191話目 (前世の記憶) 僕は死ぬしかなかった アインside
「えええーー!!アイン王子、··········アイン王子なの?」
驚愕した右月の叫び声がこだました。
彼女史上、最も大きな声かもしれないと僕は思った。
もし、まだ僕が宗主神ならこの大きな声は素晴らしい、心を揺さぶられるとか何とかいって目覚まし時計に使おうとしていたかもしれない。前世の僕って怖い。
僕は頷いた。
「右子様········!
ごめん、ね。前世までの僕は傲慢で無神経で···········
右子様をいっぱい傷つけていたんだね」
「!そん•な•こ•と·············」
あるんだね。
右月はまたまた俯いてしまった。
そもそも震災を起こしてまで誘拐したのは最大の過ちだろう。謝って済むことではないよね。
今思えばあんなに派手にやらなければ良かった。
もっと小規模で良かったのだ。
墨田区とか荒川区とか練馬区だけで良かった。
そうしたら助かった人々が大勢いただろう。
でも、あの時は完膚無きまでに右月の環境を壊してしまった方が、未練もなく穏やかな気持ちで僕についてきてくれると思ったのだ。
あの時は、僕も神だから、感覚が人間とは大いにズレていた。
何せ、僕はこの世界ができたときに一緒に生まれたような壮大なスケールの神様だったのだ。
そういう存在が時々人々に天変地異を与えるというのは自然現象の一部と見なしてもらえないだろうか。
·········ただ、今回のように目の前に天変地異を起こした神が擬人化してのほほんと隣にいたら、袋叩きにされても文句言えないよね。ほんと、すみません。
「結局、アインは神なの?人間なの?」
敦人は疑問をぶつけてきた。
この答えを間違えると、···········右月に嫌われるかもしれない。
右月は神が嫌いなのだ。
それは今までの僕の歴々の前世での行いのせいに他ならない。
「僕は人間だよ!
そうさ! 神様ってやつは元来、無精で無頓着な性質で時間の感覚もおかしいし、金銭感覚も欠如していて、いつだって日常生活は破綻してるんだ。
一緒に生活するのはキツいって今なら分かるんだ。
それが分かると言う事が、僕が今世では人間だということの証だよ。
僕は人間になったからこそ、今の今まで右子様にしてきた無礼の数々を詫たいと思うようになったんだ!」
「な、なるほど?」
敦人は勢いに押されて、少しは納得してくれたようだ。
そうさ、僕はこの上なく平凡なただの隣国の王子なのだ。
「·················」
右月はまだ下を向いていた。
「··············嫌い·············」
いや、すごーく小声でこんなことを言っていた··········
僕に聞かせるつもりはなかったのかもしれないけれど···········
「死のう」
僕は決意した。
僕は凄い勢いで走り出した。
走るしかなかった。
「待て!ここは夢の中だろ!?死ねないって!
そもそもどこへ向かってるんだ!?」
敦人が後を追ってきて声を張り上げる。
「················」
僕は答えない。
泣いて、嗚咽が漏れて話せないんだ。
僕の行き先は·········あの切り立った崖だった。
そして、あっという間にこの崖の上に着いてしまった。
僕は前世の、この崖で起こった事件を思い出した。
過去の夢にも強制力ってあるのかな?
この夢は、ゆる〜くだけど、何だかんだ実際の出来事をリピートしているみたいだ。
だってまた僕はこの崖に立っているんだから。
実際の過去なら、右月が宗主神を強く拒絶して、激怒した宗主神はあの切り立った崖に右月と敦忠を連行する。
そこで右月に問うのだ。
天上へ僕と行って神になるか?
奈落へこの男と落ちて地獄へ行くのか?と。
右月は、躊躇いもせずに崖を蹴って奈落へ落ちて行ってしまった···········
それに続いてすぐに敦忠も崖を蹴って···········
敦忠の改造された身体には右月お手製のジェットエンジンが付いているはずだったのに、·············作動しなかったのか。
そうして、二人は崖を真っ逆さまに落ちていった。
ビュオオオオ·········
「あああ、高いいい·······」
荒れ狂う風が吹き荒ぶ。
僕は、地べたに這いつくばって崖から奈落を覗き込んでいた。
遥か遠く先の暗闇は真っ暗でどこまで落ちていくのかまるでわからない。
僕は腰を抜かしたようだ。
全く、我ながらこのぐらいで··········人間って身も心も脆くて困ったもんだ。
「············ここから前世に落ちたと思うとな··········」
敦人が追いついてきて隣に並び崖を覗く。
「········ここは天上世界まで最短距離だけど、下は奈落の地獄だよ。
だから、飛ぶのに自信のない神が近いからってここから天上世界へ旅立つのは、一種の賭けなんだ。
もし失敗すれば地獄落ちなんだから」
「まるで地獄の釜のようだな。
落ちるなんて·········かわいそうに·········」
敦人は前世の自分たちを懐かしんで、そして哀れんでいた。
こんな風に二人が亡くなったのは紛れもなく僕のせいなのだと、心が締めつけられる。
「で?それから?」
「え?」
「俺たちはここで心中したけど、
それから宗主神はどうしたんだ?工房へ戻ったのか?それとも天上世界へ?」
···········敦人は聞き捨てならない単語を使った。
「はあ? 『心中』!?シウと右子様が!?」
敦人はムッとして言い返す。
「だってそうだろ?
時を同じくして男女が一緒に亡くなったなら、それは心中だろう」
本当に、片腹痛い。
「ハハッものは言いようだね。
心中なんて両想いの恋人しか許されない行為じゃないの?
シウって意外と図々しいよね···········」
「何と言われても、心中だ」
敦人は、本当に頭が固い。
「それにさ、僕が右子様落ちちゃった~って、はいサヨナラって、そんな風にいつもの日常に戻ったと思う!?」
敦人は、驚いて僕の顔を見た。
「まさか、」
「もちろん、その後僕も崖に飛び込んだよ?
つまり、僕も心中したと言えるな!」
「それは···········後追い自殺、だぞ。
だけど、神様ってやつは死なないんだろ?」
「死ねるさ!
奈落っていうのは特別な死をもたらすんだから········
転生して僕がここにいるんだから実証済みだ!」
「奈落で、·········神の転生ができるのか?」
ビュオオオオ·········
風がまた吹き荒んで、
僕の身体はガクガク奮えている。
ここで本当に落ちたら、どうなるんだろう?
目が覚めるって感じだといいんだけど。
「夢ですら無理なのに、本当に後追いなんて出来たのかよ··············」
敦人は疑いの目を向けていた。
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