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74話目 (過去の記憶) 右子の色々な何かに 保side

41話目 幽霊で神様の兄様は 右子side

の対になる話です。そちらも合わせてお読みいただければ理解が深まると思います。

その少女の頭の中は、まさに混沌だった。

さても一人の頭の中によくもこんなに人の記憶が詰まっているものだと驚く。


頭を掴んで一つ一つ確認すると、どうやら彼女自身の記憶ではないものも混ざっている。

恋人と恋愛をしたり、友達とスポーツや勉強を頑張ったり一緒に登下校したり、親と喧嘩したり仲直りしたり、同僚と働いたり歪み合ったり、ファンタジーな世界でも同様だ、

様々なちゃちな人間関係。

それはストーリーというものだった。

小説やマンガ、ゲーム、アニメというものの中の話らしい

俺はその全てを舐め回すように確認して、鑑賞した。



その少女との出会いは不思議だった。

誰からも忘れられる俺がどのぐらい一人でいたのかもう分からなくなっていたが、赤ん坊の彼女がこの途方も無くがらんとした広い帝宮に来てから、確実に時が動き出したと感じる。

赤ん坊というのは、本当に毎日少しずつ成長する。

俺は時計代わりによく眺めに行った。


その日も時計を見に行くと、やっぱり少し成長していた。

もう赤ちゃんか子供かどちらか分からないぐらいだな、と思い今日も一刻一刻の時の流れを感じる事ができ満足する。

ふと、その子と目が合う。

瞳はじっとりと湿っていて、紺色の虹彩が微妙な濃淡を作り出し、そこに落ちていく幾万もの小さな光は瞳の上でスパークリングしていて、眩しかった。


俺は彼女の頭を掴んでみた。

この子の頭の中がつぶさに見たいように思ったからだ。


そこで俺に飛び込んで来たのは、彼女の前世と思われる様々な出来事の記憶。

そして、彼女自身の出来事ではないストーリー。

それらが混ざりあった混沌の中にーーー

ちっぽけな『俺』を見つけた。


思いもしない自分の登場に、驚いた俺は、うっかりその記憶を消失してしまった。

消失ではない、喪失だ。

どこに行ったのか分からなくなってしまったのだ。

慌てて戻そうと探したけれど、膨大な記憶はがらくたのように幾重にも重なってもう、下に落ちたのか上に動いたのか分からなくなっていた。

その時にかき混ぜ過ぎたのか、

俺は彼女の前世の記憶を損傷させてしまったようだ。


俺は恐ろしくなって走り去ろうとした間際に、


「にいさま」


彼女の初めての声が聞こえた気がした。



それからは、遠くから眺めるだけに努めた。

『時計』なら遠くから眺めるだけで十分だろう?

そう思うのに、ずいぶん頻繁に眺めに行った自覚はある。

何も持ってない、与えられない俺にとって、

彼女は『娯楽』に近い存在になっていたのだろう。


ある日、父上が俺に気づいた。父上は俺の存在に気づいて今まで自分が忘れていたことを知って、本当に驚いたようだった。


父上はこれが『超常の病』だとすぐに理解して、『病の力』を上手く使いこなせるように俺に訓練の仕方を教えてくれた。

父の『超常の病』は他人の無意識に干渉するという点で俺と同じ属性だと言う。

父は『病の力』で人の夢の中に入ることができる。そこで施術を施してその人の悩みを解消したり、難しい問題を整理したりすることができるらしい。


俺は一部ぐちゃぐちゃにしてしまった右子の前世の記憶を整理してもらえないか父上にお願いした。

しかし、父上は右子の夢の中にはなかなか入れないらしい。


「まあ、娘の頭の中に入って許される父親なんていないんじゃないか?」


話を逸らされた気がするが、右子は父上にとっても、とても特別な子なんだということは理解できた。



父上に養子先の希望を聞かれたが、もちろん望みなどない。


ふと、俺は右子の頭の中の、膨大なストーリー、様々なちゃちな人間関係を思い出していた。

そして、あんな様々な人間関係を右子と経験できたらこの上ない楽しみになるのではと、思いついた。

ナイスアイデアだ。

それに、もしその配役のどれかが前世の俺に似ていれば、右子が思い出して前世の俺を見つけてくれるかもしれない。


前世のちっぽけな俺がよぎる。

喪失した記憶は俺の中でももちろん失くなっている。

俺は記憶を失う病なのだから。

俺の記憶は、あの喪失する一瞬の煌めきだけ。


俺は父上にお願いした。


「右子の色々な何かになりたい」


と。


読んでいただきありがとうございます。

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