67話目 新しい公爵家 奏史side
私がその教室の中に入ると、放課後でまばらに残っている生徒たちの視線を浴びる。
私の顔を知っている者は知っているのだろう。
突然の次期公爵の訪問に教室内はざわめいている。
「ここが、リフォームしていただいた6年B組です」
「ミーシャさんも、ここのクラスですか」
「ハイ」
もちろん、彼女が右子様だということは分かっている。街の諜報に行方を追わせていた。というより、彼らは街中で結構目立っていたようだが本当に隠れる気があったのだろうか?
今だって、そもそもが知らない振りをすることが恥ずかしいくらい一目瞭然だ。彼女は自分の容姿が眼鏡や髪型で隠せるとでも思っているのだろうか?
包帯でも隠しきれていなかったぐらいなのに。
私は恨みがましい思いはおくびにも出さず彼女を笑顔で見つめた後、目的通り教室内を見渡した。
教室は、見れば思ったより広いようだ。隣のクラスを広げたのだろう。ということは、そのクラスは教室を移ったのだろうか。そのクラスには申し訳ないが、右子様が生活するのならこのぐらいの広さは必要なので仕方ないだろう。
「机も椅子も新しくしたようですね」
「あの·····ありがとうございます」
「いいえ?生徒たちの環境を整えるのは学校側の責務ですから」
右子様は愛想笑いを作ったかと思うと、か細い小さな声を上げた。
「あっ」
恐らくはそこは彼女の席なのだろう。そこに座っている男子生徒がいる。
右子様は何か必死ににその男子生徒へ身振り手振りしているが、ああ、そうか。
「君、Aクラスの生徒ではありませんか?」
「···············」
その男子生徒は、私に気づくとうつ伏せになって顔を上げない。
寝たフリか?
「·······世間話をしましょう。
君はコーリア国人だそうですね。コーリア国の方はもれなく権野宮家の祝賀会へ招待されているでしょう。
王弟殿下は今春に権野公爵の爵位を賜る事が決まったので、その御祝いです」
それを聞いて、その男子生徒は勢いよく顔を振り上げて私と目を合わせた。
王弟殿下の嫡男にして、現帝の養子に入った敦人殿下。
彼はこの国で一番帝太子に近い身分で有りながらその素行の悪さから、今だに立太子されていない。
帝居の庭園での爆発騒ぎから座敷牢へ幽閉され、その後帝女を攫い逃亡中だ。めちゃくちゃだ。
おまけに今は隣国のコーリア国の第2王子の協力を得てコーリア国勢力と共謀して、街や学校と範囲を拡げつつ潜伏しているのだ。
義理の姉弟といえ、右子様はどうしてこの少年の言いなりになってしまうのか、私は不思議だった。
二人は元々従姉弟の間柄だが、これまでの交流は皆無だったと報告では聞いている。
何か弱味を握られているのかもしれない、もっと調べる必要がある。
現法では、帝族を裁ける法律がないので、今は敦人殿下も放って置かれているが、ゆくゆくは何とかしないといけないと私は思う。
金原公爵家の長男は警察隊で殿下をかなり追い詰めたと聞くが、法律の壁で決定的な手段を使えず、手をこまねいている。このままだと兵を動員したにも関わらず実績が全く上げられないので、降格の噂も囁かれる。
次期帝太子を憶測で貶めたと主張する勢力もあるぐらいだ。
功績を上げる方法は一つしかない。
敦人殿下に説明して自ら投降していただく。
それ一択だ。
臣下だからと馬鹿にされたものだと金原宮には敵対関係ながら同情を禁じえない。
そうだ、帝族に関して私ができることは少ない。私も右子様には『逃げないで』と請い願うことしか出来ないのだ。
あらゆる臣下が彼女にお願いしても、今の時点で彼女が首を縦に振る様子は見られない。
国は帝の為に存在し、帝族の為に存在する。という図式を変えないといけないのだ。
帝族を裁けるのは帝のみだ。
しかし、あの御方は身内にとことん甘い。
王弟への娘や息子の責任を問う処分が、宮家から公爵への格下げだけなのだから。
おまけに敦人殿下は帝子に据え置かれたままだ。
「·······へえ、そうなんだ」
敦人殿下はすぐ顔の表情を戻した。元々親子仲は良くないと聞くが、今更、帝族から公爵家に落とされることぐらい何でもないと思っている様子だ。
「もう授業は終わりでしょう。気をつけてお帰り下さい」
「ああ、ミーシャ帰ろう」
「ミーシャさんは外からの通いでしたね。私も帰るところなので、私の車でお送りしましょう」
「は?」
「はいい!?」
目の前の二人だけでなく、教室中がざわめいている。
帰宅ついでに生徒を送るのがそんなにおかしい事だろうか?
学校長というのはかなり制約がある役職なのかもしれない。
そこへ副学校長と金原宮根津生がとびこんできた。
「李鳥宮様!探しましたぞ!ささ、学長室はこちらに·········!」
何も事情をしらない副学長は、私がお遊びで構内を彷徨っていると思っているようだ。
俺は金原宮根津生を見た。
彼は瞬時に青くなった。
「金原宮君、お久しぶりですね。
········いいでしょう。私も君には用事があったので。
ミーシャさん、私はこれで失礼しますね」
「は、はい」
公爵家の面々がこの学校に揃い踏みする前に、
一つ一つ潰していくのは骨が折れることだ。
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