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89話目 アブない弟と罪深き私 右子side

しんしんと降る雪が積み重なっていく。

いつまで降るのだろう。

東京に帰れない。

窓の外、重なる雪はまるで私の前世の記憶を隠していくようで。

暇を持て余した私は記憶を手繰り寄せるように、

雪の風景をずっと眺めていた。



最近、前世の夢を見るようになった。


私は前世のプライベートな記憶をかなり忘れていたけれど、そういった部分を夢で見て思い出すようになってきた。


私は帝女に生まれた今世とは違い、

前世ではかなり平凡な人間だった。


唯一つだけ、人と凄く違うところがあった。


それは狙われていることだ。

生まれてこの方狙われないことが無かったといっていい。

なぜ狙われるのかは正直よく分からない。

ただ、私が成長するにつれ狙われる頻度は増えていった。


小さい頃は命を狙われていると思っていたけれど、どうやら攫うのが目的だと次第に知ることになる。


殺すより攫う方が百倍は難しいと思うけれど、相手はそれをやろうとしているのだ。


独学で目眩ましの技術を幾つか習得していた私は躱すけれど、一度捕まって話し合った方がいいのかもしれないと、ふと思うようになった。

周囲にかなり迷惑をかけている自覚はある。


刺客が私の命ごとき欲しいわけではないと知ってしまうと、恐ろしく無くなるものだ。


私が捕まってどういう扱いを受けるか確認して、納得できる範囲内であればと思う。

何なら拐われてもいいのかもしれない。

元々ここが私の居場所というわけではない。

ここに居なさいと、誰にも言われていない。


そもそも·········、私はここへ、てくてく歩いて来ただけなのだ。


あの日も、しんしんと雪が降っていた。


肉親である弟だって、姉弟なんて私が主張しているだけで、

それは残念ながら、真っ赤なウソなのだった。


何処へ行くのも自由といえば自由。

今まで刺客と話し合うことを怠っていた自分を恥じる気さえしてくる。


私は、いつしか拐かしは私の出生に関係しているのではと察していた。


一度手を抜いて捕まってみよう·······


そうやって捕まりかけたとき一番知りたかったことを聞いてみた。


「私は何者ですか?」


相手は存外にペラペラ、『失われた一族』について話したのだった。私はその末裔だと言う。秘密の一族らしいが別に内緒にしなくてはいけない話ではないらしい。

そして、その一族の復興だの何やら面倒な話を続けていた。

どう考えても、彼のイカれた妄想に私を巻き込もうとしているとしか思えないのでお帰り願いたい旨を伝えると、やはり襲ってきた。命は狙われていないのでグイッと担がれる。


そこへ敦忠が追いついて来たのが見えたので、目くらましの技術を使って相手が怯んだ隙に何とか逃れた。

敦忠は凶器を持っていて、それであれこれ相手に危害を加えていた。

敦忠は強い。

暴力の才能があるのではと実は思ってしまう。

何というか研究熱心なのだ。効率よく相手にダメージを与える方法を理論的に考えて物理的に工夫する。

それを日夜私の刺客で試している。

遂にはオリジナルの凶器を作り出したのは狂気だと思った。


やっぱり、攫うは殺すより百倍も難しいのだ。

どう考えても敦忠の方が優勢だった。


このままだと、最悪の事態が予想できる。

私は敦忠を犯罪から遠ざけるためにも自分からさっさと拐われることをやらないといけないのだろうか?


おまけに、先日は隣に住んでいる高校生の朝斗くんに敦忠がオリジナルの凶器を渡して助力を得ているのを、見てしまった。

だいぶ前から朝斗くんも巻き込んでいた。


でも結局は、拐われる勇気は湧いてこない。

ここに居ることを止められない自分がいる。


それからは事態に進展もなく、

とある大雪の日には、教会のイベントも邪魔してしまって自己嫌悪だった。


私は尊敬する牧師様の車からうっかり攫われてしまったので、リカバリーを頑張ってすぐ戻ったのに、牧師様はかなり気にされてしまったようだ。


尊敬する牧師様は、犯人が教会に紛れこんでいると思われたのか、それとも元々そういうアバンギャルドな内容だったのか、


「···········神の国は閉じられた」

「帰れクソガキども。

大雪の中、子供の女の尻を追いかけてこんなところまで来るんじゃない。さっさと帰れ」


と、説話された。

普段なら到底こういう物言いはされない。

穏やかな牧師様が!!


完全なギャップ萌え、だった。


私は本気で卒倒しそうになってしまったのだ。

私は、萌え卒倒するなんて恥をさらしませんようにと、手を合わせて神に祈りつつ、何とか持ち堪えた。目には涙が溜まっていた。


観客の後方で牧師様のファンがどよめいているのが聞こえる。本当に卒倒してしまった人もいたらしい。彼女たちは前の年に渋谷の教会で説話が始まる前から、牧師様の教会でも幾度となくお見かけする固定ファンだった。

気持ちは分かりすぎる。

彼女たちも明らかにギャップ萌え、していた。

·············本当に有り難い、尊いお話だった。


そうじゃない。


恥を忍んで言えば、

私は、私の為に牧師様がギャップを発露してくださったのかもと邪推してしまったのだ。


いつでもすぐに萌えてしまうのは、アニメやマンガの見過ぎだろうか。


なんて罪深いのだろう。

私は、やっぱりどこかに捕らわれて、

隔離されるべき存在なのかもしれない。


読んでいただきありがとうございます。


Twitterで、小説のイラストも描いていますのでよかったらご覧ください♪


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