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70話目 わたしは昇降ガール(1) 右子side

私は阿良々木(あららぎ) 明燈(あけび)様と会話を楽しんでいた。


「ええっお仕事······ですか!?ミーシャ様が?」


私は神妙に頷いた。

実は、私の学費と生活費は全て阿良々木家が負担してくれているのだ。出世払いなんて言い訳でしかない。

何とか早々に稼げるようになりたい。


「さすがにそれは、まだ学生ですしね。でもミーシャ様はおかしな事を仰られるんですね。お金持ちのお嬢様なのにお仕事なんて、ふふふっ」


お金持ちのお嬢様って、元だよね?

前世の大正時代だったら女性の仕事も華やかなのが幾つも出ている頃だと思う。


「でも、そうですねぇ、働く女性、素敵ですわよね。ミーシャ様はバスガールなんてどうでしょう。可愛い制服でお似合いですわ!」


いかにも女性に人気の華やかな職業ね。やってみたい!


「そうそう!丁度、阿良々木の実家の事業で百貨店をやっておりまして、最近エレベーターを導入しましたの。そこで昇降ガールなるものを募集しているんです。それがまた女の子たちに人気で。可愛い制服で、上へ参ります〜ってお上品に言いながらハンドルを上げ下げするだけのお仕事だそうですわ」


「まあ!」


エレベーターガールね!いいなぁ~

でも私小学生だし、採用されるかしら?


「募集は14歳からだそうですわ」


「や、やっぱり」


私はがっくりしてしまう。明燈(あけび)さんは驚いて、


「本気でお仕事をと?

あの····我が家はミーシャ様を養女扱いにしておりますので、豊かで健康に養育する義務があるんですよ。

それにお金は十分に足りてましてよ?事業も上手くいっていますし。

ミーシャ様は平民になりたいなどと仰いますが、ご自分はお金持ちのお嬢様ぐらいには思っていただかないと!」


確かに、ここに来てから家の調度品が増えたり、今はあちこちリフォームまで始まっている。いつの間にか、私の住む阿良々木家の別邸は豪邸になってしまいそうだ。


「阿良々木家は百貨店も上手くいっていますが、今は電気事業が盛り上がっていますの。東京中の家屋に電気を引こうと官民一体となって躍起になっているご時分ですので」


「なるほど、最近は工場も増えてきましたね。電灯の普及に加えて工場の電化が進み、電力需要は増える一方ですものね」


「そうなんですよ!本当にミーシャ様はお詳しいわ!」


電気事業が上手くいってるなら、最近の金回りの良さは納得だ。これはいわゆる成金ってやつかしら?


「でも、何か私でもできそうなお仕事がありましたら、ぜひお声がけ下さいませ」


私は真剣にお願いしたのだけれど、

明燈夫人はあらまあ!と目を丸くしているだけだった。





今日、私と敦人はアイン王子のお忍び査察に同行して街に来ている。

査察とはいっても、観光のようなお遊び感覚だと誘われたので私も気軽にご一緒させてもらう。

学校に通っていると忙しくて街に出る機会も少ないので本当に楽しみだ。

もちろんお付きの人々もいるので安心する。

だって、この人隣国の王子なんだよね。たまに忘れちゃうけどね。



私達の車は浅草の凌雲閣についた。

ニホン国で一番高い建造物、『十二階』で有名な名所だ。随分人気なようで行列ができている。私達は一番後ろに並んだ。


「ところで、········麻亜沙さんは今日は?」


「麻亜沙ね、ごめん、誘いたかったけど最近会ってなくて。いつもいたりいなかったりなの」


アイン王子はすごくがっかりしている。

本当に麻亜沙さんって不思議な人なんだよね。いつもどこにいるんだろう?私をお助けしてくれる理由も分からないし。

もし、私があのまま右子だったら、『ミーシャ』は彼女がやっていたんだよね。

アイン王子にゲームについて聞いてみる。


「ん?ゲームでは、お助けキャラの名前は『ミーシャ』だったよ。麻亜沙ってキャラはいなかった」


「やっぱり!だったら私のせいかも······

もしかして······キャラが被って麻亜沙さんの出番が減ってるってこと······?」


私がミーシャの役を取ってしまったせいで、本当のミーシャが出れないのかもしれない。

私は独り言をぶつぶつ言ってしまっていた。


「おい、ここはゲームが元になってるかもしれないけど、ゲームじゃないだろ。出番って、ストーリーも大分変わってるからキャラも知らないのが出てきておかしくないだろ」


敦人はもうあまりゲームは気にしていないようだ。

確かにもはやストーリーをかなり逸脱している。


「ちょっと待ってよ、そもそも何でキャラが被ってるって··········」


アイン王子は考え込んでしまった。


「そうだ····ミーシャに会った時、この子知ってるって思ったんだ。でもそれは違って······」


「そういえば、アインって前世の記憶はあったけど、初めはゲームの話はしてなかったよね?」


「·······うん、右子様に日本刀で脅されてから、一気に思い出した。

ちょっとは残っていたアインが全部砕け散ったような衝撃だったよ。それから、自分の立場とか、コーリア国とニホン国との事とか落ち着いて考えられるようになったんだ」


「そういえば、今のアイン王子は初めの頃とはちょっと違うね。キザっぽい所が無くなったというか、前世人っぽいというか····冷静沈着?」


思い出し方はかなりアレだけど、アイン王子にとって結果的には良かったのかも?しれない。


「え、そうか?

うーん、でも落ち着いたってのは分かるかな。俺も前世を思い出してから、急に頭が冴えたような、一気に賢くなった気がしたよ」


敦人は首を捻りつつも同意した。

前世を思い出すということは、普通に生きていたら不可能な視点を持つせいかもしれない。

私は生まれてからゆっくり思い出してきた感じだからそういう衝撃的な経験はないけれどね。


それから、アイン王子は黙ってしまったので、私と敦人はアイン王子の手を引っ張って凌雲閣の中へ入った。いつの間にか順番が来ていたのだ。


「ミーシャ········麻亜沙·······右子······」

アイン王子はまだぶつぶつ言っている。


凌雲閣の名称は『雲を凌ぐほど高い』ことを意味するらしい。ニホン国初の電動式エレベーターを備えている。


私達は意気揚々と乗り込んだのだった。


これがニホン国一番の

恐怖のエレベーターになるとも知らずに。


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