93話目 さようなら交代劇(2) 右子side
右子目線です。
次回は過去の軽井沢にちょっと戻ります。
ひどい言いようだ。私が何をしたというのか?
私は彼らにこれっぽっちも迷惑をかけていないのに。
「いつも冷たくしているのに··········たまに優しくするとどうなるか、もっと思い知るべきだ!」
「ううう········」
何これ。
このクラスで私がしたことと言えば、アイン王子の机に右子の机をがっとくっつけて、教科書を共有しただけだった。たまに優しくしちゃったの?
それとも、声を隠すためにゴホゴホ咳をしたのが不快だったかもしれないので、もう咳は止めておく。
正にこれがイチャモンをつけるというやつでは。
ていうか、和珠奈さんアイン王子に冷たくしてるの?
有力婚約候補だって知らないはずないよね。
帝女の立場を色々変えないでいただきたい。
そういえば日本刀で脅したとか何とか。
やり過ぎると国際問題になるわよ······
卒業まで間もないので、私も敦人も右子の替玉の和珠奈さんも、正体を明かさずこのまま卒業することになった。
私は父の気苦労が絶えない顔が思い浮かんだ。
そして、意地悪なあの保くんの顔が思い浮かんだ。
和珠奈さんを操っているのは、恐らく彼だ。
大丈夫、私はまだ保くんを忘れていない。
それなら、私が保くんの企みを潰していかなくては。
「·········冷たくしたのならお詫びしますわ。私はずっと仲良くしたかったんです。
えっと?······その、正直になれなくて·········」
包帯をしているとはいえ顔を真正面から捉えられることの無いよう、恥じらうフリをして口元を手で覆いながら、俯きがちにこう述べる。
教室の空気が止まった。
なぜ?
「仲直りです。どうぞ」
私は躊躇いがちに右手を差し出す。
「えええっ!?」
アイン王子は驚いたように真っ赤になって固まっている。
あ、左利きだった?
私は左手も差し出す。
両手を突き出せば右左のどちらかには絡まるだろうと思って。
「えええっえええっ!?」
「あの、握手です、·······けど」
分かるわよね?
「!!····そうか、抱きしめるのかと思っちゃったよ····あ、ありがとう········!」
アイン王子は恐ろしい事を言いつつ、震える手で、がっと私の両手を絡ませて、両手握手した。
握手は光栄だけれど、そのままぶんぶんと上下させるのは、手も腕も痛いので止めてほしい。
わっ!!
クラスメイトたちは大いに盛り上がって拍手していた。
これで問題解決?
軌道修正できたかしら?
「じゃっ、これで失礼しますわ。さようならっ」
私には時間がもうない。
このクラスにはもう永遠に来ることはないかもしれない。違うクラスだし、来月には卒業だし。
「········まて、君は本当に右子様か?」
敦人だ。
············そういう空気読まないところ、君、あるよね········
私を邪魔するなら、敦人でも容赦しないわよ。
私は身構えた。
そういえば、偽物の右子さんのこのクラスでの立ち位置が気になる。休憩時間に誰かがお喋りに来るわけでもなく、敦人が放課後の約束を取りつけに来ただけだった。
敦人って右子と仲が良かったっけ?
ミーシャじゃないと話してくれないとまで私は思い詰めていたけど。和珠奈さんの右子とは仲が良かったというわけね!
ふふふっ······
ま、まあいいわ。弟の交友関係にまで口出ししてはいけないわよね。あっもう弟じゃない。
今は兄の問題だ。
私はこれから、自分勝手な実兄の問題を解決しに行く。
しゃくには触るけど、この場は躱す、の一択。
「君は、どう見ても、右子だ」
そうです。
ここにいる全員が頷いた。
··········どたっどたっどたっ、ガラッッ
「失礼します!!」
勢いよく教室のドアが開いて、麦本君が来た。
なんやかんやで、彼には私の下僕をやって頂くことになった。
「結界が······破られます!」
「も、もう?」
い、急がないと!
私はクラスメイトの皆様に慇懃にお辞儀して、
その場を退出したのだった。
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