57話目 ここはゲームの世界 アインside
この世界は、あの糞のようなゲームの世界だ。
驚いたことに、敦人に打ち明けたら、彼も頷いた。
「ああ、アイン。お前もそう思うんだな」
敦人も前世でそのゲームを知っていたのだ。
日本の、海を挟んだ隣国のK国ではおかしなゲームが流行っていた。
『日本滅亡〜亡国の帝女と王国の聖王子〜』
穏やかでないタイトルは目を引く。大仰だけど要は日本が滅亡するストーリーだ。
このゲームでは、架空の国ニホン国を滅ぼす為にコーリア国の王子が戦って、最後は天災も起こったりして完膚無きまでに日本を亡ぼすのがトゥルーエンドだ。
天災が起きずニホン国が戦争で滅ぶだけのエンドもある。
バッドエンドでは日本は滅びず、王子は失意のまま日本で命を失う。それを回避する為には、ニホン国で仲間を作ったり、ヒロインを助けたり、様々な機関に入り込んで諜報活動をし母国に情報を流したりと、様々なイベントをこなしてより良いエンドを目指さなくてはならない。
言っておくが、信じられないことにこの場合の良いエンドとは日本が滅亡することなのだ。
そして、そのコーリア国の王子というのが、アイン王子と言う名だったりする。まんま僕だ。
この世界がゲームの中の世界だと疑ったきっかけだった。
あのゲームは、テーマもさることながら、そもそもバグが多く、グラフィックはまあまあだが、ストーリーの設定は浅く、時代考証も甘かった。
架空とはいえ明らかに日本の大正時代を舞台にしているのに時代違いや現代のものが出てきたり矛盾が多かった。
プレイヤーをとにかく不快にさせるという認定を受けて、このゲームは『クソゲー』と称される事になった。
それでも俺がこのゲームをやり続けたのは、そもそもは好奇心からだけど、ゲームの中のヒロインがとても可愛かったからだ。
このゲームはグラフィックだけは悪くないのだ。
その娘はお助けキャラのように頻繁に出てくるが、普通は攻略対象じゃなく、ある条件を満たさないと攻略可能にならないのだ。
それは、帝女か王弟の二人娘の宮女を攻略すること。
この三人の誰かを攻略すればお助けキャラの役割を終え、第4のヒロインとなり攻略の糸口がでてくるのだ。
ヒロインを攻略してもう一人新しいヒロインが出てくるのはおかしい気がするが、完全に男性向けゲームだからこその自己中な設定だ。彼女は何人いてもウェルカムな設定なのだ。
でも俺は第4のヒロインルートしか望んでいない。男にも色々いるのだから制作側も考慮してほしいものだ。
既に登紅子様はコーリア国に渡っているので、後は留美子殿下と、右子···殿下だ。
ストーリーが始まるのは中等校からなのでまだ少し先だ。
現在のニホン国とコーリア国はそう悪い関係ではないと思うけど、ここはゲームの中の世界だとすれば、戦争は起る可能性は高い。
宮女や帝女と結婚して和睦を深めるのは現実にも良い話だと思うん·····だけどなぁ、どうしたもんか。
本当に起こるの?戦争が?
僕は平和そのもの、学校で授業を受けている。
俺の隣の席には悪役王女がいる。
彼女はアイン王子の婚約者という体で登場するけど、その実は悪役だ。ゲーム作中でも様々な嫌がらせを仕掛けてくる。アイン王子が他のヒロインを攻略すると、そのヒロインも虐め抜く。
それがきっかけで、同国の王女に嫌われ恐れ慄くヒロインを励ましこの国を滅ぼしてコーリア国へ一緒に帰国するハッピーエンドの道筋をつけることになるので、悪役王女は重要な役どころだ。
初日の騒動には度肝を抜かされたけど、
コーリア国から連れて来た侍従と相談して穏便に済ますことに決めた。
同じクラスの生徒達も皆高位貴族の子女なので、圧力をかけて口を閉じさせたようで、まだ噂にもなっていない。
こちらとしては問題にしたいのが本音だけれど、彼女自身が暴言を訂正し、謝罪もしたので仕方が無かった。
しかし、二度目があればこちらも許すことは出来ないとは思う。
どうやら一年前に起きたプリンセス事件が要因らしく、僕も事件に関係しているらしい。記憶がないのでどうしようもない。
俺は何をやらかしたというのか。
その辺りも慎重に調べてすすめなくてはいけない。
彼女も周りの近衛騎士も、今だに頻繁に俺を睨みつけている。さすがに初日のようなあたり構わず大物家具を投げつけるのはないけど、正直生きた心地がしない。
授業中であろうと休憩中であろうと昼放課であろうと、下校時間になっても執拗に見てくる。
見張られている気分だ。
彼女の包帯から覗く煌めく両目が鋭く、僕の精神を射貫く。
常に彼女を意識する時間を過ごしていたから気づいたけど、右子様は僕を睨む以外はけっこう大人しく授業を受けている。と思えば教室に不在なことも多い。
他のクラスメイトに聞けば保健室へ行っているらしい。
保健室には専属の医師が待機しているというから、さすが帝族だ。
包帯を頻繁に取り替えているのだろうか。
あれだけ苛烈を極めていても、身体の病気には勝てないと言うことだろう。
彼女がいなくなって視線の筵から開放されて身体がふっと軽くなる。
敦人は放課となれば頻繁に隣のBクラスに行ってしまうから寂しい。
お昼は僕も誘ってくれるけど、基本的にはミーシャと過ごすことが大前提で僕はオマケだ。
この国の帝族は凄く自分勝手だから、
仕方ないのかもしれない。
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