79話目 明滅と点滅のヒロイン 敦人side
招き入れられて、部屋へ入ってきた右子を見て一同ぎょっとする。
俺(敦人)は右子の服装は喪服のようだと思った。
彼女は真っ黒なドレスで、
帽子からは黒く薄いヴェールのようなものが掛かって顔を隠していたから。
「なっっ······僕が用意したドレスはどうしたんですか?」
アイン王子も驚いていた。
黒装束だったからか。
右子の顔の包帯を想像させるものだったからか。
右子はしずしずと進行して来ると、アイン王子の前で止まった。
アイン王子は右子と向き合って立ち、
震える手で、徐ろにその黒いヴェールを捲くった。
まるで結婚式の花嫁のヴェールが黒くなったようなものだ。
そこに立っていたのは。
ミーシャだった。
彼が一番望むはずの、彼女。
「麻亜沙さん」
「おやおやおや!驚きましたな!私の記憶によると、彼女は右子様ではありませんな」
と金原宮木里生。
「その少女はアイン王子とどのようなご関係で?········いやはや君も隅におけないな」
と苦笑している李鳥宮奏史。
「えっ何何。すっごい美少女じゃん。右子より可愛いんじゃない?」
と茶化す穂波保。
「え、でもどういうこと?右子でもない女の子を勘違いして賓客として扱ってたの?それで結婚したいって?」
穂波保が饒舌にここぞとばかりに騒ぎ立てる。
見物で来ていた客たちも思わぬ展開にざわめいている。
「彼女は阿良々木ミーシャですね。帝国学校初学年6年B組の生徒です。私は面識がありますので確かです。私は学校長をやっていますので」
これ以上ないくらい落ち着いて李鳥宮奏史が発言すれば、素性も判明して尚ざわめきは大きくなる。
「それで?聖痕とまで言ってくれていたよね·········それは本当に右子に対して?それともそちらのミーシャさん?」
穂波保が畳みかけるように尋ねる。
アイン王子はあまりの事態に驚き過ぎてピクリとも動かなくなってしまった。
「麻亜沙さん、どうして·············」
「あら、私はお助けキャラですのよ?」
「それって、もしかして、」
「そう、右子様のお助けキャラなんですの」
本物のミーシャは頷いて、美しく笑った。
「アイン王子どう?」
唐突に背後から声がする。
「なッッ!?」
それは、確かに右子だった。俺の隣に来た。
彼女は満足そうに笑っている。
「彼女、帝と一緒に私の夢に現れたのよ。ようやく捕まえたって思ったけど········夢の中だしダメ元で頼んだんだけど、ちゃんと来てくれたわ!」
「頼んだって何をだよ·······」
俺は呆れて尋ねる。
「アイン王子に会ってって。
そしたら、明日なら予定は空いてますって。
サプライズになったし、最高のプレゼントになったわね?」
「最悪のタイミングだよ·······」
俺は天井を仰いだ。
アイン王子にとって。これはあいつの一世一代の独壇場だったんだぞ·······
でも好きな女が現れて嬉しくないはずは無いな?
今は真っ青になってしまっているといえ。
「まるで結婚式ね」
そう言ってこれ以上ないくらい可愛く笑った右子は、
まさに天然の、小悪魔そのものだった。
「で、敦人どうして逃げてないの?」
右子は不思議そうに俺を見る。
「どうしてって、」
俺は大好きな彼女に見つめられてたじろいだ。
どうしてって、どうしてお前を置いて俺が逃げるだなんて思えるんだと、聞きたい。
「あの、警察本部長の木里生がいるよ?もう逃げなくていいの?」
「右子こそ、これでもう本物のミーシャが知れてしまったな。これからどうするんだ?右子に戻るのか?」
「うーん、右子に戻るのはもう仕方ないけど、やっぱり阿良々木家でB組で平民は止めたくないかな」
自由だな。相変わらず発想がぶっ飛んでる。
「もう俺の処分は決まっているらしい。ここで捕まろうが一緒だと思う。俺は戻る」
「えええっ!?処分!?」
「しいっ」
思わず大きな声を上げる彼女の頭を下げさせ目立つのを避ける。
「帝子からの廃嫡だよ。
今度新設される俺の父の権野公爵家に戻ることになった」
「えっっ、···········それだけ?」
「帝が言っていたからな」
「えええ~なんだぁ。少なくともまた座敷牢ぐらいには思ってたのに。お父様って、いつも思うけど敦人に甘すぎ!娘には厳しいのに」
右子はムクれる。
確かに····帝はいつも俺に優しいが。義理の息子だったから気を使うものなのだろう。
「じゃあ、もう、私たち姉弟じゃないんだね······」
その意味を、彼女がどうとっているのかは分からない。
寂しそう?嬉しそう?
「右子········」
「キャッ!!」
急に背後から腕を掴まれて右子が悲鳴をあげる。
「アイン王子!?」
「どうして君は·········!」
アイン王子は、明らかに怒気を孕んでいた。
「敦人!邪魔立てするなよ······!」
アインは右子から視線を外すことなくそう言って更に手を強めた。
「·········ッ痛!」
右子の顔が苦痛で歪んだ。
「止めろ!!」
俺はアインを払い除けた。
右子を抱き寄せて顔を上げると、目の前に穂波保の背が見える。
アイン王子に対峙している。
「アイン王子、何のマネ?·······名も無い少女にこんな無体。フェミニストが聞いて呆れるよ」
穂波保は今までと違い口調が固い。
彼はすぐ振り向くと、強く握られて赤くなった右子の腕を取って診ている。
「名も無い少女だからといって、国際問題になりますよ」
いつの間にか、李鳥宮奏史も傍らに立っていた。
アインは冷静になり、しまったという顔をして取りなした。
「すみません。右子様がこちらにいらっしゃったので、逃げないようにと」
「右子?どこに?」
穂波が、とぼける。
「逃げないように········?我が国の帝女を、逃げたくなるような扱いをしていたと?まあ、この娘は名も無い少女ですがね」
李鳥宮はますます語気を強める。
「アイン王子、性急過ぎるのはいけませんな。また婚約の件は、後日東京で話し合いの席を設けましょう。
ところで、··········本物の右子様と面識はお有りですか?」
金原宮が話を纏めにかかる。
気づけば、右子の周りは公爵家の子息で固められていた。
「あらまあ、どうしましょう。私はアイン王子様が私にお会いしたがっていると聞きまして、今日ここに来ただけですの。場違いなのでこれで失礼しますわ」
全く本当の事しか言わないで、麻亜沙さんは退出した。
アイン王子はそれを、引き留めることは出来ず呆然と見送った。
「アイン王子、気持ちを偽るのは止めて下さいまし。私は前世からの恋心を大事にするあなたを尊敬しています。私との婚約は熟考下さいませ」
「右子様········僕は·········」
アイン王子は追いすがるような表情で右子を見つめる。
もう正体を隠すことを忘れた天然の右子は、
誰よりも堂々としている帝女だった。
この館を優先的に復旧させたのか、
それとも右子の新しく気づいたという電気の力か。
シャンデリアの明かりがついた。
時折の明滅と、煌めきに目が眩む。
歓声が上がっている。
「うわっっキレイ······だね!」
俺に振り返った。
照らし出された右子はもっともっと眩しかった。
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