193話目 彼女はきっとスリーピング アインside
とりあえず(前世の記憶)は終了。
地獄へ堕ちろ!
お前が堕ちろ!
と崖の縁で敦人と僕がもつれ合っていたら、右月も追いついて来てくれた。
「えっ二人で何やってるの?
もういないと思ってたわ。
この崖から落ちたら目が覚めるんじゃないの?」
「·········やっぱりそう思う?」
敦人が言う。
「これは過去の記憶の夢で、これまで新しい出来事は起きなかったし。多分ここに落ちたらそれで最後なんじゃないかしら?」
「確かに!僕もそう思うよ!」
僕は意見がぴったり合って嬉しくなり、右月の手を取った。
再び右月を目の前にすると、さっきまでの鬱な気持ちはいつの間にか消え去っていた。
そうだよ、一人で飛び込もうなんて土台無理な話だったんだ。
これでこの地獄のような鬱な夢が終わるっていうなら、そして何より右月と一緒なら、すぐにも崖から飛び込めると思う。
「もうこれで最期なんだし、この夢も最後だよね!」
僕はさっそく右子様と手を繋いで崖から飛び降りようとした。
するとシウが騒いだ。
「あっあーーー!!」
「何だよ?シウ?これは夢なんだし、今回は“心中”を譲ってよ!」
僕が口を尖らせて言うと、シウの顔は真っ青だった。
「てっ、手を繋げないんだった!思い出した!!
ホッ惚れ薬が!眠り薬で!アラディアが、右子を夢の中へ幽閉するって言って誘拐するんだ!」
「はあ?何言ってるんだ。アラディアって、人の名前?
外国人?」
だけど、右子様を········幽閉?誘拐?
許し難いワードにぞわりと鳥肌が立つ。
僕は眉を寄せた。
誰だ!アラディアって奴は!?
「あ、アラディアって魔女の右子な。本名みたいだぞ」
「···········え?··········ああ!」
そうか·······! 魔女はそんな名前だったのか。
神はけっこう名前が曖昧なので僕は覚えるのが苦手だ。歴々の右子の顔は覚えているけれど、名前だけはなかなか覚えられないんだよね。
だから、夢の中の彼女たちの名前も全て同じに、現在の『右子』の名前に更新してしまったのだ。
「確かにそう魔女の右子が『右子の夢の世界』の中で言ってたよ··········現代の右子は長い眠りについたって。
僕は右子様を起こす為に『右子の夢の世界』から更に右子様の夢の中へこうしてやって来たんだ」
「は?『右子の夢の世界』ってなんだ·····?
そこで、アインやアラディアは話をしたってことか?
·······狂ってやがる。
そして、ここは右子の夢の中のその又夢の中だっていうのか?」
僕が頷くと、
敦人は混乱してたけど、自分がどうしてこの夢まで右月を追ってきたのかを話した。
「惚れ薬の解呪薬が、騙されて、実は眠り薬だった?
·········」
僕はアラディアがしでかした事の顛末を聞いて項垂れた。
だって、全てはもう遅かったからだ。
右子様は妖精の運んだ眠り薬を飲んで、右子様の夢の世界で眠りについていた。
始めは麻亜沙の夢の中だった。
僕が麻亜沙の眠りこけてる部屋の隣の右子様の部屋で、
僕なりにソファーを出して寛いで待っていたら、すごく久しぶりに右子様がドアを開けて入って来た。
「あれ?アイン王子どうしてここにいるの?」
「やだなあ、僕はいつもここにいるよ。
ずっと眠ってなかったの?待ってたんだよ」
「あ、そうね。寝るのを我慢してたから·······」
「え、なんで」
「えっと、··········何でだっけ?」
右子様は首を竦めたが、その仕草は、紛れもなくこの世で一番可愛い生き物の動作だった。
麻亜沙の夢の舞台はまだ学校の屋上だった。
僕は右子様に屋上のど真ん中に表出させていたソファーに座るよう勧めた。
「あ、ありがとう············」
右子様は遠慮がちにソファーの右端に腰を下ろした。
「···········義務項目は3つ···········
利用者と接触を増やす。
利用者と同じ空間にいるように努める。
利用者の望みを補償する。
··············」
「え?それって··········」
どこか聞き覚えのあるフレーズだった。
右子様はボソボソそう言っていると思うと、何と!僕の方へ数ミリ寄った。
僕は焦れったくて、もっと近づきたくて、寧ろ僕の方が右子様の方へ寄って座りなおす。
「!」
右子様は硬直しているのだった。
僕は彼女が惚れ薬を飲んでいたのを思い出す。
うーん?多少は効いているってことなのかな??
この前の、この屋上の遊園地でのエスケープも、しっかり寝落ちするまで付き合ってくれたし。
そういえば、魔女の右子が作った惚れ薬については、前世の事も合わせてはっきりは覚えてないけど、
もう少し色々効能があったかも············
「あ!さっきの『義務項目が3つ』って、惚れ薬の効能だ!
···········!
じゃあ、右子様が僕に補償補償って煩かったのは『利用者の望みを補償する』って効能だったんだね!」
右子様は頷いた。
僕はすぐに右子様の手を握って語りかけた。
「ご、ごめんね!僕がおかしな薬を飲ませたばっかりに·······すぐ解呪するよ!あ、でも薬を作った本人じゃないと解呪できないんだった············」
「それなら大丈夫よ。アイン王子。
もうすぐ妖精たちが薬を持ってきてくれる··········」
そう言い終わらない内に、
ヒュルルルルルル〜
ド•ドスン!!!
学校の屋上に墜落の尻もちの衝撃音が響いた。
「い、イッテえ〜〜〜!!!」
真っ逆さまに落ちてきたのは、
足をバタつかせ涙目になっているアライグマだった。
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