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1話目 爆竹と新しい弟 右子side

「お前が姉なんて認めない!!」


帝居の山洞御所東の庭園は、秋の華やかさが散ったばかり。それでもこれから来る冬の庭園が見劣りしないように丹念に整えられている。広大な庭園には、落葉して閑散とした庭園の隙間を埋めるように常緑樹が配置され、計算された美しさを讃えている。


目の前には、美しい少年が立っていた。 切れ長の紺の瞳は輝き、すうっと通った鼻筋。 それらは白い小さな顔に、幼いながらそれぞれ完璧な位置で配されている。


私より少し身長は低いが、同い歳の12歳の少年は、顔を真っ赤に染めて私を親の敵のように睨みつけている。



「お前は、なんだってそう鉄仮面のようなのだ!?敵意を目の当たりにしたのに飄々として!俺たちはライバル関係だ!俺を嘲笑っているのか!」

「えっ」


いや、嘲笑ってないけれど。

私の顔から表情が読めないのは当然だ。

最近、持病の湿疹が顔中に再発して赤く腫れている。顔に薬を塗って、頭を包帯でぐるぐる巻きにしているのだから。


リアル・ハロウィン包帯女だ。


「最近顔の皮膚の病気が再発しまして·····」

いくら不気味だからって、彼のそれは病人に対する態度とは到底言えない。

デリカシーをどこに置き忘れてしまったのだろうか。


「何もかも俺の方が勝ってる!身長だって同じくらいなのに!!」


話を聞いていないようだ。失礼な子だ。

私達は久しぶりに会ったというのに何の感慨もない。


彼の名は敦人(あつと)


私は帝の一人娘。敦人は帝の弟の一人息子で上に姉が二人いる。

私達は従姉弟なのだが、敦人は私の父である帝の元へ養子に入ることになった。帝には私という女の子供しかいないので後継にということらしい。


なので彼はゆくゆくは帝太子(この国の皇帝は『帝』と呼称される。)となる身の上である。

そんなお方がこんなところで、本当になぜこんな事をしているのだろうか。


「·······」


私、右子(みぎこ)は後悔していた。

ここでやっかいな従姉弟に会ったこと。

今日は天気がいいから〜と、ふと庭園を散歩しようなどと思ってしまったことを。

いつも通り部屋に引き籠って趣味の絵を描いたり読書でもしていれば良かったのだ。


(······行くなら、西の庭園にすればよかったかなぁ)

西の方が雑木林もあり鬱蒼としてるので、人気が無く断然私向きなのに。




ついさっきの出来事だ。

音がまだ耳に残っている。



パパパパパンパン パンパンパンパーン!!



·········この事件の幕開けはかなり衝撃的な爆発音だった。

彼の足元を見ると、まだ煙をくゆらせている火薬の残骸が無惨に散らばっている。

前世の記憶で言うと、あの軽快な衝撃音は、恐らく爆竹みたいなものではないかと思う。(前世でも見たことはないけれど。)


爆竹といっても火薬、危険物だ。

それをこの御所の庭園で彼はぽいっと投げたのだ。

それが帝位継承権をもつ帝弟の息子殿下だといえば只事ではない。

事件だと言われてもおかしくない由々しき事態だ。


義理の弟になると両陛下から説明されていたけれど、彼はどういった子なの?不安になる。





爆発音を聞きつけて、遅れ馳せながら向こうから近衛兵たちが駆けつけて来るのが見える。既にここにいた数名と合流して私と敦人を取り囲んだ。


けっこうな大人数になり、大事になる予感で背筋がひゅっと冷たくなる。

近衛兵たちは瞬時に判断し、私を背にして敦人の前に立ちはだかり、全てがすっかり私の味方についてしまったような態勢だ。

しかし手は出さず、状況は膠着状態である。

他に私の侍女達も私を守るように先ほどから傍らに侍って居る。

皆一様に、彼を『ヤベー奴』認定してしまったようで険しい顔をしている。


私は改めてこの少年を見た。


今までの過去の記憶を総動員してみても、彼自身の印象が薄い。敦人には上に二人の姉達がいて二人共に目が覚めるような美女なのでついそっちに目が行ってしまうせいなのか。


「産まれた順では私の方が先ですしね。······」


私は躊躇いがちに言った。

そもそも姉か弟かなんて譲ったりできるものではないし、帝籍上でこれを偽造するのは罪となる、たぶん。

産まれた順は普通変えられないと思うのだ。


「順って、たかだか1時間、いや、正確には55分差だと聞いたぞ!?我々の差は55分!!」


敦人は一層怒って真っ赤っ赤になっている。

「えーと、つまり、私と姉弟になるのが嫌ということですよね。」


それで、その意思表示に爆竹を投げつけて反抗したのか。

あの時、私は東の庭園に出たばかりで、音と爆発に気づいて眺めると、敦人が煙の向こうに立っていた。

彼は私の姿を確認してからこちらへ爆発物を投げたのだろう。


「その通りだ!!」


カチンときた。

頭に血が上ってる人と長く話すのは、もう無理。


でもここで部屋へ戻っちゃうのも冷たいかな?

暫く話を聞こうか······ここは姉らしく?



「·······もう、落ち着いて下さい。私は貴方が義弟になって嬉しいですよ?」


彼はもっとなおさら顔を赤らめて、しかも狼狽えた。

「······っ!? やめろ、もう、姉なんて嫌なんだよ!!」


「???」


ちょっと意味が分からないけれど。やっぱり彼は「養子」ではなく「姉」に対して過剰に反応してるように見える。

そういえば、彼には実の姉が二人もいる。

姉ばっかり増えて嫌なのだろうか。


そしてそれから、結局、敦人は近衛兵たちに拘束されて連れ去られてしまった。


·······秋の庭園は再び静寂を取り戻した。


私はようやく部屋に戻ることができると、やれやれ溜息をつき庭園を後にした。


挿絵(By みてみん)

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