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195話目 彼は最弱をアピールする 右子side

「え、ここって··········魔界?」


妖精の蔦をアイン王子と綱渡りをして辿り着いたのは、魔界もどきの世界だった。


辺り一面怪しい空気が漂っている。

その世界は草木の生えない禿山と、黒い林とで構成されており、林には真っ黒のトゲトゲの木が生えている。

そのトゲトゲの木々の間をコウモリのような生き物が、キシャー!!と鳴き声を上げながら飛び交っていた。木々の隙間からは四ツ足の名も無き獣たちが四方八方の様子を伺いつつ潜んでいる。

薄暗い空には幾つものカラスの群れが互いに高く空を行き過ぎて、ギャアギャアと不安を誘うような鳴き声を存分に撒き散らし、あっちにこっちにと飛び廻っていた。


身の毛もよだつような、不思議で不快感を煽る風景だ。


空はどんよりと雲が覆って渦巻いていて、今にも雨が降りそうだった。


「この前来たときはただの荒野だったのに··········」


「最近は僕もこっちへは来てなかったけど、·········いつの間にか荒れたね」


ここって本当に“右子の夢の世界“なのよね?

自称番人のアイン王子はこちらはあまり管理してくれなかったようで。


「僕はただの番人だからね。

この夢の世界の管理者は右子の魂を持つ、君だよ。

(あるじ)の魂が不在になるとこうなってしまうんだね」


アイン王子は私の胸元の心臓のある場所を指さした。

私の心臓がドキリと撥ねた。


「えっ、············でもこの世界には他にも右子が沢山いるじゃない?」


「彼女らは所詮は記憶でしかない。

この世界で暮らしているようで、実は過去の出来事を繰り返して行動し、生きている真似事をしてるだけなんだ。

全ては過去の記憶の動画を繰り返して再生しているみたいなものなんだよ」


「でも、黒い右子は自分の判断でアイン王子に復讐しようとしてたような気がするけど?」


「そうだね。僕も驚いたけど、どうやら右子の記憶それぞれに力が少しずつ宿っているみたいなんだ。たぶん僕の無尽蔵に溢れている力の影響かな、その力を受取って自由に動けるようになったのかも。

黒い右子は、同期を繰り返してそれぞれの力が集まって大きな力を持ってしまったんだ。

でも、まあ、あの程度の復讐は過去で何度かあったから、それすらリピートなのかもしれないけど」


え、過去であった?


「ええ!?アイン王子、というか神様、が過去で右子に襲われたことがあるってこと?」


アイン王子は首を竦めて寂しそうに笑った。


私は信じられない。

前世の私って、攻撃するような人間だったの?


「神様·········ね、当時はね?

ちなみに今はもう神様じゃないからね?」


アイン王子は無尽蔵に力を持つというくせに、やたらに神じゃないのを強調すると、そのまま言葉を続けた。


「···········僕は君に対してはずっと最弱だった。

君は圧倒的に強くて·········強すぎるんだ。


だから、僕は毎回毎回試行錯誤して···········結局はいつも君に憎まれ、完膚無きまで打ちのめされて終わるんだ···········」


「·········そうなのね?」


彼が最弱とはどうしたことだろう?

前世の私に加害者の可能性があるとはいえ、

記憶の無い私には残念ながら分からない問題だ。

私は微笑して誤魔化すしかなかった。


アイン王子は私からずっと視線を離さない。


贖罪を求められても困ってしまうの。

私たちはその時に帰ることはできないのだから。


そうそう、ここに来た目的を忘れないようにしないといけない。




「妖精たちはどこかしら、薬は············ああっっ!」


少し離れた地点で、地面に妖精たちが倒れているのを発見する。

先ほどアイン王子が脅した妖精たちのようだ。



「だ、大丈夫!?」


私は一人の妖精を抱き上げた。


『ううう·········どうして、どうして?

いつのまに、僕たちは魔界にきてしまったのか?

りゆうが、ほんとうに、わからないんだ········』


そう言って銀髪に青い瞳の妖精の男の子は、がくりと項垂れて動かなくなった。


『しょ、瘴気が、強すぎて·········』

『空気が腐って臭って苦しいよう』

『魔女の女の子········助けて········』

『あくじょ〜〜たすけて〜〜』


「黙れ」

アイン王子はあくじょ〜と溢した妖精を踏み潰した。


『ヒッ······、神様だ』

『うう·····逃げろ·······』


逃げたくとも体がそれについて行かず、妖精たちは地面の上でクロールをかくようにジタバタしている。


妖精たちにはここの禍々しい空気が身体に合わないようだ。そういえば、妖精って綺麗で神秘的な泉や森に住んでいるイメージだものね。


踏まれてペラペラになった妖精の子は、次第にゆっくり膨らんできているので、そのまま戻りそうで安心する。



「おい!!お前らいい加減出て行ってくれない?」


「え··········ここは兎にも角にも体調を心配して介抱する状況じゃない?」


私はあまりに冷たい仕打ちだと思い、アイン王子に確認を取った。


「あっ、あっあっ!そうだよ、君たち大丈夫!?

やっぱり体調悪くなったのってここに来たからだろ?

早く戻った方がいいって思う!ここ空気汚いし!

最初からそう思ったんだけど!」


アイン王子は力なく横たわる妖精たちを掴み上げとりあえず一箇所に集めたかと思うと、表出させたズタ袋に入れている。完全に物扱いだ。


神様ってみんな妖精に対してこういう態度なのかしら。

そんなはずはないと思うけど。



ところで、薬は見当たらない。


私はラクーンをさっき抱っこしたときに、ペットボトルのようなものをしましましっぽに巻きつけているのに気づいていた。

ラクーンはトイレを見つけただろうか?

この世界でもついぞトイレを見かけたことがないから心配だわ。





「ホーーーッホッホ!気持ちの良いツンドラ気候ね!」



「え·········」


そこへ、背後から高らかに甲高い笑い声が、この魔界もどきの世界に響いた。


振り返ると、そこには黒い喪章のモーニングベールを深く頭から垂れ下げた美しげなる喪服ドレスの女性が立っていた。


細い編み込みがされた分厚いベールで表情は伺い知れないが、誰かは瞭然だった。



「魔女の右子」


アラディア様だった········



彼女の真っ黒な装いが刺激となって私の瞼に沁みてくる。

それは存在するだけで、周囲へ自らが強者だと心に訴えてくるような。


彼女はどこまでも漆黒。

まるで悪の華のように

堂々とそこに立っているのだった。


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