65話目 屋上の困り事 右子side
昼食を結局食べそこねて、麻亜沙と教室へ戻ると、ぐちゃぐちゃだった机はすっかり新品に入れ替わっていた。
クラスメイトが囁いている内容によると、あれから机数台爆破されたが、全てが新品に取り替えられたという。
原因は敦人の腹いせだけど、敦人が言い訳した通りに漏電ということになっていた。明らかにおかしいけれど、みんな漏電が何か知らないので丸く収まっていた。
そこで、教室へ入ってきた金原宮先生が、この学校へある貴族から巨額の支援があったことを告げた。
私達生徒には直接は関係無いと思ったけれど、
聞けば今回のB組のリフォームはその支援金の主な使い道とのことで驚く。
どうやら、B組は優秀な学生が集められたクラスらしい。A組は高位貴族が集められ、それ以降のクラスは学力の順位で上からBCDと順番にクラスを割り振られているとのことだ。
つまり、まず優秀なクラスからとB組のグレードアップが優先され、その次はC組のグレードアップが検討されている。
実力主義な校風だったのだ。
とはいっても、初等校の生徒たちはもれなく中等校へ上がることになっているので、そう差し迫った危機感は生徒たちから感じられない。
「うーん、困ったわ·····」
「どうしたんですか?」
麻亜沙が私の困り事を嗅ぎつけて聞いてくれる。
「人気が無いところに麦本くんを呼び出したいんだけど、どこがいいかしら?」
「人気が無いところ ······」
穏やかでない発案を気にもせず
麻亜沙はちょっと考えて、古ぼけた鍵を渡してくれた。
「こんな所へ俺を連れてきてどういうつもりだ?」
「えっと、まずは仲直りをしたくって」
ここは、校舎の屋上だ。
麻亜沙はさすがにお助けキャラで、最適な秘密の場所を用意してくれた。
この世界は校舎がかなり前世風だ。
だけど、この世界が前世のゲームが元になっていると知れば納得だ。
時代考証が甘かった、それに尽きる。
こんなことはこの世界で日常茶飯事だから、今更あれこれ言うつもりはない。
「仲直り?必要ない。お前は俺の下僕だろう?」
まだ下僕設定続けるのね。
実は私は逆転下僕を狙っていた。
私の『病の力』で麦本くんを下僕にできないかと。
肌に直に触れて命令するだけなんだけれど、
二人の距離は遠く、なかなか自然に近寄ることができなくて、意外に難しい。
「お前、あの方とどういう関係なんだ」
「あの方って、用務員の人ですか?」
保くんのことよね?
「しっ·····滅多なこと言うなよ。あれは世を忍ぶ仮の姿なんだ」
「ぷっっ!·······すみません。あまりに大げさなので」
失礼ながら笑ってしまう。
保くんって確かに忍びのイメージよね。
麦本くんは怒って真っ赤になってしまった。
「お前!あの方のご身分を知らないんだな!?」
保くんは色々身分を変えるので、知らない時もあるけど、今は知ってるし忘れてないわよ。
「徳川公爵家のご嫡男でしょ?」
「そうだ!そんな方のお側にお前のような身分の低い奴がいて言い訳がない!ましてや、二人っきりで話すなど······!」
「ああ、そうね、でもあっちからちょっかいかけてくるのよ?」
私は肩を竦めてちょっと戯けてみせた。
「お前········その歳で、なんて悪女だ!
あの方はもう心に決めたお方がおられるというのに、お前のような悪女に邪魔されたくない!」
「はい?心に決めた、お•か•た·······」
私は寝耳に水、目をパチクリさせる。
「お相手は、·········第一帝女、右子殿下だ!」
え•え•え•え〜!!!
「徳川公爵家と帝家との間で以前より婚約の話が出ているのは有名な話だぞ!?」
私は俯いてしまった。急速に血の気が引く。
だ、だって彼らは兄妹じゃん········?
あれ、でも保くん養子なんだっけ。なら保くんと義妹ちゃんは血が繋がっていないから········結婚できる?
でも、右子として?
私、万が一右子に戻ったらまずくない!?
それに、保くんこのまま公爵家継いじゃうの!?
じゃあ、帝にはならないの?
敦人も、あれは、帝になりそうにないよ!?
後継ぎ全滅?
どうなんのぉ!?この国!!
私が動揺してずっと俯いてるのを、麦本くんはどう思ったのか、急に優しい声色になる。
「お前、平民だから噂も何も聞いたことが無かったんだな········」
麦本くんは、つっと近づいてくる。
「そんなに落ち込むな。逸脱しなければ、他にも良縁はある。公爵家は到底無理だが、子爵家ぐらいなら········」
えっ近!?チャンス!!!
私はここぞとばかりに、麦本君の両手を握る!
麦本くんは急に手を握られて目を丸くしているけれど、このまま押し通すしかない。
平穏な学校生活のために。
決して人を顎で使って楽をしたいわけじゃないわよ。
「あのっ、私の下僕に·······」
なりなさい!
のところで、麦本くんは目の前からいなくなった。
「あれ?」
私は唖然とする。
私の目の前には、
美し過ぎる公爵令息様が立っていた。
「力をこんな事に使ってはダメでしょう」
お久しぶりの奏史様は、そう仰った。
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