41話目 (過去の記憶) 幽霊で神様の兄様は 右子side
あわわ·····ホラーです。
「にいさま···········?」
視線を感じるから振り向いたんだけれど。
誰もいない。
こんな日々がずっと続いていた。
視線だけで、なぜ兄様だと分かるのか?
それは私にも不思議だ。
前世の記憶を持って大人びている私だけれどまだ1歳。
小さな私は兄様の顔を知らない。
偶然に姿を見つけ声をかけても、彼は決してこちらを振り向かないから·········
だけど、私が諦めて背を向けた時こそ
視線が強く突き刺さる、
兄様の存在を一番感じる瞬間なのだ。
それから私が邸を一人で歩き始めた2歳頃、兄の話は私から尋ねないと誰も口にしなくなっていた。
兄っぽい存在の男の子は、私と5歳は離れているらしい。
兄様の私への視線は続いている。
兄様は居るような居ないような不思議な存在だ。
·······もしかしたら本当は兄様はもう亡くなっていて、そのことをみんな隠しているのでは?
邸には兄様の影も形もない。私は訝しんだ。
兄様は幽霊なのでは?
それとも、天国に行って神様になり今も皆んなを見つめていてくれるのかもしれない。
そう思うと視線のことも気にならない。
私は安心して心穏やかな気持ちになった。
そうしている内に私は3歳になり、今まで兄様の為に用意された服も靴も部屋も、もとから私の為に用意されたものだと皆が勘違いするようになっていた。
私は兄様のお下がりを着続けて兄様の部屋で暮らした。
兄様の専属家庭教師も、
「右子殿下は女性でしたか?いつも男の子の格好で堂々となさっておいでなので失念していました。
まだお小さいのにお勉強にとご自分で家庭教師をお呼びになるとは恐れ入りました。誠に殊勝なお心がけでございます」
と言う始末だ。
違う。そんな3歳児がいたら怖すぎるでしょ!
今思えば、自分で家庭教師を手配したのは兄様だったのかもしれない。兄様はその時8歳ぐらいだろうから帝国学校へ通ってもいい年齢だった。
これが、まだ3歳という異例の速さで私の帝王教育が始まってしまった所以なのだ。
そして前世で培った学力基礎があり、大人びた性格も相まって神童だの天才だの持て囃されることになった。
全て横から掠め取ってしまう私という異母妹の存在を、兄様はどう思っていたのだろう?
憎くなかったはずはないと思う。
だけど私だって、
誰かの替りにされているような不快感がある。
前世のファッションでもボーイッシュな格好は別に嫌いじゃないけれど、何かすっきりしない。
というか、皆が右子が妹殿下だということを忘れている?
右子殿下は長子で男の子ではないか、
とは、誰へのイメージ?
誰もが帝子が産まれた栄光の一瞬を手放そうとしないのは滑稽だ。
実は忘れられたのは後から生まれた私の方だったのだ。
男の子の服を着せられるということはそういうことだ。
顔の湿疹も相まって少女らしさの欠片もない私は、
兄様の替わりにもなれない、
とっても惨めな帝女だった。
それから、もはや完全に兄の事は忘れ去られていた頃。
私にはようやく少女用の衣服を宛てがわれるようになっていた。
ある日、お父様がわざわざ私の部屋まで青い顔で訪ねて来た。隣に黒い髪の綺麗な男の子がいる。
「忘れていたのだ··········」
意味が分からない。
「お父様?」
父は深淵の漆黒の瞳を尚更暗くして私に言った。
「この子は、今日から右子の友達だ。
···········右子の乳母の息子でね。仲良くしてやってくれ。十川伯爵家の次男だ。
名は····佐人、十川 佐人 君だ」
私に乳母がいたとは不思議だ。
「よろしくお願いします。右子様。私の事は佐人とお呼び下さい」
「よ、よろしくお願いします。·······佐人様?」
「佐人、とお呼び捨て下さい」
歳の頃は私より5つぐらいは上だろうか?
その子は大人びている口調でさらりと言う。
笑顔だけれど、左右対称にまで整った笑顔はやはり子供らしくないと思う。
私は訝しげに見た。
「·········ようやく貴女の瞳の中に入りましたね」
彼はうっとりと目を細めて更に笑顔を強めた。
躊躇した私は、
私の父に似た彼の深淵の瞳に吸い込まれないよう、
必死で見つめ返すしかなかった。
そして一年後、
私は彼のこともきれいサッパリ忘れてしまった。
そして、
また父が私の元へ男の子を紹介しに来た。
「新しい小間使いの男の子だが
右子の友人としてはどうか」
と。
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