問で。和珠奈さんは卒業した後に私に右子を返してくれれば、それでいいよ」
「右子様·······」
「いやいや、そういうわけにもいきません」
槙田くんが私を嗜める。
「このままだと、帝女に害をなす火種を残すことになります。近衛の立場から申しますと、きちんと処理すべきかと」
「ああっっ!!」
と、突然、和珠奈さんが素っ頓狂に叫んだ。
「ど、どうしたの?」
「右子様·······申し訳ないですが、今の時間を聞いても?
実は私、出席日数が足りないらしく、計算によると今日の午後から、授業を全て出ないと卒業が危ぶまれるそうなんですわ!先ほど担任が保健室まで来て忠告しましたの」
「えっっ、そうなの?でも別にそれなら今すぐ辞めてもらっても······」
「ダメです!契約では卒業まで、とありますの。それが出来ないと契約違反になってしまって、宮内省から報酬が頂けませんわ」
「報酬あったんだね······」
確かに授業をサボって卒業できないとなると報酬は怪しいかもしれないけれど。徳川公爵家はお金持ちと聞いてるし·····そこ大事?
「すぐにクラスへ行きますわ!」
「いやいやいや········」
今にも縄を引き千切ろうとする和珠奈さんを皆で押さえて止めると、皆で引きずられそうになる。
ほんと何?この怪力??
「ま、待って!私が行ってくるから、A組の、午後の授業出ればいいんでしょ?」
「そうですけど·····」
「保健室で包帯巻いてもらってから行くわ!まあ私名義の卒業でもあるんだしね」
「右子様!ここはこのまま人手が足りませんので、申し訳ありませんが、学長室へ寄って奏史様と残りの近衛騎士にこちらへ来てもらえるよう伝えてもらえませんか?」
槙田くんが言う。
「分かったわ。
·······保くんもいたら呼んでくる。和珠奈さん、それまで大人しくしていてね?」
和珠奈さんは、そっぽを向いてしまった。
めちゃめちゃ不安だ。
それから、学長室へ呼びに行って、
保健室で包帯を巻いてもらって、
6年A組に滑り込みセーフして·······
私の午後はとにかく大忙しだった。
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