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31話目 (一年前) 火事場の力(上) 右子side

幸せな夢から覚めると、

騒々しい気配がする。


「火事だー!火が回ってくるぞー!」


私は飛び起きた。

騒がしい方角の空を見ると橙色の空から煙が轟々と上がっている。


この場所から権野宮邸までは直ぐそこだ。


「そんな··········まさか、」


近くで声がする。

美しい男の子も目が開いていた。顔が真っ青だ。


「君、大丈夫?」


彼を見ていると、さっき見ていた夢が思い出される。

前世の夢だった。

彼はどことなく前世の弟に似ている。


いや、それより火事だ。


「僕、行かなきゃ·········」


「ちょっと!足がふらついてるわ!」


「離せっ····家族が、姉さんが、あそこにいるんだ!」


「熱があるんだよ!?そんな体で行ったら君まで巻き込まれちゃう!」


「熱?こんなもの、いつものことだ!」


少年は走り出した。でも高熱の為、すぐに息が上がって今にも足を躓かせて転びそうだ。


「私に乗って!」


「は?何言って·····」


私は意を決して、彼に追いつくと自分の背に彼の身体を背負おうとした。


近衛騎士の槙田くんが慌てて駆け寄ってくる。


「み、右子様!?止めてください!私が彼を背負いますから!」


それならと、私はありがたく彼の背に少年を任せ、一緒に権野宮邸へと急いだ。

護衛の兵は思ったより多く周りにいたようで、それぞれにばらばら現れては火事の現場へ駆けつけて行く。

それでも私の周りには槙田くんを含めて6人が護衛に残ったのには驚いた。元々何人いたんだろう?


「ッッ熱い!」


「槙田くん!?」


火の粉が飛んできたのかと駆け寄る。


「だ、大丈夫?どうしたの?」


少年を背負ってくれた槙田くんはとても苦しそうに顔を歪めている。


「い、いえ、すごく熱いんです。燃えるようにっ····飛び火したのかもしれません!」


「大変!!彼を降ろして!」


「は、はい!」


少年と槙田くんの間から薄っすら湯気と煙が立っていて、焦る。

しかし、引火はしていないようだ。

槙田くんの背中は火傷のように赤く腫れている。

なのに、少年の方は何ともなっていない。槙田くんは彼とぴったり接していた部分が腫れているのに。

すごく奇妙だ。


「アッ!?」


私が少年に触れると、彼自身がもの凄く熱かった。


「っ!?」


少年は私たちから飛び退いて、後退りした。


「ご、ごめんなさい。その、火傷。僕············」


少年の顔は辛そうに歪んだ。そしてそのまま走り去ろうとしたのだろうが、足が縺れて転んでしまった。地面へ伏して唸っている。


「ううううううっ」


「大丈夫!?あそこに家族がいるんでしょう?一緒に行くわよ!早く行きましょう、私が背負うか····」


私がそう言いかけた間もなく、私を押し退けて槙田くんが再び少年を背負う。

槙田くんは真っ青だ。すぐまた、肉が焦げるような嫌な匂いがした······


「止めて!槙田くん!止めて!!」


私は泣いて槙田くんに追い縋る。どうして、どうして火傷になんてなるの。そんなに高温になる理由がどうしても分からない。

私はとにかくどうにか少年を降ろしてもらおうと槙田くんの腕を直にしっかり掴んだ。


「この子を離して!私の言うことを聞きなさい!」


槙田くんはぎょっとして動きを止めた。


『病の力』の強制力からは逃れられない。

脂汗を滲ませながら顔色が蒼から白に変わった彼の苦しげに歪んだ表情は、突然の命令が意に染まないからか、火傷の痛みからかは分からない。


私の命令はしっかり効いた。

槙田くんは速やかに少年を降ろした。


「いい?······私の邪魔をしないでね。」


念を押す。

私はなんとか自分と同じ身長くらいの少年を背に乗せることに成功し、汗をかきかき歩き出した。


だけど、汗、それだけだった。

少年は明らかに人体ではあり得無いような高温でも、さすがに火傷するほどではなかった。


急に体温が下がったのかもしれない。

それともさっきのはやっぱり飛び火だったのか。

それはともかく、今はそれ以上考える余裕がない。


現場はもう少しだ。

汗がだらだら流れて目に入って沁みるし、煙で視界も悪い。今日は包帯が取れてて本当によかったと思った。


槙田くんはずっと私を睨んでいる。

うう。怖い。

『病の力』の命令には、誰であっても逆らえない。

私が相手の肌を触れて命令すれば、

いつも自分で驚くくらい効いてしまうのだ。




汗みどろになりながら、ようやく火事場についた。


ゴオオオ·······ドォンドン······


権野宮邸は火に包まれていた。

時折、柱が落ちるのか物凄い轟音が響く。

特に2階の西側が酷く燃えているのでそこに火元があるのかもしれない。


私が恐怖で足ががくがく震えたのは、筋力の限界が近かったからもあると思う。

私は崩れるように少年を地へ下ろした。


「近衛隊の人達!とにかく人命救助を最優先に!!

邸内の方々の避難を手伝ってください!私のことは構わなくて大丈夫ですから!」


最後まで私の周りに張りついていた5名の護衛に指示をだす。

皆、槙田くんを私の護衛に残して、目配で頷き合い、それぞれに散った。彼らは私が雇っている兵士ではないのに言う事を聞いてくれてホッとした。

『病の力』はなるべく使いたくない。

槙田くんはさすがに鍛えた屈強の騎士。背中に火傷を負っているはずなのにしゃんと姿勢良く立っている。

負傷者なので休んで欲しい。


「姉さん、········登紅子姉さん······」


少年は譫言のように呟いている。半分意識が飛んでいるのでは。


「僕じゃない·····これは、僕がやったんじゃない」


ずっと呟いている。


周囲を見渡すと、避難し終えた人々が茫然と燃え続ける邸を見上げている。

邸のベランダには救助袋が設置されており、その中を滑り台のように滑り落ちることができる。

前世の小学校の避難訓練で見たものとほぼ同じだ。この世界にもあるのに驚いた。

そのため2階からも素早くスムーズに避難できているようだ。まだ滑り降りて来る人もいて、救助袋の滑り台下で両側に待ち構えた二人がきちんと補助している。

全体的に皆取り乱した様子はなく、粛々と行動しているように見える。


まるでこういった事態に慣れているかのようだ。


「この調子ならあなたのお姉様もご無事でしょう。まず君のお姉様を探しましょう。お姉様がいつもいる場所を教えて?」



本当に今更だけれど、

彼は、私の従兄弟の敦人殿下だと思う。

着ている服がかなり上等な物だし、さっき姉の名を登紅子と呼んでいた。

病気がちでずっと権野宮邸に籠もっていると聞いていたのに、大変な事態になってしまった。


彼は問いに応えて震える指を邸に向けて指差した。

この邸に住める子供は帝弟殿下の子供しかいないだろう。

そこは邸の西側、

登紅子様の自室と言われる場所は、


まさに火の元が疑われる烈火の中心だった。


読んでくださりありがとうございます!


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