97話目 ブラコン•バトル!!(1) 右子side
「私は和珠奈さんへのお返事には一言、『一昨日来やがれ』と書きましたでしょう?
あれは『お断り!』って意味ですの。
意味がちゃんと伝わっているのか心配で·······」
というと、和珠奈さんは案の定びっくりしている。
前世の俗語はここでは伝わらないことが多いのに、怒りにまかせて書いてしまった。
ここは用務員小屋。
赤い屋根が可愛すぎるログハウス風の保くんお手製の小屋だ。
ここの鍵は麦本くんが持っていた。
私は和珠奈さんが午前中は授業をお休みして保健室にいるという情報を聞きつけ、麦本くんを使って和珠奈さんをこの用務員小屋まで呼び寄せる事に成功していた。
麦本くんは保くんの手下で和珠奈さんと面識かあったので、保くんの呼び出しだというのをすっかり信じた和珠奈さんは意気揚々とこの場に現れた。
奏史様は私に協力してくれている為、保くんを見つけたら学長室に誘導して用務員小屋まで近づかせないようにしてくれる手はずになっている。
「あ、あなたが、み、右子さま?だというの?」
「ハイ」
「あなたはミーシャ、では、」
和珠奈さんはミーシャを知っていた。そういえば保健室で一瞬出会したことがあった気がする。けどお互いに名乗りあったわけでもない。
私は先程の続きを話す。
「一昨日というのは過去の日。過去の日にこれから来いとはどだい無理なお話。つまり、『一昨日来やがれ』には強い否定の気持ちが含まれているのですわ」
「··········それって、どういうことですか」
和珠奈さんは肩が震えている。
も、もしかして怒っている?
それでもこれだけはしっかり言わないと。
「私は一生まであなたと入れ替わる気はありません。来月に卒業したらそれでおしまいにしましょう」
「··········イヤです」
和珠奈さんは、俯いて低い小声だった。
「私は私のままだとお義兄様と結婚できません!」
「出来るでしょう?別に。徳川公爵様に頼めば、あなたを他家の籍に移すとか、書類上は何とでも」
まあ確かにちょっと面倒かもしれないが、公爵の力があれば訳もないはずだ。
「お兄様は『右子』としか結婚しないと仰るのです!」
「!」
「今まで私は何度もお義兄様にプロポーズしてきたんですわ。でも全く靡かなかったのに、私が『右子』になった途端、結婚に対して乗り気になられたのです!」
何てこと········プロポーズって、すごい積極的、和珠奈さんっ
いやそれより、そこまで保くんは··········
「権力欲、ね。我が兄ながら、そこまで強欲な人とは思わなかったわ·······」
いつも戯けて飄々としているくせに、一大勢力の徳川公爵家の嫡男におさまって、彼は変わってしまったようだ。
実の妹を帝女から廃して、傀儡にできる帝女を手に入れようとするなんて。
ゆくゆくは徳川公爵になり帝女を娶れば、彼の掌握する権力は計り知れない。
彼は本当は帝子だけど、帝になっても地位は最高位とはいえ、実質の権力の実行力はそれぞれの公爵家に分散されている。
公爵家はなるべく自分へ権力の配分を引き寄せようと帝女と婚姻を結びたがるものだ。
その公爵家たちを公平に遇するのが帝の仕事だ。
私は帝が自分の私利私欲で何かをしようとするのを見たことが無かった。
そういうことで、保くんは帝になるよりは徳川公爵家を選んだのだろう。
「私の兄は真っ黒ね······」
「そんな風に言わないでください!私はお兄様を愛しています!」
「!!」
私は臆面もなくこういう事を何回も言っちゃう和珠奈さんはすごいと思った。
聞く度に私まで照れてしまって、私の方が顔がもう真っ赤だと思う。
「まだ、小学生ですよ?時間はまだまだあるんですからそう思い詰めなくても·········
もっと、誠実でカッコいい人を選んだ方が絶対に素敵な人生になりますよ。」
私は前世大人だった立場からアドバイスしてみる。
結婚って、相手が誠実じゃないと必ずいつかは破綻するものだと思っている。結婚生活は思う以上に長いものだから、和珠奈さんにはもっとしっかり地に足がついた人を選んで欲しい。
私はどうにか説得しようと思いソファーに座るように勧める。ずっと立ち話していたので、疲れてしまった。お茶でも入れよう。
ふと、テーブルに散らかっていた書類の内容が目に入る。
前世の日本とほぼ変わらない地形の地図だ。九州や四国、中国地方もある。
「········これは、貴女が、移住する候補のピックアップだと思います」
「え?」
「兄はここで、貴女を幽閉するのに相応しい場所を探しているようでした。『ここは温泉もあるしあいつが気に入りそうだ』とか何とかブツブツ言ってましたもの」
「ゆ、ゆ、幽閉!?」
「だって、帝女の本物が平民になったとしても、それが知られれば利用しようする者がきっと現れるでしょう?
徳川公爵家の目に届くところに幽閉する、それしかないのですわ」
私が唖然としていると、和珠奈さんは生き生きとしてきた。
「麦本!徳川公爵家の私兵を呼びなさい!」
麦本くんの存在は、忘れていたがずっとここにいた。
麦本くんに命令したのは和珠奈さんの方だった。
「いやしかし······」
「外に沢山いるはずです!!お兄様の言いぶりで右子様が校内の生徒であるのは分かっていました。こんなこともあろうと鍛えた者たちを校内に忍び込ませていたのです!!
右子様を拘束しなさい!ここまで知られては仕方ありません。このまま領地へ連れて行きます!」
勝手に知らせてきたくせに!
私は真っ青になってしまった。
まさか私を連れ去るなんて突拍子もない話になるとは思ってもみなかったのだ。
徳川公爵家の人って怖い。
「麦本くん······」
私はすがるように麦本くんを見つめる。
『病の力』ってどの程度強制力があるのだろうか。
「···········っ」
麦本くんは和珠奈さんを押し倒した。
そして両手を掴んで後ろに固定した。
「そこにロープがあるから取ってくれ!!」
私はロープを見つけて急いで麦本くんに持って行った。
果たして、
『病の力』はしっかり効いていた。
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