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3話目 お見合いは突然に 右子side

「殿下には大変ご機嫌麗しゅう存じます。ご紹介に預かりました、李鳥宮奏史(りとりみやそうし)です。」


ここは李鳥公爵家の庭園。

爽やかな笑顔が眩しい16歳の彼は、長身ですらっとしており所作が美しく大変に洗練されている。

蝶タイに黒の礼装がとても精悍で良く似合っている。この国の貴族の基本スタイルは洋装だ。

彼は少し色の抜けた金髪色の頭髪に榛色の瞳をしている。彫りが深い顔立ちは、かつていた外国の王族からお嫁に来たというお姫様の血筋だろうか、異国風の顔立ちが多いのがこの公爵家の特徴の一つだ。


「ご機嫌麗しゅうございます。右子(みぎこ)です。」

帝家(帝の家族)は名字がないので、私の名はシンプル過ぎる。


この上なきイケメンとの久々の再会だというのに

私はというと、こんな時に包帯ぐるぐる巻の顔面だ。

赤子の時から悩まされていた持病の湿疹が顔中に出てしまったのだ。5歳以降は症状は落ちついていたはずなのに、12歳の今になって頻繁に再発するようになってしまった。治ってはぶり返すの繰り返しだ。

軟膏を塗って包帯で顔を巻き、紺色の瞳だけはかろうじて顕になっている。


(はぁ、私だってまあまあ美少女だったのになぁ)


今の包帯顔面少女との落差は大きい。

私の衣装は、いつもの通り派手な振り袖に豪華な帯がこれまたぐるぐる巻に身体に巻きつけられている。 帝女の基本スタイルは豪華な振り袖なのである。

よく考えたら、これは昆布巻きを彷彿とさせる。


李鳥公爵家は帝家と大変親交が深く、何度となく帝后を輩出したり帝女が降嫁されるという映えある歴史を誇っている。おまけに外国の王家とも血の繋がりを持つので血統はこの国でも類をみないほど高貴である。


帝都近くの豊かな土地を所領に持ち、資産も潤沢でその権力は計り知れない。


つまり帝家と李鳥公爵家は親戚である。子供たちの紹介を終え、両陛下とも公爵夫妻と睦まじく歓談していた。


(あれれ? ······これって······もしかして、お見合い??)


ピンときてしまった。


幼少期から奏史様に会うのはこれまで何回かあったのに、急に初対面のような自己紹介なんて違和感しかない。


(·····今更?)


公爵夫妻の隣に座る奏史様と真正面で目が合うと、彼は柔らかく目尻を下げた。

今までは子供同士に好き勝手に話したり遊んだりの親交だったので、当然きちんと紹介し合った覚えはない。


この雰囲気は何時ものお茶会とは違うので、やはり俗に言うお見合いだと、確信する。


それにしても、この場に来るまでに親から一言あってもいいのではと思う私はおかしいだろうか?


こんなに美しい人が相手なのは、いっそ不幸だ。

包帯顔面の婚約者が来て嬉しい男はいないだろう。それに12歳の私なんてお子様過ぎると思う。16歳の彼と釣り合うはずがない。

とっても気まずい。

お父様もこんな大事な局面は娘の顔の病状が回復するまで待って欲しかった。


しかしお父様は満面の笑みをこちらへ向けている。

まさかまさか、自分の娘を気に入らない奴がいるはずがないとでも思っているのだろうか?

あなたの娘、包帯人間、リアルハロウィン状態ですよ。


帝に相応しい態度の堂々たるや、さすがというよりも、娘は遺憾の意を表明したい。


奏史はずっとにこやかに話しかけてくれている。

さすがは公爵家嫡男。当たり障りのない会話で、息をするように社交的だ。


親同士が仲が良い為、小さい頃から遊ぶ機会があり、楽しく遊んでもらった記憶がある。

まあ彼なら、包帯になったり治ったりの忙しい摩訶不思議な私の顔面に慣れているので、どうとも思わないのかもしれない。

例えそれが、婚約者として正面に立たされた今日でも、一切変わらないのには心から感心してしまう。


実は、彼こそが仮面をつけて本心を隠しているのかもしれない。

と、密かに思った。


ふと、まだ12歳だし、実際に結婚するのは16歳以降だと聞いているし······まあ最短でも4年後だ。

そんなに深く考えることもないかと、私は冷静さを取り戻す。


この国には他にも二つ公爵家があるし、外国の王族との婚姻の可能性もある。

この国の貴族の婚約は早いけれど、帝族の子女は国として最適の相手をじっくり選ぶので遅くなる傾向がある。

一度嫁いでも離婚させられて他へ政略結婚で送り出されることもままある。

この後の政局のバランスもあるので、これからどう転ぶかは分からない。


とりあえず、『子供なので婚約とかよく分からない』雰囲気を出してやりすごそう。



テーブルにお茶とお茶菓子を囲んだ一同は、私の包帯顔面には一切触れず、始終和やかムードだ。

これはこれで虚しいと思うのはなぜだろう?

『まあ美少女』という、私の唯一の虚栄心のようなものは私の取り巻く環境では大して価値を持たないようだ。


帝女の降嫁は、相手の家にとって大変な名誉になる。

顔がどうのこうのよりも『帝女』という健康な人間が嫁げば、それで充分要件を満たすのだろう。

その上子供が生まれ高貴な血が混ざれば、それに勝る栄誉はない。


今、この国に帝直系の帝女は私しか存在しない。国内安定か対外政策、この先の重要な局面に使われるコマにされるだろう。

家の繁栄の為に政略結婚をする貴族令嬢とは一見似ているが、少し違う。

美や富よりも何よりも、国の安定だ。

一方的に与えられる証明の存在。

賞状かトロフィーとかの何かだ。


つまり、貴族の令嬢も私のライバルではない。

はずだった。


ふと、先日のおかしな義弟を思い出した。


「お前と俺はライバルだろうが!」


······彼は私と何を競うつもりなのだろう?

それは、もしかしなくても帝の位だったりするのだろうか。

いやいやいや?


私、女だし?



うん、狙っていないよ?


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