82話目 (前世の記憶) 雪景色遭難(1) 遠野牧師side
前出の9話目 (前世の記憶) 施設のクリスマス
10話目 (前世の記憶) 残念な僕の姉さん
の続きです。合わせてお読みいただけると理解が深まると思います。
「今夜は雪が積もりそうですね」
私がそういうと、その少女は頷いた。
「教会の前の雪かきは私達に任せて下さいね!」
東京の片田舎にあるこの教会は、私、遠野と義理の息子の朝斗との二人暮らしだが、隣接する施設の子供たちのお陰で賑やかな暮らしを送らせてもらっている。
「いえいえ、うちには馬鹿力の息子がいますからね」
「朝斗さんは、明日お休みでしょう?起きてくるまで待ってたら一日中雪の中よ······」
彼女はくすくす笑っている。
私も笑う。
「そうかもね。皆にはいつもお世話になって、申し訳ないですね」
私がそう言うと、
突然·······彼女は手を合わせて私を拝んだ。
この教会は、児童養護施設に併設していて経営者が同じなのもあり何かと交流が多い。
私は雇われ牧師で5年前くらいに来たばかりだけれど、こうやって隣の子供達が遊びに来てくれるのですぐ馴染むことができた。妻の連れ子の朝斗も友達ができて楽しそうだ。
実は私は一昨年に妻を亡くしている。妻は長年病に伏して病院に入院していた。
妻を失ってばかりの頃、私が放心して何も手につかない状態でいた時にあれこれ手伝いに来てくれたのが、右月ちゃんだ。
彼女は、··········時々私をこうやって拝む。
··········何というか、仏像に対するように。合掌して。
牧師は拝むものではないですよ。
祈るなら神へ、祈りましょう。
と伝えれば、
「はっっ、尊くて、つい·········!」
口元をぬぐう。
無意識でやっていることのようなのでどうしようもないのかもしれない。
それ以外はとても素敵なお嬢さんだ。
彼女は今15歳で中学3年生だ。そういえば受験生だと言っていた気がするけれど、雪掻きなんてしている場合なのか心配になる。
次の朝、窓の外を見ると、予想通り一面雪景色だった。
ここ東京でも年に1回か2回は雪が積もることがある。
雪掻きといっても通路の数センチの雪を避けるだけだ。それでもしっかり除雪しないと教会へ訪れる信者さんが足を滑らせでもしたら大変だ。
私は竹箒を持って外へ出た。
「「おはようございま〜す!」」
元気な声が聞こえる。見ると、隣の施設の子供たちが勢揃いだ。
右月ちゃんを探すと、うちの馬鹿息子が近くで話しかけている。休みの日はいつも朝寝坊を頑として貫く息子がどうして······いや、分かっている。昨日の私達の話を聞いていたのだろう。
彼は右月ちゃんが好きなのだ。
ものすごく、ベタで分かりやすく好いている。
親の目から見てもしつこくし過ぎで嫌われていないか、心配でハラハラする。
そして冷たくあしらわれているのを見て胸がギュッとなってしまう。
頑張れ息子。
「姉さん。ここはこいつがいるからいいだろ。あっちの手つかずの所をやらないと」
右月ちゃんの弟の敦人君が話しかける。
彼らはいつも一緒の仲の良い姉弟だ。敦人君は右月ちゃんを常に見張っている。
右月ちゃんは少々うっかりしているからだろう。
「牧師さま!」
まだ敷地の入口より奥にいた私に気づいた右月ちゃんが笑顔で駆け寄って来てくれた。
「朝は教会のお仕事が忙しいから出てこられないと思いました。ここは私達に任せて下さいね?」
「大丈夫だよ。もう朝の支度は全部終わったからね」
私は竹箒を構えた。
「「箒?」」
右月ちゃんと敦人くん姉弟が不思議そうな顔をする。
私がまだ柔らかい雪をアスファルトから払っていると。なるほど、と合点が行った様子だ。
スコップでは僅かに雪が残ってしまうので、その雪に信者さんが足を滑らさないとも限らない。
まあ今日は日曜だから誰も来ないとは思うけれど、お裾分けを持ってきてくれる近所の方もいる。
チリを履くように払うと完璧に雪を避けられるので効率が良いのだ。
「牧師様、さすがです····!」
また右月ちゃんが拝んでいる気配がする。
それには気づかないフリをして、
私は、さっさっと作業を続けるのだった。
明けましておめでとうございます!
本年もよろしくお願いいたします。
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