192話目 (前世の記憶) 神はポキリと街を折る 右月side
私が18歳になった時、師匠が迎えに来た。
一緒に仏像を彫る仕事をしろと言われて、ホイホイついて行く人がいるだろうか?
その際にお断りした私に機嫌を悪くして、師匠は地上を揺らしてしまったのだ。
師匠は、実は宗主神なのですごい力を持っている。
地を揺らすなんて朝飯前なのだ。
師匠にとっては軽く揺らしただけのつもりだったのかもしれない。
だけどその時、私の大事な人も家も職場も粉々砕かれてしまったのだ。
私は度々誘拐に狙われたり傷害事件に巻き込まれたりと場を乱してしまう、いわゆるトラブルメーカーというやつだった。
そんな私が平穏無事な居場所を見つけるのはとても大変で、何かとトラブルの多かった高校を中退して、手に職をつける為に就職した矢先だった。
私が叫んだ時、今までの連綿と続く歴々の前世の記憶が押し寄せて来た。
圧倒的な記憶の渦に巻き込まれて、これっぽっちの右月の記憶は、記憶の隙間に入り込んで見失ってしまった。
彼は18歳になれば必ず現れると決まっている。
彼が現れれば私の人生は終わったも同然。
············この人は遥か紀元前からの、私にとって死神ともいえる神様だった。
『久しぶり。·········さあ、行こうか?』
彼は、
月夜に宙に浮んで、一つ宙返り。
地震でも持ち堪えていた東京スカイツリーを
手の仕草のみでポキリと折った。
折れた上部分が粉々に崩れ落ちて行くのが遥か遠くに見えた。
そして今度は東京タワーをも、ポキリ。
バラバラバラ·········
瓦礫が下の街へ降り注ぐ。
今夜は上空に巨大な満月が怪しく光る。
地上では人々が余震に逃げ惑っている。
夜空に引き上げられて宙に浮かんだ私は、
その地上の様子をまるで実感なく眺めていた。
『ああ、·············ここは危険だ。
君を壊したくない。
安全な所に連れて行っていい?』
やっぱりこの神はイカれてる············
これだと軽〜く地球が滅亡するかも·············
こ、ここは穏便に··············
大人しくするしかない
「ハ、·········ハ·············」
私は全身の震えが止まらない。
唖然と口が開いたままで、何とか息を吐き出した。
ハイが言えなかったのに、
そう解釈した彼に抱き竦められ、
私は拐われた。
右月の記憶は空っぽになっていたけれど、
彼との奇妙な思い出に溢れていた。
私はようやく彼に捕まって収容されるのだ。
動物園の檻のように。
もう逃げ回ることはないと
私という獣は、
絶望の内に安堵すら覚えるのだ。
一年後、森の工房に敦忠が来た。
彼は私の弟だとゴリ押しに主張した。
それで、束の間の、静かな日々が終わりを告げた。
そして、私は右月の記憶が戻った。
震災で失ったものの愛しい記憶。
何と、師匠は私の愛しい者たちの仇だったのだ···········!
彼は神の気軽さで、
何の気も無しに工房の従業員を確保するという理由だけで、未曾有の大地震を起こしたのだ。
ということは、私は仇と暮らしていたことになる。
まさかあんな事をされておいて、そのままというわけにはいかず·············
彼と私は紀元前からの知り合い。
だけど、
私は彼に復讐をしなければならない。
「師匠、、神様を作ったら、私は自由になれるという約束ですが·······」
私は師匠に尋ねた。
私はすでに稲荷神と敦忠と二柱の神を誕生させていた。
『······ゴホンッ!
そ、そうだ。
何柱作ったらと約束はしていなかったな?
この世界は三千世界と言われることがある。少なくとも三千柱は必要だ』
「さ、三千!?」
それはあまりにも···········無理です。
私は涙目になってしまう。
私は記憶を取り戻したので、早く私の場所に帰って震災の復興をやりたい。
『ああ、泣かないでくれ。
成果が必要なんだ。
そうだ、そろそろ奴を天上世界へ向かわせてはどうか?』
師匠はここに居座る敦忠にしびれを切らしている。
天上世界に出して早く神を増やしたという成果を出したいようだ。
だけど残念ね!
私に敦忠を行かせるつもりは毛頭無かった!
だって天上世界は戦争真っ最中だという。
危なすぎるじゃない。
敦忠には地上で人々を救うヒーローの仕事があるし。
それにしても神々が戦争してるなんてびっくりだ。
人間のように死ぬことがないのでこの現実世界よりもずっと激しい戦闘らしい。
元々は師匠と今までの前世の私が神を大量生産したせいなんだけど。
数を増やしたせいで色々な宗教の派閥に分かれてしまい天上に留まらず地上の人間を巻き込んでの闘いに発展してしまったのだ。
神の行動が人間に似ている気がするけれど逆だ。
そもそも神を真似て生まれたのが人間なのだ。
私が敦忠を最凶兵器に作り替えたのは··········逃げるついでに、復讐を手伝ってもらう為だ。
私には復讐する使命がある。
敦忠には悪いけれど、
敦忠はきっと分かってくれるはず。
復讐なんて本当はしたくない。
だけどしないといけない。
私の中の無数の師匠にまつわる記憶たちが、
師匠と私の結末を見守っていた。
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