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197話目 右子もどきたちの腐敗する世界 右子side

「で?どうなの?」


アラディア様はいつも通り堂々たる態度だ。

素敵です。


「はい?」


「薬よ薬!解呪薬は飲んだの?」


「あ、いえ、今はラクーンが持っているようなんですけど、トイレを探しに行ってしまって··········」


「は!?あのアライグマが!?

トイレって、·············何処にあるのよ!?」


「私も知りません。一応、ラクーンはこの“右子の夢の世界“には来てると思うんですが··········」


『あの獣か········あいつも処分せねば。

賤しき身で右子様に抱かれたのだから当然だ·········』


また厳しい口調になって独り言を言っているアイン王子は、担いでいた妖精を入れたズタ袋を揺らした。

私は血の気が引いてしまう。


「あの、その妖精たちどうするんですか?

その妖精たちやラクーンは、眠ってこの夢の世界に来たわけではなく、生身の身体のまま来たみたいなので、手荒なことは命に関わるんじゃないかと········」


アイン王子は鼻を鳴らして、冷酷な瞳をズタ袋へ向けた。


『こいつらの命だって?

そもそも遠い昔、こいつらは僕と右子が作った神が宿らなかった仏像に、精霊やら幽霊やらが入り込んでしまったのが始まりなんだ。

当時は仏像の廃棄のやり方がずさんでね。

それから勝手に繁殖してもう駆除できないぐらいに増えてしまったんだ。虫みたいな奴等だよ』


「そ、そんな··········!?」


衝撃の事実が私を襲う。

アラディア様は首を傾げる。


「ゴミはゴミ箱にって話かしら?」


何、この人たち!?冷たすぎない!?

血も涙もない、人とは思えない。

そうだった、人間じゃないのよね、やっぱりね!


『全く、あんな輩が僕と右子の愛の結晶に入り込んだと思うと虫唾が走る··············!』


アイン王子は憎々しげに呟いた。

仏像の解釈には、私と師匠と相違があるようだった。



でも··········、ここは異世界よね?

前世の世界で師匠と私が作った仏像の話が、この異世界の精霊やら妖精に関係があるわけがない気がするんだけど?


その意味が私には分からない。

え、前世と今のこの世界って··················違う世界だよね?


それとも、みんなでこの異世界に転生したとか?



私は大きく首を振った。


「とにかく、ラクーンを無事に保護しないと、薬も入手できません!」


「あのラクーンってやつも妖精?妖怪?なんだろ。

じゃあ、トイレどこって、自分で勝手に現実世界へ帰っちゃったのかもね」


アイン王子がつまらなさそうな表情で言った。



「そ、そんな········」


「困るわよ、そんなの········」


あら、アラディア様まで?

惚れ薬の解呪薬なんて私の事情なのに、心配して下さっているのかしら?



「ところで、魔女の右子、そのベールはどうしたの?」


そう聞かれて、アラディア様がぐるりと首だけでアイン王子の方を向いた。


「救世主··········

このベールはドッペルゲンガー対策ですわ。


私はこの右子の夢の世界が怖くて怖くて、しばらく寝ることを禁じていたんですわ。

だけど、今回だけは、現代の右子が薬を飲むのを見届けたくて········」


ええ? 私はキョトンとしてしまう。


この魔界もどきの世界は魔女っぽいアラディア様にマッチする最高のロケーションだと思う。

寧ろこの世界の(あるじ)になったアラディア様がカスタマイズした魔界もどきの世界とすら思える。


「アラディア様?怖いだなんてどうしてですか?

こんなにアラディア様に相応しい刺激的な世界なのに」


「黙りなさい!ここは腐りかけた世界よ!


···············私の顔を見ないでよ!?


現実世界で、私とあなたはそれぞれ違う体に入ってたから同期しなかっただけ、ここでは剥き出しの状態だから危ないわ。


現代の右子、あなたは危険よ。

私は一度はあなたと同期して勝ったと思ったのに。すぐにあなたは私から飛び出してしまった········

そして、他のスペアの中にちゃっかり納まってる。


あなたはいいわね。幾らでも身体が作れるものね?

私にはこの身体しかないのに··········」


「幾らでも身体が作れる?

それに、ドッペルゲンガーや、同期って、

アラディア様はもしかして、前世の右子の一人なんですか?

そんな···········」


偉大なるアラディア様が、前世の私だった?

救世主のようなすごい人が右子の中に入っていると思っていたのに。


そうして、私は一歩、アラディア様に歩を進めると、彼女は同じだけ後退りするではないか。

まるで私を恐れているかのように。


「げ、現代の右子。あなたがいないと···········この身体は朽ちて崩れ落ちて無くなってしまうわ。

い、いけない!早く、く、薬を·······」


はぁっ、はぁっ、

アラディア様は尋常ではない様子だ。

もしかしたら重い病気なのかもしれない。





『魔女の女の子!!!』


「!?」


えっっ·············タヌキ?

ふわふわなタヌキが厳めしい顔つきでそこに立っていた。


『薬っ!持ってきたぞーー!』


「!?もしかして、ラクーン!?」


『そうだぞ!俺はもう自らの呪いを解き、アライグマじゃなくなった!俺の真実の姿はタヌキなんだ!!』


「???」

えっ、呪が解けたけど、タヌキなの?


「でも呪が解けたのね!よかったね~!」


私はラクーンを抱きしめた。

ああっふわふわもふもふ!

なんだかアライグマよりふわふわなのね·········


「こいつまた·······!離れろ!

お前呪われてたんだな。そしてそれは、心底どうでもいい、タヌキがアライグマになる呪だったんだな········」


アイン王子はラクーンを掴もうとした。すると、ラクーンのふわふわの毛の間からピョン!っと小さな何かが跳ねた。


「なんだ、まだ妖精がいた············」


アイン王子は妖精を取り逃がしていたかと、ズタ袋を開けて入れようとした瞬間、



「あっ!!!!」


アイン王子は叫び声を上げた。


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